ごちゃごちゃしてても、秩序はあるんです(画像はイメージです)。

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いよいよ年末。大掃除が頭痛の種という人もいるだろう。

ところで、よく「机が散らかっている人は、頭の中も散らかっているから仕事ができない」とか「部屋が汚い子は勉強ができない・成績が悪い」などと言う人がいる。

「勉強したくなる部屋」や「勉強がはかどる片付け方」「片付け上手は成績もアップ」など、学習効率を高めるための片付け術を勧める本や雑誌・web記事も無数にある。
しかし、それには異議を唱える人も多数いる。
例えば、机の上が常に山積みで惨状にもかかわらず、仕事は抜群にデキる人はいる。
逆に、いつも机の上も本棚もキレイに整頓されているのに、話す内容はまるで要領を得ず、ただただ長いというタイプもいる。
また、「うちの子は神経質で、いつも机の上や部屋の中が完璧に片付いていないと落ち着かなくて、洗濯物も全部自分でキレイに折って元通りに戻さないといられない。だから、毎日、全部済ませてから宿題を始めるのが深夜になる。これじゃ勉強にならない」と嘆くお母さんもいる。

一方、子どもがSランクの高校に通うお母さんたち10人ほどに「子どもの部屋はキレイか」と尋ねたところ、ほぼ全員が「汚い」と答えたことがある。

もちろん「キレイ・汚い」の基準には個人差があるし、「みんなが汚いと言うなか、自分の子だけキレイ好きというわけにいかない」と、空気を読んで合わせる人もいるだろう。
また、部屋が汚い子どものグチをこぼすと、「潔癖症で知られる芸能人を見てみたら? みんな勉強できないじゃん」と言う人もいた。

成績と部屋のキレイさの関係について専門家に聞いてみた


では、実際、「勉強・成績」と「部屋のキレイさ」には関係があるのだろうか。
中学受験が子どもをダメにする』(幻冬舎ルネッサンス新書)の著者で教育研究所ARCS所長の管野淳一先生に聞いた。
「机の上や部屋のキレイさと、勉強・成績・頭の良し悪しとは全然関係ありません。ただ、なぜそう関連付けて語られるかと言うと、それは社会生活をする大人が、仕事をするときに『書類どこだっけ?』などということが頻繁にあると、効率が悪いことを経験的に知っているからだと思います。どんな人が仕事の効率が良いかを逆算して考えると、『部屋や机が片付いているほうが良いよね』という、後付けの理由ですよね」

実際、作家や芸術家タイプや、膨大な資料を必要とする職種の人などは、書類の山などに埋もれた状況で、熱中して何時間もぶっ続けで仕事をする。ときにはいちいち書類などをしまっていられず、1〜2週間など出しっぱなし、そこら中に広げっぱなしで、仕事が一段落するまでグチャグチャということもある。
しかし、それは本人的には「必要なものがすぐ出せる場所にある整った状態で、乱雑じゃない」ということになるそうだ。
「生徒・学生も同じで、例えばテスト勉強するには関連付けながら覚えていくため、『この類題は教科書のあそこに出てたな』『関連資料があのプリントにあった』など、出しっぱなしになることが多々あります。それを片づけてしまうと、学習上は効率が悪いのです」

外から見ると、ひどいグチャグチャの部屋も、本人的には「覚えるため、情報整理をするための秩序だった空間」になっているそうだ。
「逆に、あまりにもキレイな部屋だと、熱中していないということもできます。物理学で『エントロピー』という言葉があり、時間の経過とともに無秩序化することを『エントロピーが高くなる』というのです。書類も少ないものが多くなり、机も汚くなる、熱中すると『エントロピーが高くなる』のが自然なのです」
いつでも部屋がキレイでいる場合、余計な片付け作業に時間をかけてしまっている可能性もあるということだ。

とはいえ、もちろん「モノが非常に少なく、いつでも部屋が片付いていて、頭の中も整理されている、突出して優秀な人」だってたくさんいる。
「ごみ屋敷のような状態では勉強や仕事をする気にならないという面もありますし、日頃から頭の中が整理されていない人は、部屋も乱雑ということもあります。仕事や勉強に行き詰っているときや、ふさぎこんでいるとき、気持ちを切り替えて部屋を掃除してみると、名案が浮かぶケースだってあります」
ちなみに、管野先生が講師を務めていた難関私立男子校では、職員も優秀な人材が多かったものの、職員室はグチャグチャに汚かったという。一方、塾講師の同僚で東大理系学部出身者には、「仕事終わりに机の上をキレイにして帰らないと怒る」人もいたそうだ。
「部屋や机が汚いのは、単にだらしないのか、それとも、本人なりの秩序があってのものなのか。それはあくまで一面的な見方であって、トータルで考えないといけないと思います」

「部屋をキレイにしたから成績が伸びる」わけではない。逆に「部屋がグチャグチャだから、勉強に熱中している」とも言い切れない。
「片付け」「部屋の整頓」などはあくまで表面的なことであって、そんな単純な話ではないのでした。
(田幸和歌子)