一方、守備面の充実ぶりも見逃せない。“ゴールを奪えるウイングタイプ”の興隆が続く現代サッカーにあって、サイドにストライカータイプを張らすJクラブは目立つ。加えて浦和の3-4-2-1対策として、敵はウイングバックと槙野との間にできたスペースの攻略を画策してくる。
 
 必然的にDFの槙野にとって、相手のエース級の侵入を食い止めることが仕事のノルマになるわけだ。
 
 例えば昨季32節のG大阪戦、優勝を目前にしながら0-2で敗れたとはいえ、絶好調だった大型FWパトリックを完璧に封じたのが、槙野だった。そして今季9節、ホームで迎えた再戦でも、彼はパトリック封じを完遂して1-0の勝利に貢献した。
 
 今はそんな守って目立つという役得に、大きなやり甲斐を感じている。「どの選手も『俺んところに来いよ』ぐらいの気持ちでやっていますよ。パワーもスピードもある選手のほうがいい。抑えれば、彼らが僕の力を引き上げてくれるわけですから」
 
 そう槙野は言って『14年と今季のパーソナル比較データ』(下表参照)に目を配った。「あ、ほら、去年よりも上がっていますよね」
 
 彼が目を付けたのが、『空中戦(自陣)』の項目だ。勝率が昨季66.7パーセントから72.1パーセントに上がっている(『敵陣での空中戦』の勝率も、61.5パーセントから70.8パーセントに大幅アップした)。
 
 その要因に挙げるのが、元200メートルハードルのアジア記録保持者でランニングコーチの秋本真吾氏と昨年から取り組む、ランニングフォーム改造の効果だ。2年連続でオフに直接指導を受け、今季はすべての試合後にフォームをチェックしてもらっている。
 
 ふたりで写真や動画でやり取りし合い、姿勢が悪くなった時間帯の指摘、足の接地箇所の修正点、逆に良かった点などが、秋本氏からフィードバックされる。浦和では他にも、宇賀神、関根、梅崎、加賀が指導を受けている。「誰かの真似ではなく、自分の走りのベストを追求できている」と、槙野は一目置く。
 
 ランニングフォームの改造で特に重点を置いてきたのが、「身体に負担をかけず、90分間走り続ける身体作り」だ。様々な状況に対応しながらも、常に最高のパフォーマンスを発揮できるような、効率良くスピードに乗ったフォームが身に付いてきた実感を得つつある。
 
「DFは相手の一歩後手に回る場合が多い。それでも相手より早くボールに触り、追いつけるような走りになってきている」
 
 槙野はその効果を「空中戦」で感じ取っていた。
「走り方が改善されてよりスムーズになったことで、ジャンプ力がかなり上がっている感覚があったんです。ジャンプに入るまでの動作がスムーズだということ。この空中戦のデータは、その事実を客観的に示してくれていると思いますね」
 
 加えて、元々武器だったフィジカルは強度と柔軟性が増し、より怪我をしにくくなった。槙野の好調の秘訣は、まさに地に足を付けた取り組みにあった。
「新しいトレーニングがプラスに働くのって、本当に面白い。今しっかり噛み合ってきた気がしますから」
 
 好感触を掴むなかで、吉報が届く。1年半ぶりの日本代表への復帰だ。
 ハリルホジッチ監督の下、これまで4バックの中央に入り、3試合にフル出場している。練習を締めくくる円陣の声掛け役に任命されたこともあった。
 
 浦和での槙野のプレーに変化が見られたのも、ハリルジャパンに初登場した3月27日のチュニジア戦のあとだった。よりチーム全体のバランスを整える役割が増えた一方、守備時にはどっしり腰を据えて対応する、言ってみれば余裕が感じられるようになったのだ。