飛行機には常に2名のパイロットが乗務しており、どちらか片方が気を失っても残されたパイロットが操縦を続けるようになっているわけですが、二人目のパイロットが気を失う可能性がないかといわれれば、完全にゼロであるとは言えません。「お客様の中に飛行機を操縦できる方はおられませんかー!」という絶望的な状況で操縦桿を握ることになったあなたは何をすればよいか、そんなトラブル対処法を、現役のパイロットがフライトシミュレーターを使って解説してくれています。

How to Land a 737 (Nervous Passenger Edition) - YouTube

このムービーを公開したのは、パイロット資格を持ち、ソフトウェア開発を手がけることもあるというティム・モーガンさん。自身のパイロット経験をいかし、Microsoftのシミュレーターソフト「Microsoft Flight Simulator」でシチュエーションを再現しながら操縦方法を解説しています。



上空を飛んでいる状態であれば、飛行機は「オートパイロット(自動操縦)」で飛んでいる状態のハズ。ということで、オートパイロットを解除する方法を絡めつつ、手動で近くの空港に着陸できる手順が紹介されています。なお、今回のムービーでは世界中で広く使われている「ボーイング 737型機(737-800)」を題材に解説しているとのこと。



まずは、地上との交信を行うためにパイロット用のヘッドセットを頭に付け、無線の設定を行います。無線の操作パネルは機長席と副操縦士席の間にあるコントロール・ペデスタルの部分にあり、機長・副操縦士・オブザーバー用に3つあるので一番手前にあるものを操作すればOK。



「MIC SELECTOR」のスイッチランプで「VHF-1」が点灯していることを確認します。コレが選ばれていないと、いくら「緊急事態!」とマイクに話しかけても客席に音声が流れてパニックを引き起こすだけなので要注意。



その上にあるパネルで無線の周波数を設定。とにかく何でもいいので、ATC(航空交通管制)につながる周波数をまずは見つけます。



無線がつながったら、操縦桿にある「MIC」ボタンを押しながら「Mayday! Mayday! Mayday! I am a passanger onboard Delta flight 1603. Both pilots are unconscious and I am a passenger flying the aircraft. (メーデー!メーデー!私はデルタ1603便に乗っている乗客です。パイロットが二人とも意識を失っており、いま飛行機を操縦しています」と話して緊急事態を宣言しましょう。



するとATCからは「もう一度お願いできますか?」のように聞き返してくるはずなので、再び事態を報告。そうすれば、おそらくATCのスタッフは737型機の操縦資格を持つパイロット探しを始め、あなたに無線で指示を与えられる体制を整えることになるはずです。



パイロット探しを行っている間に、ATCはあなたに対して目的地や飛行高度の変更を指示してくるかもしれません。「デルタ1603、方位265へ向かえ」と言われたら、自動操縦装置の設定変更を行います。自動操縦関連の設定パネルはココ。



ダイヤルを回して数値を「265」に合わせます。



しかし、飛行機は事前に設定されたフライトプランにしたがって自動操縦されているので、数値を合わせただけでは進路を変えようとはしません。次に、ダイヤルの下にあるセレクトボタンを押して、設定した方位に進路変更させます。



するとボタンが点灯し、機体は向きを変えはじめるでしょう。



次に行うのは、着陸に向けて高度を下げる操作。これも自動操縦装置に任せておけばOKなので、設定パネルのダイヤルを回して目標の高度を入力します。以下の画面では高度3万8000フィート(約1万1000メートル)が設定されている状態なので、例えばコレを「10000」(1万フィート:約3000メートル)に設定。



そして「LVL CHG(高度変更)」ボタンを押すと、自動で高度を下げ始めます。



この時、右手の位置にあるスロットルレバーが自動的に手前に動き、エンジンの推力を絞り始めますが、これは正常な動作なので放置してOK。



機体の高度や速度、向かっている方位は、目の前にあるPFD(Primary Flight Display)にまとめて表示されているので、時おりコレを見て問題がないか確認します。



高度が下がり、着陸のタイミングが近づくと、ATCはあなたに速度を落とすよう伝えてきます。「デルタ1603便、速度を240ノット(時速約445km)に減速せよ」と指令が来たら、パネルのこのダイヤルを回して数値を「240」に設定。



数値を合わせ、「SPD ITVN(Speed Intervene)」ボタンを押すと減速が始まります。



指示を受けていたATCの管制空域から外れる場合は、別のATCとの交信に用いる周波数が伝えられます。「デルタ1603便、周波数を126.85に設定せよ」と言われたら、コントロール・ペデスタルにある無線のダイヤルを回して周波数を合わせ、最後に設定ボタンを押せば新しい周波数が設定されます。



そうこうしている間に街並みが見えてきました。着陸する空港まであと少し。空港が近づくと、さらに速度を落とすようにATCから指示が入ります。



ここで使うことになるのが、空気抵抗を利用して速度を落とす「スピード・ブレーキ」装置。スロットルレバーの近くにある「SPD BRK」と書かれたレバーを手前に引くと主翼の上面にあるスポイラーが立ち上がり、機体に空気ブレーキがかかります。スピードブレーキは、機体の高度を下げる時にも使われます。



着陸の瞬間が近づいてきました。737型機の安全な着陸スピードは時速130ノットから150ノット(約240km/h〜280km/h)あたりなのですが、通常の状態だと737型機はその速度で飛び続けることができません。そのため、主翼の揚力を大きくする「フラップ」を使います。フラップはスロットルレバーの近くにある「FLAP」レバーを操作するようになっており、角度を示す数字が左側に書かれています。



フラップの角度と速度の関係が車輪を出すランディングギヤ・レバーの下に書かれているので、コレを参照。着陸時には、フラップの角度はMAXの40度に近くなります。



ATCからは速度を下げる指令が飛んでくることでしょう。「135ノットに減速」と言われたときは、自動操縦装置の速度を「135」に合わせ、「SPD INTV」を押して速度を下げる設定を入力します。



着陸に備え、ランディングギヤ(車輪)を出します。ランディングギヤ・レバーの下に書かれている安全速度を下回ったことを確認して、レバーを下げて車輪を出しましょう。レバーの上にある3つのランプが赤から緑に変わると、車輪が全て出て着陸が可能になったことを示します。



着陸が近づいたら、自動操縦を解除して手動操縦に切り替えます。この時、警告音が鳴りますが、コレは正常な動作なのでキャンセルしてOK。



滑走路が見えるようになると、パイロットの目には「PAPI」と呼ばれるライトが見えてきます。これは、機体が定められた着陸進入経路(グライドパス)に沿って飛んでいることを確認するためのライトで、白2つ・赤2つの状態が正しい状態。どちらかの色が多い状態は、経路に対して機体が高すぎる・低すぎることを示しています。



滑走路が近づくと、「200、100、50、40」というふうに、機体高度を知らせる自動音声が流れます。「50(フィフティ)」が聞こえたら、操縦桿を手前に引き、機首を上げる「フレア」の操作を行いましょう。



車輪が滑走路にタッチしたら、スロットルレバーの後ろにある「スラストリバーサー・レバー」を引きあげて、エンジンの逆噴射を行います。



同時に、両足の前にあるペダルを倒す方向に操作して、車輪にブレーキをかけます。機体には自動的に車輪ブレーキをかける「オートブレーキ」スイッチもありますが、初心者はややこしいので操作しない方が良さげ。



ブレーキング中は、機体が滑走路から逸脱しないように見張っておく必要があります。左右にずれだしたら、左右のペダルを前後に調節して正しい向きに戻す操作を行いましょう。



速度が時速60ノット(約110km/h)を下回ったら、スラストリバーサーを解除。



機体が滑走路上で停止したら、スロットルレバーの近くにあるパーキングブレーキ・レバーを操作してブレーキを固定し、「FUEL CONTROL」レバーを「CUT OFF」ポジションにしてエンジンを停止させましょう。



ディスプレイのエンジン回転数が下がるので、エンジンの停止が確認できるはず。



エンジンの回転が下がるにつれ、「これは正常なシャットダウンの手順ではない」とのことでアラームが鳴り始めますが、あとはもう心配することはありません。地上のグラウンドスタッフが駆けつけて後始末をしてくれるので、あとはドヤ顔を押し殺しながら機体から降りればOKです。



この手順をしっかりと頭に入れておけば、万が一の事態に遭遇しても無事に飛行機を着陸に導けるはず、というムービーでした。ただし、このムービーは好条件がそろっている場合の方法なので、例えば以下のムービーのように強烈な横風が吹き付けるような事態でないことを願いたいところです……。

Dangerous Crosswind Landings during a Storm at Düsseldorf - Multiple Aborted Landings - YouTube