信州では春になると作られる餅菓子「やしょうま」。


お釈迦様が亡くなる直前にヤショという弟子が作った団子を差し出すと、それを食べたお釈迦様が「ヤショ、うまいな」と言ったという話など、その名の由来には諸説ある。

作り方は地域や家庭によっても様々で、青のりや黒ゴマが入った細長い棒状の伝統的なものから、切ると断面に花模様などがあらわれるものまである。


もともと各家庭で作り方が口伝えに受け継がれたり、絵柄のあるタイプは地域の婦人会や若妻会などで講習会が行われたりと、広まってきた。
しかし、そうした、やしょうまを食べたことがない人や知らない人でも、誰でも作れる、作りたくなるレシピ本が今年1月に発売された。

松本博子さんの『やしょうまレシピ帖』(しなのき書房)である。


出版のきっかけについて、しなのき書房社長の林佳孝さんは言う。
「古くから涅槃会(ねはんえ)に食べられてきた、やしょうまですが、昨今は作り手もいなくなり、こうした風習もなくなりつつあります。また、わずかな作り手も高齢化しており、親から伝えられて目分量で作ることが多いため、信州の伝統、郷土食を後世に伝えるために出版しました」

郷土料理研究家の横山タカ子さん(NHK『きょうの料理』、著書多数)の推薦で会ったという松本博子さんは、長年幼児教育に携わってきた傍ら、30余年もの間、やしょうま作りに情熱を注いできた方で、小中学校や公民館などでやしょうまの講習会の講師も務めているそう。

松本さんの作るやしょうまの特徴は、色素などは使用せずに天然素材だけを用いていることや、様々な美しい絵柄があること。
実際、同書で紹介された35種のレシピを見ると、ベーシックなうめの花やさくらの花模様から、しあわせのクローバー、サクランボ、ブドウ、パンダやウサギ、ライオンなどの動物、非常に繊細で淡い色合いの「満開のさくら」「信州小川村の春」といった絵柄まで、実に幅広い。

基本的には米粉で作った生地を様々な色に分け、細い棒状にし、それらを重ね合わせて絵柄を作るという、金太郎飴のような工程なのだが、なぜこうも繊細な絵柄ができるのか。
著者の松本さんに聞いた。
「1枚の6センチ角の生地に、お米で絵を描いているようなイメージで作っています。昔は最初に、ピンクの生地はこれくらいの量で、グリーンは、白はといった具合に、組立図のような手書きのレシピを作っていました。でも、長年やっている中で色の濃淡のグラデーションなども出せるようになったんです」

色味の違う棒状の生地を重ね合わせて作るために、一般的には丸を重ね合わせたような絵柄が多かったり、時間が経つと、つないでいた生地同士が剥がれやすかったりするもの。しかし、松本さんの場合は、手ごね作業にこだわり、時間が経っても剥がれない生地の密着度を実現している。また、同じ花柄でも、茎が細く伸びていたり、花びらの色がグラデーションになっていたりと、本当に繊細な絵画のよう。
「今までは長年の勘、指の覚えで作っていたものを、誰でもレシピを見て作れるようにするために、手書きのレシピを進化させ、グラムや長さを一つ一つ正確に計量し、数値化しました」

ちなみに、「パンダ」を1つ作ると、その応用でウサギ、さらに応用でクマが作れるといった具合に、基本から応用までが順に並ぶ構成となっている。


写真を見るだけでも楽しく、「自分も作ってみたいと思う」「自分でもできそうな気がする」やしょうまのレシピ集。
春のおやつ作りの楽しみに、また、SNSのネタとして、いかがでしょうか。
(田幸和歌子)