早稲田実業vs今治西

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甲子園は清宮を大きく育てる道場

清宮幸太郎(早稲田実業)

 今大会屈指の注目選手、早稲田実業の清宮 幸太郎(1年・一塁手)が第1試合に登場するとあって、阪神電車は朝からごった返していた。私は先着する急行電車を1本パスして次発の特急電車に乗ったが、友人のスポーツライターは2本パスしたという。甲子園駅に下車すると、甲子園球場チケット売り場までは長蛇の列が出来上がっていた。始発電車に乗って通っているもう1人の友人は、始発で来ても長い列に並ばなければならないので第1試合に早稲田実業を持ってくるのは勘弁してほしいと泣きが入っていた。それくらい大騒ぎされているということである。

 この試合前のシートノックを見ていたら今治西各選手の動きが溌剌としていた。いや、溌剌なんて表現は生易しすぎる。食ってやろう、という欲望でギラギラしていた。これはよほど引き締めていかないと早稲田実業は苦労すると思ったが、今治西は「食ってやろう」という気持ちが空回りしていた。

 今治西の投手陣に特徴的だったのは内角攻め。先発の藤原 睦来は選抜大会のときは好打者として注目した選手で、本来は外野手である。スピードはこの日の最速が135キロだから大したことはない。それが急造投手とは思えない厳しい内角攻めを見せたのである。早実を食って自分たちが主役に躍り出ようという欲望の強さと言ったほうがいい。しかし、この厳しい内角攻めもコントロールが伴わなければ武器として機能しない。

 1回裏は4番加藤 雅樹への死球、3回は清宮、加藤に連続死球と内角攻めがピンチを招き寄せる原因になってしまった。1回は加藤への死球後、5番金子 銀佑(3年)に三塁打を浴びて先制の2点を奪われ、さらにエラーで1失点という具合。四国の友人は今大会の四国4代表校の印象を「一番活躍すると思ったのは明徳義塾ではなく今治西のほう」と言っていたが、人気校・早稲田実業が初っ端の対戦相手だったため平常心を忘れてしまったようだ。 

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 今治西の内角攻めに関しては、清宮には手厳しい甲子園の洗礼となった。5打席中、出塁した安打1、死球1以外は、一飛、中飛、二塁ゴロという内容。最速135キロの藤原とさらに速くないサイドスロー・杉内 洸貴の内角攻めに青息吐息だった。

 10年に1人の強打者というキャッチフレーズがつくと、普通の高校生投手は外角に逃げるのが一般的だ。しかし、近年の打者が最も苦手とするコースは内角。それは高校生もプロも同じで、パ・リーグなどは内角を厳しく攻める投手と、それに対抗する打者が相乗作用で実力アップにつなげている。

 この日の清宮をたとえてみれば、パ・リーグ投手の内角攻めに腰が引けたセ・リーグ打者という感じだろうか。私は9年前の夏、早稲田実業の斎藤 佑樹が大阪桐蔭の中田 翔(ともに日本ハム)の内角を厳しくえぐり続けたシーンを思い出した。斎藤の内角攻めは結果的に中田の長期スランプの原因になり、翌年夏は金光大阪の植松 優友(ロッテ)に同じように内角を攻め続けられ、甲子園を逃した。

 次戦は左腕エース・堀 瑞輝(2年)擁する広島新庄が相手。マスコミの中には広島新庄の知名度の低さから「楽な相手」と見る向きがあるがとんでもない。今治西が見せた内角攻めが有効と知った今、さらに厳しい内角攻めが予想される。さらに早稲田実業打線はスターティングメンバーに左打者が5人並んでいる。ここに左腕投手の内角攻めがくれば厳しい展開になると予想するほうが普通である。そして厳しく内角攻められ続けながら、7回には甘い初球をライト前にタイムリーを放った清宮はさすがである。甲子園は清宮を大きく育てる道場のようである。

(文=小関 順二)

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