2009年WBCに韓国代表として出場した秋信守(レンジャーズ)【写真:Getty Images】

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1次ラウンド敗退の韓国に地元メディアも痛烈批判「競争力を失っている」

 韓国野球界はこれからどこに向かうべきなのか――。WBCの1次ラウンド(R)A組の韓国が台湾を11-8で下し、今大会初勝利を手にした。イスラエルとオランダに2連敗し、台湾にも延長10回の末の辛勝。1勝2敗のA組3位で次大会の本戦出場権を獲得したものの、過去のWBCでは2006年にベスト4、09年は準優勝、15年の第1回大会プレミア12では優勝と好成績を残してきただけに、今回の1次R敗退の衝撃は計り知れない。

 韓国メディアは一斉に敗因の検証を始めているが、どれも耳が痛くなるものばかりだ。

 韓国スポーツ紙「MKスポーツ」は「世界の野球の発展スピードに比べて、韓国は国際舞台で競争力を失っている。“井の中の蛙”だ」と辛らつに批判。同紙は「基本的には投手に力がないと何も始まらない。しかし、ここ10年間は“スター選手”が出てきていない。投手のリュ・ヒョンジン(ロサンゼルス・ドジャース)とキム・グァンヒョン(SKワイバーンズ)のあと、脅威となる投手がいますか? そういう投手の登場は、韓国野球の早急な課題だ」とキム・インシク(金寅植)監督のコメントを引用し、投手の不振が今回の大きな敗因と指摘している。

 確かに今回の韓国代表には、強い印象を残した投手はいなかった。その中でもインパクトを残したのは元阪神タイガース投手のオ・スンファン(呉昇桓、カージナルス)だろう。台湾戦では8-8の同点で迎えた9回裏、無死二塁のサヨナラのピンチからマウンドに登場し、絶体絶命のピンチをしのいだピッチングは圧巻だった。「3戦全敗を避けられたのも、オ・スンファンの活躍があったから」と韓国メディアは口をそろえる。

秋信守は「実力が低下している」、その理由とは…

 一方、オ・スンファン以外のメジャーリーガーは、韓国の1次R敗退をどのように見ているのだろうか。

「MKスポーツ」が09年WBCに出場したチュ・シンス(秋信守、テキサス・レンジャーズ)に現地インタビューしている。そこでチュ・シンスは「選手たちにだけ、敗因を求めてはいけない問題」と自身の見解を述べている。

「確かなのは、他国が大会を経験するごとに実力が向上していること。しかし韓国は一目でわかるように実力が低下している。なぜ、このような結果になったのかをしっかりと検証しなければならない。国を代表して戦うことは名誉だが、そう簡単なことではないし、結果を残せずに非難するよりも、拍手を送る部分があってもいいと思う。もはや今大会の結果は、選手だけの問題ではない」

 選手の力に頼るだけではどうにもならない部分があるとチュ・シンスは指摘する。彼は韓国野球の育成問題にも触れている。

秋信守が警鐘「大きな変化」必要

「私はアマチュア野球からしっかり見つめ直す必要があると考える。今の(育成)方法のままでは、他国の選手たちに勝てないと思う」

 日本でも広く知られている事実だが、韓国の高校野球チームは約50校しかない。そこから選手が成長して、韓国プロ野球の10球団でプレーすることになる。逆に日本は高校野球のチーム数が4000を越える。これは韓国の80倍だ。韓国ではメジャーリーガーが輩出されるエリート選手が育つ環境は整ってはいるものの、選手層が薄くなるのは誰の目にも明らかだ。これは近年、韓国野球界が抱えている課題なのだが、解決策は見いだせていない。

 だからこそ、チュ・シンスは今大会の結果を受けて、「韓国野球全体が大きく変化していかなければならない」と警鐘を鳴らす。

 一方でチュ・シンスは今大会、代表メンバーにリストアップされながらも、球団側の意向で出場を辞退せざるを得なかったことについて「見る側の立場としてはとても辛いものがあった。力になれずに申し訳ない気持ちもある」と悔しさをあらわにしていた。

金 明碰●文 text by Myung-wook Kim