原作のあれをまんま生かした衝撃の最終回「火花」生きている限りバッドエンドはない

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又吉直樹作、第153回芥川賞受賞作品「火花」が最終回を迎えた。いろいろと問題がありそうな神谷(波岡一喜)の豊胸が思ったよりストレートに描かれていてビックリ。放送開始からどうするのかずっと気になっていた。


最後のネタ


最後の出番、スパークスは“思ってる事と逆の事を言うと先に宣言しておけば、感傷に浸らずに思いっきり本音をぶつけられる”というネタを披露した。徳永(林遣都)は山下(井下好井・好井まさお)に対して「ツッコミがうまい」「天才」など褒めたたえるが、これはすべて逆だ。逆の事を言うというシステムを使って、山下をくさしていく。

しかし、後半から様子が変わっていく。「文句ばっかり言って全然ついてきてくれなかった」「ほんま楽しくなかった」と、面と向かってまっすぐとは言えない本音の逆を山下に向かって叫びだす。次にその本音はいつも観に来てくれた客へ、最後に自分の芸人人生についてへと矛先を変えた。会場は笑い声よりもすすり泣く声の方が大きくなっていく。

感動で終わらないところにホッとする。徳永は山下にも言いたいことを言うよう促した。山下が「お客さんに全然感謝してません!」と叫んだあと「お前最低やな」しっかりと笑いで締めくくった。

ピュアすぎるFカップの前触れ


相方の大林(とろサーモン・村田秀亮)によると、神谷は借金が積って失踪してしまったという。そんな神谷から引退して不動産屋に勤める徳永に連絡があった。徳永が指定された居酒屋に行ってみると、そこには豊胸手術をしてFカップになった神谷がいた。不気味すぎるその光景に、もちろん徳永が笑うことはなかった。

神谷が豊胸した理由は「おっさんがFカップだったら面白い」ただそれだけだ。しかし、人はなぜおっさんが巨乳なのか理解ができないので笑わない。見る人によっては不快な気持ちになってしまう。だが、徳永の過去の考察では「神谷は面白いと思ったら、下ネタだろうが過激な表現だろうが、プロセスを気にせずに目的を達成する」とのこと。それが今回は裏目に出てしまった。

思えば、神谷と徳永が出会った熱海の花火大会での漫才にも、このFカップの前触れがあった。その漫才は、“顔を見ただけで天国行きか地獄行きかがわかる”というネタだ。客を指さし全員地獄行きだと叫びまくるとんでもなくトガッたものだった。さらにこのネタを神谷は、なんの意味もなく“オネエ言葉”でやっていた。神谷からしたら普通の男がオネエ言葉でやったら新鮮で面白いと思ったのかもしれないが、これはFカップ同様まったく意味がわからず相手に伝わらないものだ。

当時の徳永は「客が『なんでオネエ言葉で喋るんだろう?』と気になってしまいネタが入ってこない」と分析しながらも、神谷の自由さ、芸人としてのピュアさに惹かれて弟子入りをした。そのピュアさがその後、良い方にも悪い方にも転がった。Fカップへの豊胸は、その極端な例だろう。何もかも上手くいかない焦りから、普段なら持っていたはずの客観性も失ってしまっていた事もそれを後押しした。

証明


Fカップの過ちに気付いた傷心旅行なのか、二人は初めて出会った場所、熱海に来ていた。そこで初めて飲んだ居酒屋に行き、漫才コンテストのポスターを発見する。神谷はテンションが上がり、徳永を誘う。徳永が出ないといくら言っても神谷は聞かず、ネタを考えるために温泉に入る。

神谷がすべてを後悔し泣きじゃくっていると、ふと、初めて二人で井之頭公園で作った即興曲のフレーズ「太鼓の太鼓のお兄さん、真っ赤な帽子のお兄さん、龍よ目覚めよ太鼓の音で」が口をつく。

「太鼓の太鼓のお兄さん、真っ赤な帽子のお兄さん、龍よ目覚めよ太鼓の音で」を繰り返し口ずさんでいると、神谷は「徳永ーー!!」と叫び、急に立ち上がってFカップを揺らした。

おそらく漫才のネタを思いついたのだろう。自分がFカップであること、Fカップで客が眼が散り漫才に集中できないこと、事務所をクビになったこと、ピュア過ぎる神谷はすべてを忘れてしまったのだ。ただ、面白い事を思いついただけで。この瞬間、「生きている限りバッドエンドはない」「芸人に引退はない」という自らの言葉を、神谷は証明したのかもしれない。

(沢野奈津夫@HEW)