中田翔インタビュー(前編)

 日に日に迫るWBCに照準を合わせながら、その先にはプロ10年目のシーズンが待っている。順調なら国内FA権を取得するなど、2017年は中田翔の野球人生において大きな節目のシーズンとなる。だが、中田の心は揺れていた。

「難しいよね、難しすぎる。シーズンの準備だけなら、この時期にこんなに振らないし、もっとゆっくり調整しているから。正直……ものすごく不安。WBCを戦ったあとのレギュラーシーズンに対する不安が、今はかなり大きいですね」


一昨年のプレミア12では日本代表の主軸として活躍した中田翔 中田翔という男は、おそらく世間で知られている印象とは違い、非常に繊細な一面を持っている。”怪物”と評されていた大阪桐蔭時代、3年の春先からバッティングに悩み「もうホームランは打てないかも……」と大真面目に口にしていたことがあった。また、ドラフト前にも「指名がなかった夢を見た。本当にかからなかったら、どうしたらいいんですかね」と、やはり真剣な表情で語っていた。

 こうした人間臭さも中田の魅力であり、多くのファンを引きつける理由なのだが、日本代表の中軸として、そして連覇を狙う日本ハムの4番として、今の中田はもがいていた。

「(WBCに出場する)どの選手も悩んでいると思うけど、シーズンへの気持ちの持っていき方がホント難しい」

 前回の第3回WBCでも中田は日本代表として戦ったが、「WBCもシーズンもうまくいった人っていた?」とつぶやき、こう続けた。

「前回のときは、阿部(慎之助)さん、長野(久義)さん、坂本(勇人)さんがシーズンで苦しんでたよね。あれだけの舞台で戦ったら、やっぱり燃え尽きて……そこからもう1回だから。特に前回は準決勝で負けてしまって、とにかくガクッとなってしまった。オレみたいな立場の選手でもそこまでなったんだから。だってあのとき、オレは最年少だよ。それであそこまでなるんだから、今回終わってどうなるのか……」

 今や日本代表の常連となり、前回とは立場も大きく違う。それだけに、中田にのしかかる重圧は4年前とは比べものにならない。

「こう見えて、いろいろ気を遣うタイプやから(笑)。もちろん日本代表に選んでいただいたからには、結果で応えたいし、小久保(裕紀)監督を喜ばせたい。それは当たり前に思っている。その上で、そのあとに始まるシーズン。今年は意地でも結果を残したい。WBCで頑張りました、でもシーズンでは数字が上がらない。絶対にそうはなりたくない」

「そのへんの高校生が打っていた方が飛ばしていたと思う」と笑ったキャンプ第1クールは、バッティングの感覚を取り戻すために時間を過ごした。そして第2クールでは快打を連発。フリーバッティングの打球も気持ちよさそうに飛び始め、「しっかり体をつくってきたから違ったね」と手応えを口にした。

 このオフ、中田はハワイでトレーナーのケビン山崎氏と徹底した肉体改造を行ない、戦いに備えた。体重は昨シーズンより8キロ落とすなど、ひと目でシルエットの違いがわかるほどだ。

「単に体重を落としただけじゃなく、鍛えて落としたからね。その鍛え方も、今までと違うことにチャレンジして、体幹、股関節、骨盤を徹底的に意識した。よくバッティングで『軸回転でコマのように回りましょう』って言うけど、じゃあ、どうしたら回転力を上げられるのか。体のどこを鍛えて、どう使えばいいのか。トレーナーとしっかり話をして、一から考えてやってきたからね」

 アリゾナの一軍キャンプには帯同せず、沖縄・国頭村での二軍キャンプでスタートしたのも、徹底した振り込みを行なうためだ。それはつまり、WBC仕様の調整を悔いなく行なうための選択だった。

「体重が落ちただけなら、去年よりも飛距離は落ちる。でも、体重が落ちた分、回転力を上げることでカバーする。その結果、トータルで飛距離が去年以上になるかどうか。感じはいいよ」

 話を聞きながら、これまで以上の中田と出会えるのではないか、という期待が膨らんできた。WBCでの打席を考えても、スイングスピードや反応がアップすれば、飛距離増への期待はもちろん、動くボールへの対応力も増すのではないだろうか。ただ、本人の見立ては慎重だ。

「WBCに関していえば、『これだけやったから結果が出ます』という世界じゃない。あそこに出る選手は、みんなWBCに照準を合わせて万全の準備をしてきているわけで、そこでぶつかって結果が出るのか出ないのか。あの舞台は『気持ちで打てました』というレベルでもないと思っているし……。ただ、準備をやるだけやっておかないと勝負にならないから。だからやるんだけどね」

 WBCの話題を続けながら、頭はシーズンへとつながっていく。

「でも、ホント難しい。ひとりの選手として考えると、やっぱりシーズンでどう活躍するかというのがあるから。WBCで活躍したけど、ヘッドスライディングをしてケガしました、では話にならない。プロ野球選手として『なにやってるんだ』という話になるから。調整もそうだけど、戦いも本当に難しいよ」

 メジャー組もシーズン最優先の考えから不参加が続き、国内組では大谷翔平が故障により不参加。あらためて日本代表というチームづくりの難しさが浮き彫りとなった。中田は言う。

「マスコミやファンの方には『平等に見てよ』っていう思いはあります。『誰と誰が注目』というのではなく、みんな日本代表なんだから、そういう目でチームを見てほしいですね。今回は(大谷)翔平に注目が集まっていて、出ないとなったら、じゃあ、オレとか筒香(嘉智)とか、山田(哲人)とか坂本さんにくる。平等に全員を見てほしいというのが本音です」

 当然、WBCでの日本代表の戦いによっては「大谷がいれば……」という声も聞こえてくるかもしれない。

「翔平も大変だと思うけど、オレらもね……。でも、オレってそういう星の下に生まれていると思うんですよ。変なことに気を遣ったりとか、振り回されながら人生送ったりとか(笑)。まあ、適当にやりますよ」

 そう言いながら、それができないのが中田だと思うのだが、自らに言い聞かせるように「適当に」を繰り返した。

「いや、ホントにね、適当にやるのがいちばんいいんですよ。プレミア12のときもそれで結果がよかったから(28打数12安打、15打点、3本塁打)」

 それは無駄な力が抜けるという意味なのだろうか。

「力が抜けるというか、あのとき、最初は6番か7番を打って、最後はゴウ(筒香嘉智)が4番で、オレが5番。言い方は悪いですけど『オレが打たんでも誰かが打つやろう』ぐらいの気持ちでした。本当のところはそうじゃないんですけど、ベンチでも『一発狙いの豪快な空振りして、相手をびびらせてくるわ』と言って打席に入ったらホームランとかね。あれぐらいがオレにはいいんだろうなと。『頑張ろう』『頑張らないといけない』というのは、オレはダメなんだろうね。とにかく考えすぎず、でも気持ちは攻めるみたいな感じで、いつも通りできるかどうか。ここがいちばん大事やと思います。まあ、適当にやりますよ」

 日の丸を背負い、世界の頂点を決める極限の舞台。中田への期待も最高潮に高まるなか、どこまで心をコントロールできるのか。日本の頼れる主砲となるカギはここにある。

(後編につづく)

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