アニメの解体が始まった…「ME!ME!ME!」にみる映像幾何学の最小単位sankaku、その増殖と深化

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2014〜15年のアニメ業界は、庵野秀明氏が発起人となりスタジオカラー・ドワンゴが贈る短編映像シリーズ「日本アニメ(ーター)見本市」を抜きに語れない。特設サイトで配信される企画のなかでも再生回数1位を獲得した超過激作、第3話「ME!ME!ME!」はインパクトで群をぬく。美少女が増殖、変質、リピートする悪夢。狂おしく明滅する光と闇の洪水こそ、気鋭のヴィジュアリスト集団sankakuが放つ存在感そのものだ。彼らはアニメの従来型ワークフローを完璧に覆す。暗雲垂れ込める業界に一石を──もとい、1ポリゴン(3角形)を投じている。

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「撮影」ではなく「モーショングラフィックス」

クリエイティヴ集団sankakuは、刺激的なモーショングラフィックスを生み出す新興勢力だ。モーショングラフィックスとはコンピューターで生成する動的イメージの総称。立体的なCGモデルや平面的な図形に加え、手描きキャラクター、実写のコラージュ等のあらゆる視覚素材を複雑に組み合わせ、ときにはコピーし、ときには色をいじり、変化自在に動画データを生成する(VJ的な表現、といえばご想像いただけるだろうか)。

素材は自前で用意するケースもあるし、外部から受けとめた素材をいじり倒すケースもある。例えるなら専業アニメーターが「食材を提供する農家」、従来のアニメ制作会社が「老舗のレストラン」だとするなら、sankakuはさしずめ「農家が始めた創作料理店」といったところか。代表のわたなべしゅんすけは、やや謙遜気味に語る。

「ぼくらって、かなり珍しい存在だと思いますね。映像業界の隅っこの…隙間で仕事してる気がします(笑)」

彼らが武器とするソフトウェアについて簡単に触れておきたい。「AfterEffects」はいわゆるコンポジット(合成)用ツール。映画・テレビ・CMなどに幅広く用いられているが、アニメの現場ではキャラクターと背景画像を重ねあわせ完成させる最終工程を担う。セル画時代の名残りから、そのプロセスは「撮影」と呼ばれるのが常だ。ところが本来AfterEffectsはそれ自体で線や図形を生成し、アニメートできる。映像業界ではAfterEffectsのノウハウを磨いた使い手を「モーショングラフィッカー」と呼び、デジタルなアニメーターとして重用してきた。他方、伝統的な手描きアニメ業界から見ると、撮影工程以外にAfterEffectsを用いるモーショングラフィッカーは異端中の異端。しかし、その異端が勢いづく状況が徐々に育まれつつある。

2015年1月から放映されたテレビアニメ「東京喰種トーキョーグール√A」の斬新なオープニングムーヴィー。少年を被うモチーフと背景の変化でドラマティックに魅せる。従来の「作画枚数で動きの良さを追求するアニメ表現」とは一線を画す演出家・嶌田惣一による奇抜なプラン。支えたのはsankakuの発想力だ。

「テレビアニメ作品だと、本編よりもオープニングとかエンディングを手伝うことが多いですね」

テレビアニメの冒頭を飾るオープニングアニメーションは、本編とは別の部隊が請け負うケースが多い。尺にして1〜2分程度しかない中、作品の世界観をインパクトたっぷりに伝える重責を負う。と同時に、主題歌を伴う習慣から台詞を入れ込む余地がなく、映像自体に本編とは別種の説得力・破壊力が求められる。斬新で強いアイデアが欲しいならモーショングラフィッカーの出番。ところが、そもそも手描きアニメの大量生産的な業界構造では、AfterEffectsで図形をアニメートするといった特殊な才能が育たない。

その点sankakuを率いるわたなべは大学を卒業後、チャレンジングな作風で知られるアニメーションスタジオ・STUDIO 4℃に就職。古い体質に縛られることなく映像制作におけるさまざまな技術を身に付け、手描きアニメ独特の共通言語を操りながら、同時にAfterEffectsがもつさまざまな可能性を手広く体現してきた。その経験を活かして独立、結成したsankakuだからこそ、アニメの顔たるオープニングムービーへ強かに関わることができる。異端でありながら重宝され、いまのようなユニークなポジションへと収まることができたのだ。

肩書き不明、最小単位の「表現者」

そんなsankakuがストーリー性の強いショートフィルムで暴れまわった作品が、日本アニメ(ーター)見本市第3話「ME!ME!ME!」だ。本作品は、TeddyLoidによるビートの効いたEDMトラックにdaokoの独特なラップ・歌声が妖艶さをのぞかせる楽曲が主軸となった、アニメーションとCG・モーショングラフィックスを融合させたミュージックヴィデオという体裁をとっている。

少年を襲う量産型美少女の妖しい躍動、幾何学模様の洪水。「ME!ME!ME!」はぶっ飛んだ作品だが、制作手法も常軌を逸している。スタッフ同士がクリエイティヴを積み重ねるさまはまさにループミュージックの手法。「アート」なんてお行儀のよい言葉でなく、「プレイ」と呼ぶのが似つかわしい。

監督に抜擢された吉崎響の誘いで参加を決めた。吉崎もモーショングラフィックス畑で腕を磨いてきたいわば同胞であり、当然ながら制作手法はごくノーマルなアニメ的量産ラインを逸脱する。絵コンテ、キャラクターデザイン、作画まで進んだところから、編集とモーショングラフィックスの工程が入れ子構造になっていく。監督がちぎって、sankakuが貼って、監督が描き加えて、sankakuがひっくり返して。

「それを(スケジュールの許す限り)何周するか…って感じです」

彼らはアニメの工場を飛び出した暴走気味のロボットアームだ。手描きキャラの魅力を充分に理解した上で、デジタル的に「よってたかって」弄ぶ。作品の趣旨に合わせ、必要あらば従来のワークフローをも大きく変えてしまう。分担方法も曖昧である。アニメの常識である編集と撮影の担当者が分かれない。さらに(おそるべきことに)作業はカット単位でも完結しない! きっと上下関係も見えづらいに違いない。残り時間が許す限り誰かが手を動かす、ひたすら動かし続けるという執念の産物だ。誰にでもできるか、と問われれば間違いなく「NO」。企画から演出、作画と彩色を経て撮影…という全工程を経験し、理解し、実践できるsankakuだからこそ可能な芸当だといえる。

「そういう感じなんで、自分の肩書きをどう名乗っていいか悩むんですよね(笑)」

「ME!ME!ME!」からは倒錯したフィルムの価値のみならず、制作手法の解体と再生を感じとることができる。今日までテレビなる媒体は、アニメに「30分間を毎週放映」というフォーマットを強いてきた。業界はそれに基づき量産ラインを整備した。川の上流に「作画」があり、「彩色」を経て「撮影」へ流れる…という役割分担、そしてコストの見積もり。

しかし今後はYouTubeやNetflixといったネット配信が台頭する。テレビで確立されたフォーマットが少しずつ意義を失い、量産ラインそのものも解体が進んでいくだろう。もしかしたら「少人数で並列」し「よってたかって」つくり込むスタイルこそが、アニメ本来のつくり方であると定義される時代が来るかもしれない。sankakuのミニマルな人員構成こそ、新生の息吹と見なせるのではないか。

紙と鉛筆からスタートする必要のないモーショングラフィックスの現場でも、絵コンテはすべて手描きだ。大画面の液晶ペンタブレット(写真はCintiq 27QHD)に触れて、sankaku代表・わたなべしゅんすけは「ここまで大きいと、没入感と集中力が生まれる」と語る。仮想空間とアーティストの距離が消える、あちら側へ「トリップ」する…といった感覚は、VRゲーム制作にも携わるsankakuならではといえるだろう。これも「パーソナル環境の超高性能化」の一例である。

最近では企業PRを目的としたVR(ヴァーチャルリアリティ)ゲームづくりにまで手を染めているsankaku。若いプログラマー3人と組んで、少人数編成の作業をこなしたばかりだという。そういったチャレンジを易々とやってのける様に、最小単位・パーツとしてのフットワークの良さ、組み合わせに対する自由度の高さが現れている。

こういった動向の背景には、Adobe製品がクラウドによってパッケージ化され、ノートPC1台あれば月額幾らでさまざまなツールを片っ端から扱えるという「パーソナル環境の超低コスト化・超高性能化」が大いに関係している。

例えばアニメーターやモーショングラフィッカーでもWebプログラミングに抵抗なく挑戦できるし、写真家やイラストレーターだって動画編集を会得すればYouTubeやニコ動で配信が可能。個人の可能性は今後拡大する一方である。だとしたら、仕事に縄張りをもうけない、ワークフローにこだわりをもたないボーダレスな姿勢こそ、「最小単位」たるクリエイターにふさわしい態度といえるだろう。

「sankakuの意味ですか? 『CGの最小単位(ポリゴン)』が3角形で、あと『再生ボタン』が3角形だから。つっても、後付けなんですけどね。何人かで会社の名前を考えてた時期に、まる・さんかく・しかく…っていう部署名を思いついて。じゃあ俺、さんかくやるわ…って言ったのが発想の原点で」

期せずして彼らは映像幾何学の最小単位、そしてわくわくの詰まったスタートラインを名乗った。ぼくらはsankakuの残像を追いかけながら、動画の再生ボタンではなく、あるいはゲームの再生ボタンでもなく、業界自体の再生ボタンを押し、アニメーションの進化に興奮することになるのだろう。まぁ、この例えも-後付けなんだけれど。

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