年末に総合格闘技デビューする元大関・把瑠都。198?、170?の巨体、握力90?という怪力には幻想が膨らむ

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「PRIDEの復活」と称される「RIZIN FIGHTING WORLD GRAND−PRIX 2015」(以下、RIZIN)。

12月29日、31日の両日、さいたまスーパーアリーナで開催されるこのイベントは、エメリヤーエンコ・ヒョードルの3年半ぶりの復帰戦や桜庭和志vs青木真也の新旧日本人エース対決などで話題を集めているが、意外な超大物の総合格闘技デビュー戦も発表された。

大相撲で幕内優勝経験もある元大関・把瑠都(ばると)ことホーヴェルソン・カイドだ。

スーパーヘビー級と呼ぶにふさわしい198?、170?、握力90?というスペックは、かつて格闘技ファンが抱いた“相撲最強幻想”を呼び起こす。流暢(りゅうちょう)な日本語を操る31歳のこのエストニア人は「力があれば、なんでもできる」と静かな闘志を燃やしている。

―2年前に大相撲を引退した後は、母国で実業家に転身していたんですよね?

カイド 実家が経営するロッジや牧場の手伝いなどをしてました。でも、田舎での生活はあまりにもゆっくりしていて緊張感がなくて…まだ闘い足りないという寂しさも残っていたんですよ。現役時代にPRIDEはよく見ていたし、引退後も総合格闘技に興味はあったけど、自分からやりたいとはなかなか言えなかった(笑)。だから、RIZINに声をかけてもらった時は嬉しかったですね。

―また日本で活躍できるという喜びも?

カイド もちろん。初めて日本に来てからもう12年、母国みたいなもんですからね。

―角界の中でもケタ外れの怪力の持ち主で、車を持ち上げたことがあるそうですね。

カイド ああ、軽トラを持ち上げた話ね。稽古(けいこ)場のそばに軽トラがあったから、ちょっとやってみようと。私は負けず嫌いで、なんでも勝負だと思っている。負けたくなかったんですよ、軽トラに。

―軽トラに闘志を燃やす人には初めて会いました(笑)。巨大なイノシシを担いで山を下りたという話は本当?

カイド あれは16歳の時ですね。エストニアの地元では毎年ハンティング大会があって、ハンターの付き添いみたいな感じで山に入りました。150?くらいはあったかな、射止めたイノシシを肩に担いで、車のある所まで30分くらい歩いた。さすがに次の日はめちゃくちゃ筋肉痛になりましたけど(笑)。

―10代後半の頃はクラブの用心棒をやっていて、もめ事が起こると自慢の怪力で解決していたとか?

カイド まあ、酔っぱらいにはそれが一番効果的ですから(微笑)。拳銃を持ち出してくる人もいましたね。

―そういう場合は?

カイド 話し合いで解決します(笑)。それでも収まらない時には組み伏せたこともありました。17、18歳の頃で、その時から196?、120?くらいあった。だけど、もっとデカい人もいましたよ、206?で160?くらいの。

―エストニアには大きい人が多いんですか?

カイド そういうわけではないけど、大きい人は大体こういう所に集まるんじゃないですか(笑)。

―とはいえ、力比べで負けたことなんてないのでは?

カイド いや、TVが企画した腕相撲の決勝でボブ・サップに負けました。今でも悔しさは少し残ってるね。

―大相撲引退のきっかけは左ヒザの負傷でしたが、具合はどうですか?

カイド 大相撲時代と比べて体重は30?落としているし、いい感じで回復してます。総合の練習は2ヵ月前から本格的に始めました。日本では小路(しょうじ)晃さんに指導を受けていて、これからエストニアに帰って練習します。

―エストニアで総合は盛んではないですが、練習相手はいるんですか?

カイド 先ほど言った206?の用心棒仲間とは長い付き合いで、彼はレスリングの選手なんですよ。あとはロンドン五輪のレスリングで銀メダルを取った同級生がいる。11月中には日本に戻ってピーター・アーツさんと打撃の練習をする予定です。

―ぶっちゃけ、打撃に対する恐怖心は?

カイド 大相撲にも張り手とか打撃はありますから怖くはないですね。

―得意なパンチなどはある?

カイド 私のパンチ、すべてスゴいよ! 相撲時代にも、私のぶちかましや張り手を食らって目が飛んでいる人は結構いたし。パウンド(グラウンドでのパンチ)の練習もしていて、自分で言うのもなんだけど、かなりいいパウンドを打てる。体のポジションによって打ち方は全然違ってくるけど、チャンスになったら思い切りやるだけですね。

―総合には下から相手の関節を極めたり、絞めたりする柔術の技術もあります。

カイド 確かに総合にはいろんな技術が必要ですが、私は柔道も経験している。相撲と柔道という自分のルーツを武器にして、総合に適応したファイトスタイルをつくっていけると思います。

―これまで元横綱の曙らが大相撲から総合に転向しましたが、成功を収めた例はありません。そういう過去のデータは気になる?

カイド 日本のメディアはそうやって比べるかもしれないけど、お相撲さんどうこうという問題ではなく、私は私。一生懸命にやるだけで、新しい挑戦をすることが大事だと思ってます。

―闘いたい選手は?

カイド 総合は初めての経験だから、こだわりはないです。誰でもこいという感じですね(微笑)。

(取材・文/布施鋼治 撮影/乾 晋也)

■ホーヴェルソン・カイド

1984年生まれ、エストニア出身。柔道を経験した後、12歳から相撲を始める。史上初のエストニア出身力士として2004年に初土俵。“角界のディカプリオ”と呼ばれ人気を博し、10年に大関昇進。13年に引退

「RIZIN FIGHTING WORLD GRAND−PRIX 2015」

12月29日(火)、31日(木)/さいたまスーパーアリーナ 詳細はホームページでチェック!