辞令が出たら、さようなら「とと姉ちゃん」136話

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連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第23週「常子、仕事と家庭の両立に悩む」第136回 9月8日(木)放送より。 
脚本:西田征史 演出:岡田健


「ぼくは名古屋に転勤することになりました」(星野)

じぇじぇじぇ! びっくりぽんや! 思わずすっかり使わなくなった以前の朝ドラの決め台詞が口を出てしまった。

「守りたい」って言ったのに「守れなくてごめん」もないなんて。

星野の言い分としては、辞令が出てからなんども考えたが、大樹の火傷に関する悩みに気づいてあげられなかったことを思うと、転勤することを選ぶしかなかったということらしい。

「守りたい」って言ったのに、「守れなくてごめん」もないなんて。

常子(高畑充希)は終始強ばった表情ながら、星野に理解を示し、星野は常子を讃えつつも、妙に聞き分けのいい子どもたちを連れて退場。そこに流れる音楽はとっても清々しいものだった。

「守りたい」って言ったのに、「守れなくてごめん」もないなんて。あえて3回書きました。

はなから星野再登場を疑問視していた視聴者は当然ツッコミまくりだが、まじめに星野と結婚してほしいとキラキラした瞳でテレビを観ていた視聴者さんの気持ちはいかばかりか。
それでもこの展開をいいふうに解釈する人たちがいるとしたら、世界から勝手な男たちは消えることがないとしか言いようがない。

いいの、ほんとに? 「守りたい」って言ったのに、「守れなくてごめん」もないんだよ、星野さん。
これではその場限りの情動に流される男でしょう。いや、思えば、15年前から、この人、そうだった。このレビューでも書いたが、植物研究をするための支えがほしかっただけの人に描かれていた。
坂口健太郎がさわやか過ぎて目がくらんでしまっているのだ、我々は。世の中にはこの手の、手近な女性にうまいこと依存する男性は少なくないが、坂口健太郎みたいな見た目じゃないから騙されないだけだ。

どうして星野はこうなのか。
それはこのドラマの根幹にかかわる問題だ。
「とと姉ちゃん」の物語の発端は、家父長制度の時代に生まれた女性が、父亡きあと、その代わりに生きることを目指すもの。だから、星野という男が、常子の生き方を相対化するためにも、いわゆる一家の大黒柱となって妻をめとって食わせていくことが男の甲斐性であるという当時の常識を覆し、常子を食わしていくことを目指さないのは必然となる。
さらに欲張って、現代的な「イクメン」像も星野に担わせたいと思ったのだろう。

だったら、男が女を責任もって食わせていた家父長制度時代の男のほうがかっこいい気がしてしまう。西島秀俊ととなんて、病気になってしまうほど懸命に仕事と家庭を両立させていたわけで。それはどんだけかっこいいか。

悲しみにくれる常子の救いは、商品試験の結果に奮起して新商品を作り上げたメーカーの存在。
星野に、そんな常子の夢を邪魔できない、僕では常子の夢を守ることはできないから身を引いたのだっていうようなことをどっかで言ってほしかった。
もっとも、常子が会社辞めて名古屋に行っても、あなたの暮し出版がそんなに困らないような気がしてしまうのだが・・・。水田が経理を締めて花山が本作りに邁進し花山を尊敬してる美子が支えればいいのでは。

泣いても笑っても怒っても、あと20回!!
(木俣冬)