中国の徹底した情報監視の実情 (C)孫向文/大洋図書

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 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。2016年6月13日、ドイツ首相アンゲラ・メルケル(61)が中国の北京市内で講演を行い、中国国内の独立した司法制度の制定、外国企業への市場開放を訴えました。

■拡大する中国の情報監視を不安視する声

 メルケル首相の発言は中共政府による人権団体や活動家の取り締まりを暗に否定しているものと思われ、世界中から評価する声が上がりましたが、ドイツ国内では今回の件を機に、中国側がメルケル首相に対し徹底した情報監視を実行するのではないかと不安視されています。

 ドイツ政府の情報セキュリティ機関「BSI」は、メルケル首相の携帯電話による通信が訪中時に盗聴される可能性があると警告し、中国に向かうメルケル首相に対し携帯電話の使用の制限、Bluetooth機能の不使用を進言しました。さらに講演と同日に行われた李克強中国首相(60)との会談の際には、ドイツ側が持ち寄ったパソコン、タブレット、スマートフォンなど全ての電子端末を、電磁波遮断機能を持つアタッシュケースに収納すべきだと助言しました。

 中共政府主導による情報監視は以前から行われています。日本に住む僕の友人の中国人漫画家の例を挙げると、彼が「微信」という中国製のメッセージアプリを使用しチベットのダライ・ラマ法王(80)の写真を転送しようとしたところ、エラーがかかってしまったそうです。

 ダライ・ラマ法王は現在チベット問題をめぐり亡命を行っている人物で、中共政府にとっては「宿敵」とも言える人物です。他にも天安門事件、法輪功、ウイグル民族問題などに関連する画像は全てサーバー上で検索され微信上で送信することは通常は不可能です。しかし中国人漫画家がダライ・ラマ法王の写真を画像処理アプリで加工すると転送できたそうで、意外と抜け道は多いようです。

 さらに例を挙げると、以前より友人の中国人漫画家はSkypeのビデオチャット機能を利用して中国に住む肉親と会話を行っているのですが、最近では「中国」という言葉を発言するたびにネット接続が悪化するそうです。中国国内の電話には「音声監聴システム」という人工知能が搭載されていて、中共政府にとって問題のある発言が検閲される仕組みになっています。アメリカのMicrosoft社が展開するSkypeに音声監聴システムが搭載されているとはにわかには考えられませんが、中共政府がSkypeの中国法人に圧力をかけて検閲を実行させている可能性は十分にあると思います。

 微信の他にも、「QQ」や「百度」といった中国製のブラウザやメッセージアプリには、大抵スパイウェアが内蔵されていることは中国国内では周知の事実です。しかし中国のソフトウェアは政府の認可がなくては公開が不可能であるため、「情報収集の協力」などを名目にIT開発者側はやむを得なくスパイウェア機能を内蔵するのです。そのため僕は日本のみなさんには中国製のソフトウェアを使用しないことをお勧めします。

 こういった例は他にもあるようで、友人の中国人漫画家の知人の女子中国人留学生が、国際電話上で日本社会を賛美し逆に中国社会を卑下するような発言を行ったところ、その翌日、留学生の実家に公安が訪れ彼女の両親に対し警告を行ったそうです。どうやら中国の情報監視の目は世界中のあらゆる箇所に広がっているようです。

 冷戦時、旧ソビエト連邦をはじめとする共産主義諸国では国家をあげての盗聴工作が行われ、反政府的な思想を唱える人物は次々と摘発され投獄、または処刑されました。そのような前時代的な行為が日常化しているのが現在の中国です。

 しかも中共政府は反乱分子を徹底的に摘み取るため、最先端技術を惜しみなく導入し情報監視を行っています。日本のみなさんが中国に訪れる機会があった際、会話内容には十分気をつけてください。

著者プロフィール


漫画家

孫向文

中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)など。

(構成/亀谷哲弘)