「Get Wild」30周年。「シティーハンター」ありきで完成した楽曲の秘密をTMの3人が振り返った

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今でも、たまにYouTubeでアニメ『シティーハンター』を観る。本編ではなく、エンディング動画をだ。最高のPVではないだろうか? 『シティーハンター』エンディングは、TM NETWORKにブレイクをもたらした「Get Wild」の最高のPVである。

バナナマンの日村勇紀が、この曲との出会いを「Get Wild ショック」と呼んで笑いを取っていたが、文言として的確すぎる。まさに、ショック。「週刊少年ジャンプ」読者だった幼き頃の私がアニメ化された『シティーハンター』の第1回を観て、何に最も衝撃を覚えたかというと、まさに「Get Wild」だったから。日村さん、僕も「Get Wild ショック」を受けてますよ!

ところで。小室哲哉は、「Get Wild」制作時の心境を以下のように語っている。
「アニメ『シティーハンター』の主題歌ありきで作った曲ですね。TM NETWORKとしては、ちゃんとしたタイアップというのは、はじめてだったんです。でも、最初は『エンディングテーマなのか。オープニングじゃないんだ、やっぱり……』みたいな後ろ向きな印象でした(苦笑)。(中略)でも、今となってはあのエンディングでのこだわりを持った使われ方がよかったと言われますよね」(「小室哲哉ぴあ TM編」インタビューから)

岩崎宏美「聖母たちのララバイ」を『シティーハンター』でもやろうとした


シングル「Get Wild」のリリース30周年を記念して、オリジナルからライブテイク、リミックス、カバーまで36バージョンを4枚組CDに収めたコンピレーション『GET WILD SONG MAFIA』が4月5日に発売された。全曲がGet Wild!

というわけで、音楽雑誌「Sound & Recording Magazine」6月号が「Get Wild」を特集している。


「Get Wild」がシングルとしてリリースされたのは、1987年4月8日。今回の特集にて、まさに30年前の楽曲制作時の状況についてを小室が振り返っている。
「サンライズさんからいろんなオーダーも受けていたんですよ。それを踏まえてデモづくりをしていたんです。例えばイントロが静かめに始まるのも、『シティーハンター』の最後の場面とオーバーラップするようにしたいという要望があったので、ああいったシンプルなイントロにしたと記憶してますね」

この曲で作詞を担当したのは、言わずと知れた小室みつ子である。
「『シティーハンター』の、おちゃらけているけどハードボイルドなイメージを考えて、自分の中で物語を考えるんです。(中略)内容的にも都会で居場所の無い、明日どうすれば良いんだろうというような、漠然とした不安を抱えながら生きている若者たちを書きたかった」

話を聞けば聞くほど、この曲と『シティーハンター』の深き関係性を察することができる。TMに『シティーハンター』のエンディングを発注した、読売テレビの諏訪道彦プロデューサーは以下のように語っている。
「ドラマ『火曜サスペンス劇場』で、岩崎宏美さんの『聖母たちのララバイ』が大ヒットしていたころで、ドラマの最後のシーンでこの曲が流れ始める。それを『シティーハンター』でもやろうとしていたんです」
なるほど!

眠かった木根が、帰りたくて「良いじゃん!」と褒めちぎる


ここからは、純粋に楽曲としての側面から「Get Wild」を掘り下げていきたい。作曲者である小室は、この曲のメロディをどのように作り上げていったのだろうか。
「それが『Get Wild』に関してはどうやってメロディを思いついたのか、本当に分からないんですよ。(中略)例えば『My Revolution』はインスパイアを受けた曲があったなとか、大体記憶のどこかにあるんですよ。TMでも同じで。ベース・ラインもどのように作ったのかあいまいな記憶しかないですし、ちょっと特殊な曲なんです」

木根尚登は、この曲のデモ作りには立ち会っていたそうだ。
「あれはツアーか何かの帰りでそのまま小室君と道玄坂にあったYAMAHA R&D TOKYOに行ったんです。(中略)多分4〜5時間くらいたったときに、“できたよ〜”って。(中略)そのときは……こんなこと言ったらファンに怒られるかもしれないけど、もうとにかく眠たくて、早く帰りたくてさ。“良いじゃん! カッコ良いじゃん!”って言って、彼を車で家まで送っていったんです(笑)。でもそれが『Get Wild』ができた日だったと記憶していますね」
これは、「導かれてる」という表現が正しいのだろうか? いつの間にか形になっていたかのような口ぶりではないか。

ここで一つ、豆知識を紹介。と言っても、マニアの中では有名話なのだが。EPIC・ソニーのディレクターである山口三平氏は、「Get Wild」をスタジオで聴いた時について以下のように振り返っている。
「“すごくいいよね”と話をしているところに、小室さんが“気づいた? スネアが入っていないんだよ”と。それはよく覚えていますね。確かメンバーも居たんですが、小室さんと伊東さん(エンジニアの伊東敏郎氏)以外、言われるまで誰も気付かなかった」

「Get Wild」を熱く語る日村勇紀


それにしても、今回のコンピレーションアルバムは趣旨が凄い。何曲目を再生しても、宇都宮隆の「ゲゲゲゲゲ」という声が聴こえてくるのだから。

以下は、TMのライブを手がけるサウンドデザイナー・志村明氏の弁である。
「今回のアルバムでもライブ・バージョンが多いですよね。(中略)ライブでオペレートしていると、ウツの声がすごく重要だとつくづく感じます。どんなにイントロが変わっていても、TKがどういうアレンジを施していても、ウツが歌い始めた途端、TMの世界がそこに広がる」

肝心の宇都宮は、この曲、そして今回のCDについてどう考えているのだろうか?
「確かに思い出深い曲なんで、いろんな意味ですごくインパクトがあるんですけど、今回のアルバムの方がインパクトがありましたね。曲の追悼企画みたいで(笑)」
「僕としては1回歌っただけで、あとはてっちゃんがいろんなバージョンを作っていたので、そんなにたくさんあるという実感は薄かったですけどね」

小室はかつて、「教科書に載るような曲を書きたい」と口にしていたそうだ。そして「Get Wild」は、日本の音楽史に選ばれてもおかしくない曲だと個人的には思う。「宇多田ヒカルちゃんが僕を終わらせた」と公言する小室だが、宇多田が最も好きな邦楽曲に挙げているのは、実は「Get Wild」なのだ。

では、最後に。バナナマン・日村勇紀が語ってくれた「Get Wild」の魅力を以下に紹介したい。
「静かなところからドカーン! って感じで前奏が始まって、そこからの疾走感がすごい! 聴きながらワクワクが止まらない感じですね」

日村先輩の言葉を思い浮かべながら改めて『シティーハンター』のエンディングを観てみると、実に最高だ。
(寺西ジャジューカ)