中京大中京vs岐阜城北

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中京大中京の打撃陣が見せた好球必打とエース・上野の針の穴を通すコントロール!

上野翔太郎(中京大中京)

 ストライクを見逃した数が少ないチームほど勝率が高い、という法則がある。私が今年調べた中では約63パーセントの確率で見逃しの少ないチームが勝っている。その法則がこの試合にも当てはまった。岐阜城北の22.6パーセントに対して中京大中京は15.3パーセント。その好球必打の傾向は、勝負を決めた1回表の攻撃で顕著に見られた。

 1番河田 航平(2年)がストライクを全球振って1ボール2ストライクからの4球目を右中間に三塁打、2番加藤 大騎が1ボールからの2球目をセンター前に弾き返して1点。さらに3番中村 健人が3ボール1ストライクからライト前、4番伊藤 寛士が初球ヒッティングで2点目、5番矢田崎 明土が2ボール1ストライクからの4球目をセンター前に弾き返して3点目の走者を迎え入れた。この16球の中でストライクの見逃しはわずか2球。この5者連続ヒットが岐阜城北の出鼻をくじいた。

 その裏、岐阜城北も1点を返した。1番池尾俊祐がサードエラーで二塁に進み、2番林 剛輝の中前打で無死一、二塁。1死後、4番宮川 敬太のショートゴロを中京大中京の佐藤 勇基(2年)が二塁に悪送球して1点を返すという、中京大中京からすれば非常に嫌な展開で1点返したわけだが、それ以降のチャンスを2者連続見逃しの三振で逃したたことが大きかった。

 中京大中京の先発・上野 翔太郎は174センチ、74キロという体格を見れば剛腕と呼ぶようなタイプでないと思われがちだが、10奪三振すべての結果球がストレートだった。確かに剛腕タイプでないが、たとえば1回に投じた19球のうち変化球はわずかに2球だけ。あとの17球はすべてストレートだった。

 ストレートを多投して結果的に1失点に抑えたということだけ見れば、岐阜城北打線に工夫がなかったように思われるが、上野はそのストレートを低めに集中し、内・外角に正確に配した。コントロールのいい投手を形容して「針の穴を通す」と言うが、この上野にこそ当てはまる言葉である。

 ストレート主体のピッチングはまったく単調にならず、3ボールになったのは2回だけ。あまりのコントロールのよさに2ボールのカウントから打ったのが2回ある。フォアボールを待っても期待できないのでストライクコースにきたら打っていこうと打者に思わせたのだろう。しかし、ボールは内・外角のベースを正確によぎり、高めにも浮かなかった。

 コントロールだけではない。そのストレートの多くは140キロ前後を計測し、最速は最後の打者を空振りの三振に斬って取った144キロ。要するにスタミナがある。初回のピッチングを見たときは上背のなさにだまされたのか、ドラフト候補という迫力は感じなかったが、投げるうちにストレートのキレや正確なコントロールを魅了され、大学に進学したのちの4年後くらいにはドラフト上位で指名されるような投手になっているだとうと思わされた。

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 この上野に対して岐阜城北打線は序盤、待球作戦に出た。5回を終了した時点での見逃し率は中京大中京の14.3パーセントに対して25パーセント。5回以降は積極的に打って出て22.6パーセントまで持ち直すのだが、時すでに遅しという感は否めなかった。

 2回以降の攻撃で走者が二塁に進んだのは8回の1死一、二塁のときだけで、いずれも上野のストレート主体のピッチングに翻弄され、決定打が出なかった。しかし、岐阜城北打線を責めようとは思わない。上野は左肩の速い開きがなく、球持ちが抜群にいいため、打者はその球筋を正確に追うことができない。大げさな表現をさせていただければ、腕を振った次の瞬間にはボールがキャッチャーミットに収まっていた、そんな錯覚を覚えさせるようなピッチングだった。

 中京大中京打線の中で魅了されたのは1番河田の強打と俊足。好打者に共通する、打席に立ったときの脱力感とゆったり感があった。せっかちにボールを迎えにいくということがなく、十分呼び込んでから広角に打ち分けるというのが真骨頂。1回の三塁打が右中間、2回のヒットがレフト、4回の二塁打がセンター左という打ち分け具合である。8回の守りのとき脱水症状のためか足がつって退場したが、あとホームランが出ればサイクル安打という快打の連発は見事だった。

(文=小関 順二)

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