新聞記者がゲスすぎる「とと姉ちゃん」133話

写真拡大

連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第23週「常子、仕事と家庭の両立に悩む」第133話 9月5日(月)放送より。 
脚本:西田征史 演出:岡田健


何者かによる(明らかにアカバネ電気の仕業とわかるが)「あなたの暮し」への嫌がらせは、関係者たちの家に投石されるだけでなく、勝手に原稿を差し替えるという所業にまで及んだ。

印刷屋さんからの電話で、重大なあやまりがあったからひとめに触れないように破棄してほしいと言われてそうしたから差し替え原稿まだ? と催促が。

花山(唐沢寿明)だったらやりかねないと思ってしまった印刷屋さん。
アカバネの人たちは、敵(あなたの暮し出版の人たち)の情報をちゃんと把握して、花山の性質をうまく利用したところは賞賛に値する。

ふつうなら、面識のない編集部員からの連絡で、こんな重大な改変を行わないだろうし、明日までに原稿がないと発売日に間に合わないほど切迫している状況でハチ公みたいに原稿を待ってもいないだろうし、原稿も本が出るまでは念のため保存しておくだろう。
だが、これまでさんざん変人キャラをアピールしてきた花山だったら、たとえ校了(編集の手を離れ印刷屋さんにまかせる段階)してしまっても、間違いに気づいたら直しを入れようとするだろうし、間違った原稿なんて唾棄すべきだからとっとと廃棄しろ! と言いかねない。

「とと姉ちゃん」の世界ではどういうふうに雑誌が出来上がるのかその工程がよくわからないが、とにかくピンチで、常子(高畑充希)は星野家のひとたちと日曜日に動物園に行く約束も反故せざるを得なくなる。

朝までかかって原稿を書き直した花山に常子がつきあっていると、ハンチングをかぶったゲスニックマガジンじゃない大東京新聞記者の国実恒一(石丸乾二)がやってきて、「あなたの暮し」の取材をしたいと言う。
でも「閉鎖的な試験に公平性があるのか?」「結局はただの拝金主義なんじゃないんですか」とか斜めからものを見ている感じ。

国実の喋り方が、NHK のコント番組「LIFE !人生に捧げるコント」の人気キャラ、ゲスニックマガジンの西条(田中直樹)というゴシップ記者の口調にそっくりで、意識して書いたであろう脚本どおりに読むとそうなるのか、演出で施された口調なのか、石丸本人のチョイスなのか気になってならなかった。
なぜこんな内輪受けをやるのか(そのつもりじゃなかったらすみません)。最近、「LIFE!」はオリンピックなどでお休みが続き、9月も、8日、15日、22日とずっとお休みなので朝ドラには「LIFE!」ファンもいるにちがいないというサービス精神なのか。

まえにもレビューで指摘したことがあるが、もともと西田征史はお笑い芸人だったから、エピソードの連なりがオムニバスコントのようで、分断されがち。その短いエピソードに必ずオチがあるわけではないため、話が続いているように見える。そのため、一部の視聴者は二度と出てこないキャラを待ちあぐねて苛立ってしまう。

珍しく、印刷屋さんの桑原正晴 (谷本一)は、常子たちが出版をはじめた頃から出続けていて、ちょっと嬉しいが、だからこそ妨害工作に機転を利かせてほしかったなあ。

また、オムニバスコントと思えば、家庭も仕事も様々な描写が雰囲気で描かれていてもあまり気にならないのだが、そう明示しているわけではないので、細部が描かれないことにも苛立つ視聴者が現れる。

SNS の発達により15分のドラマすら長いと感じるようになっているかもしれない現代に、ショートコントの積み重ねで見せていく朝ドラを試すことは意義深いと思う。ただ、今回は発展途上であることは否めない。ここで諦めず、いつかこのトライを成功させてほしい(そんなつもり全然なかったらすみません)。

それにしても、趣旨を理解せずに気分を損ねた視聴者たちが、NHKの台本印刷を請け負っている会社に電話をして「NHK の藤野という者だが、プロデューサーから言われて、台本に重大な間違いがあったのでひとめに触れないよう破棄してほしい」と印刷間際の台本をストップさせるいやがらせをしはじめたらどうするつもりだ。あ。もう、「とと姉ちゃん」はクランクアップしているから大丈夫なのか。良かった、良かった。
(木俣冬)