話し合いと練習で問題を解決する地味の極みアニメか「チア男子!!」8話

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男子大学生が16人集まって、男子だけのチアリーディングに挑戦する朝井リョウ原作のアニメ『チア男子!!』。チアリーディングだからといって、いつも派手にワーワーやっているのかというとそうでもなく、普段は地道な練習とミーティング、そしてバイトに明け暮れる日々が続く。さらに若い男が16人もいれば、それぞれ事情やコンプレックスなんかも抱えていて、ぶつけ合ったり、スカし合ったりしながら悶々としたりする。イケメン男子が集まってチャラチャラしている作品のようでいて、実は大変地味なアニメなのである。


先週放送の第8話「絆とご来光」は、チアに情熱を傾けているのだが、口が悪くて周りと衝突しがちな尚史(演:畠中祐)と、遅刻癖と寒いギャグを突然言う(しかも頻繁に)癖があるという、ある意味もっとも集団生活に適していないタケル(演:沢城千春)をめぐるお話。

いつも練習には最初に来て入念にストレッチを行っている尚史と、遅刻しても謝罪ひとつしないでふざけているタケルは犬猿の仲。文字にしてみると後者のほうが圧倒的に悪いのだが、そこは大学のサークル活動なわけで、タケルの言うように「カタいこと言わずに楽しくやろうぜ(大意)」という態度も成立する。「ガチ勢とエンジョイ勢の対立」と書いているファンの人もいたが、なるほど上手い表現だ。

そんな中、彼らのチーム「BREAKERS」は全国チアリーディング選手権に向けて、技の難易度を高くするかどうかを検討していた。予選を突破するためには技の難易度を上げることが早道だ。しかし、全員が難易度の高い技についていけるわけでもない。積極的なガチ勢の尚史に対して、現状の技をこなすのに精一杯なトン(演:林勇)をはじめ、エンジョイ勢のタケルらは消極的である。前半3分以上もミーティング風景に費やすあたり、ちょっと『シン・ゴジラ』的。

さらにリーダーのカズ(演:岡本信彦)はバイトと入院中の祖母のお見舞い、3年生の金(演:勝杏里)と鍋島兄(演:木島隆一)は就職活動が始まって、練習への参加もままならなくなっていた。金髪リーゼントだった金とサイドを刈り上げてオシャレヒゲだった鍋島兄も、きっちり黒髪&ヒゲなし&リクスースタイルに。こういうところをしっかり見せるのが『チア男子!!』ならではのリアリティだったりする。

尚史の苛立ちは募っていき、言葉の矛先は全方向に向かうようになっていた。徐々に空気が悪くなるBREAKERS。そしてとうとう尚史はハル(演:米内佑希)に退部を告げてしまった。「尚史、好きなのに諦めるのか!」というハルの言葉も届かない。タイムラインには「尚史、BREAKERSやめるってよ」というフレーズが乱れ飛んだ。

男子16人合宿に女子コーチが1人……


尚史の退部の件を聞き、「イヤだってのをムリに引き止めるのもねぇ……(大意)」という空気が流れるBREAKERSの面々。普段から態度(口)が悪いと、引き止めてもらえないのだ。しかし、尚史は陰でトンの自主練習をサポートしていたり、メンバーそれぞれの良いところを分析していたりしていた。そのことがわかると、「お、やっぱり呼び戻したほうがいいんじゃない?(大意)」という空気になるから、やっぱり普段から善い行いは積んでおいたほうがいい。どんなに真面目で情熱を持っていても、思い通りに行かなくてスネているだけだと、そのまま集団から放り出されてしまうことになるのだ。

全員で尚史に会いに行き、思いっきりストレートな言葉で引き止めるBREAKERS。
「BREAKERSには尚史が必要なんだよ」(ハル)
「お前みたいに厳しいことを言ってくれるやつもいないとな!」(カズ)
こうまで言われて、その場を去ることができる大学1年生はなかなかいないだろう。犬猿の仲だったタケルも「ぬるま湯だとブロッコリーもおいしく茹で上がらないからな」と謎の言葉で尚史を迎え入れた。なぜ彼はここまでブロッコリーにアイデンティファイしているのだろう? また、チアの技の難易度を上げることも決まっていた。BREAKERS全員が尚史に歩み寄ったのだ。

本当は別の大学の名門チア部に入りたかったこと、でも受験で落ちてしまって落胆していたところ、自分が入る大学に男子チア部ができて嬉しかったことをメンバーの前で語る尚史。尚史の厳しい態度は、挫折から生まれたコンプレックスの裏返しだった。相手のことを深く理解できれば、周囲もなんとなく許せる気分になるものだ。

わだかまりが解けたところで、年末年始を挟んだチア合宿に突入! 大学のサークルなのに、16人ものメンバーが一人も欠けずに参加しているところがすごい。これも尚史の期待に応えたいというチームの気持ちの表れだろう。タケルも真面目に厳しい練習をこなしていた。合宿には女性として唯一、高城コーチ(演:甲斐田裕子)が参加しているのだが、男子たちはよからぬ気分にならないのだろうか?

元旦、ご来光を前に円陣を組むBREAKERSの16人。寒いギャグを放つタケルに続いて、尚史も寒いギャグを言い放ってみせた。生真面目な自分自身をぶっ壊した(BREAK)のだ。

全員がチアが好きで、チアを第一に考えているわけではない。目立ちたいという動機でチアを始めたヤツもいれば、就職活動やバイトで忙しいヤツもいる。それでも大会に向けて全員で真面目に練習できれば、それでいいんじゃないか。多様性を認めることができた尚史は、実はBREAKERSの中で一番成長できた男なのかもしれない。

殴り合うこともなく、試合で決着をつけることもない。話し合いと練習でいろいろな問題を解決するのだから、繰り返しになるが『チア男子!!』は地味なアニメだと思う。昔よくあった(そして現在は完全に廃れた)学園ドラマを思い起こさせる第8話でした。

タケルとBREAKERS全員の尚史への歩み寄りをよりはっきり見せて視聴者に納得させるには、難度の高い技に挑む合宿での練習シーンをもっとガッチリ描いたほうが良かったと思うが、チアの動きは作画が大変なんだろうなぁ……。

さて、本日放送の第9話は「太陽の涙」。いつも明るくてポジティブなカズがディープな悩みを告白する。本当になかなかうまくいかないものだね……。ゴー・ファイ・ウィン!
(大山くまお)