経営戦略（左袒布略）編【第四回】企業にとって最も重要な“顧客”って、誰よ？／小笠原 昭治
「企業にとって、最も重要なのは、顧客である」という、ドラッガー教授やコトラー教授の理論が普及しない理由を、前回までに七つ、９項目にわたって分析してきました。
結論づけると、高度経済成長期に輸入されたマーケティングが近視眼的へ変容したこと。
「木を見て森を見ず」で、顧客に照準を合わせると周辺が視野に入らなくなることです。
近視眼的ゆえに、マーケティングを知らない人には、通じにくく、誤解されやすく、ピンと来ないため、普及しにくいという結論です。
奇しくも、ドラッガー教授やコトラー教授と同じ時代に活躍したレビット教授の論文『近視眼マーケティング（マーケティング・マイオピア）』がマーケティングに起こっていたなんて誰が想像したでしょう。
大量消費を目的としたアメリカ生まれのマーケティングは、ある程度の人口が減っても大量生産できる（経営していける）大手メーカーや、電博等の大企業のみ通じることを、中小企業の経営者は、肌で感じているのかも知れません。
以上。
で終わってしまっては、ワケが分かりませんので（笑）、分かりやすく展開すると、企業にとって最も重要な
顧客って、誰よ？
という定義が近視眼的へ変容した一点目。
もちろん「お金を払ってくれる人」で正解ですが、では、
一年前に、お金を払ってくれた人は（過去形）、顧客ですか？
Yes or No （あなたなりの答えを出してから先へ進んでください）
次に、
一年後に、お金を払ってくれる人は（未来形）、顧客ですか？
Yes or No（あなたなりの答えを出してから先へ進んでください）
最後に、
初めてお金を払ってくれた人は（現在形）、顧客ですか？
Yes or No
そもそも、顧客とは、リピーター（お得意様）を指しますから、新規客は、顧客ではありません。
顧客ではありませんので、顧客化しなければなりません。顧客戦略の必要性です。(その顧客戦略のとば口を本稿で取り上げています)
何度も買ってくれる既存客が、顧客です。それを踏まえて、先の質問を繰り返しましょう。
一年前に、お金を払ってくれた人は（過去形）、顧客ですか？
No！代金を受け取り済みですので、もう、顧客ではありません。
ところが、
- カネ（売上や資金）を軸に考えるのではなく、
- カネの切れ目が縁の切れ目ではなく、
ご新規様を紹介してくれるかも知れない
と考えれば、
お金は払ってくれませんが、顧客（リピーター）
です。
特に、弁護士業のような、紹介で成り立っている商売は、一人の紹介者が、ご新規様を、何度も、何人も紹介してくれますので、お金こそ払ってくれませんが、優良顧客も同然です。
インフラ事業のように売り先が固定している業界や、既存客のみ引き継ぐ企業にとっては、ピンと来ないかも知れませんが、通常は、以前に買ってくれたお客さんが、また買ってくれる保証など一切ありません。
歯科医や整体院といった師士業の一部は「一度 来院した患者は、次も ウチへ来る」という、根拠のないバイアス（業界の因習）にかかっているようですが、
次も来る(また買う)保証は一切ありません
ので、次も来るように仕組まなければなりません。
治ったら、もちろん、もう来ません。
家や、マンションといった、一生に一度の買い物に至っては、一年前に買ったっきり、二度と買わない可能性のほうが高い。
しかし、買った経験があるのですから、その体験が良好であれば、
有力な紹介者
たり得ます。その紹介者を
- 要らないんですか？
- 要りますか？
という判断です。顧客化と同じ
紹介者化
です。紹介者が要らなければ、「カネにならない昔の客なんか放っとけ」という企業体質に染まりますし、
いるのでしたら、紹介者という顧客を増やす作戦が必要です。顧客戦略です。
顧客戦略とは、優良顧客を増やすために、誰を顧客と見なし、どのように対応していくか？という長期的な作戦です。
一般的には、直接客の「現在客」のみ顧客と見なすようです（が、筆者の提唱する経営戦略は、潜在客と体験客も顧客と見なします）
では、次の質問。
一年後に、お金を払ってくれる人は（未来形）、顧客ですか？
No！今月や来月の売上金にならなければ、顧客ではありません。
早く売れれば、早く入金されますから、できるだけ早いほうが良い。一年後なんて鬼が笑います。そうして、
経営者「売り上げを伸ばせ」
↓
営業部長「商品を売ってこい」
↓
営業マン「商品を買って下さい」
という上意下達で営業マンは（値札の付いた商品を売ろうと）動きます。ところが、ここに大きな落とし穴があります、
関与度の低い商品は小売店でも売っている
ということです。
関与度の低い商品 （あまり深く考えずに買う商品）は、お客さん自身が価値を知っています。
弁当や、飲み物のような、関与度の低い商品とは違って、リフォームのような、何十万円、何百万円もする、関与度の高い商品ほど、
潜在期間が長く（価値を検討する時間が長く）
時には、数年に及びますから、
売れって「いつまでに？」
ですか？ということになり、その答え如何によって、
- 今月 来月に売れそうな現在客のみ狙って売るのか、
- 潜在客や体験客も顧客に含めるか、
誰へ売るか
決まります。関与度の高い商品は、売れるまで待つの「も」戦略です。一年後の潜在客は、需要が発生していても、今は買わないだけで、一年後に買うかも知れません。そうなると、一年後の顧客になります。
誰に売るか決めるのは、営業社員ではありません。
- 経営資源の 人（ヒト） 物（モノ） 金（カネ） を動かして
- ご新規様を紹介されたときの御礼（経理上の処理）について、税理士さんと相談し
- 数年後まで （潜在客が 新規客化するまで） 会社を存続できるように計画し
- すべき すべからず といった 従業員の行動規範（企業理念）を決め
「売れ」と命じる経営者
です。要するに、営業戦略は、営業社員が決めることではなく、経営者が決めることです。
なので 「誰に売ればいいか？」 経営者へ聞いてみて下さい。その答え如何で、誰に売るか決まります。
もしも、今月 来月 「お金を払う現在客だけ狙って売れ」と言われたら？
それが営業戦略ですから、会社の業務命令に従う他ありません。イヤなら、転職するか、理想の経営を目指して独立するのみ。
お客さん（人様）と、どう接するか決めるのは、結局、自分自身の生き方であり、人脈づくりなんですよね。
さて、今回は、顧客を、時系列で切って検証しました。次回（一か月後）は、直接と、間接で切って、検証します。
