今年は最後で崩れて優勝を逃したこともしばしば。昨年までのアニカが帰ってきた! (Photo JJ.Tanabe)

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 「何事も出だしが肝心」という言葉は、全米女子オープンのプレーオフでそのまま実現された。アニカ・ソレンスタムとパット・ハーストとの18ホールのプレーオフは、出だしの1番ホールでアニカがバーディ、ハーストがボギー。いきなり2打の差が開き、その差は6ホールのうちに4打まで開いて、終わってみれば、やっぱり4打差。1アンダーで回ったアニカが3オーバーのハーストに圧勝した。この優勝はアニカにとってメジャー10勝目、通算68勝目。全米女子オープン制覇は95年、96年に続く10年ぶり3度目となった。

 アニカが女王なら、ハーストはいわば「アメリカのお母さん」のイメージかもしれない。太っちょ体型ゆえ、今回は長丁場でのスタミナ切れも敗因の1つ。完敗した後、「ああ、本当に疲れた」。前日の36ホールに続く今日の18ホール・プレーオフというハードスケジュールがハーストを疲れさせた最大の原因には違いないが、72ホールのプレーではあれだけ入っていたパットが、プレーオフではすっかり入らなくなったことも、お疲れ度を倍増させたに違いない。

 宮里藍もパットに苦戦し、ミシェル・ウィーもパットに泣いた。結局、どれだけ距離が長くても、どれだけラフが深くても、スコアメイクの決め手はパットであることが、ハーストの前日までの72ホールと今日の18ホールを見比べると、よくわかる。名前が「パット」なのに、パットに苦しんで完敗したというのは、なんとも皮肉な結果だ。

 皮肉と言えば、7月にして今季2勝目をようやく挙げたアニカもまた「皮肉」という言葉を口にした。昨年はクラフト・ナビスコ選手権と全米女子プロ選手権で優勝し、メジャー2連勝を含む年間10勝を飾った女王でありながら、今年はメジャーでも通常の試合でも振るわず、かつての輝きや勢いを失いつつ様子だった。ときどき、試合会場近くのスターバックスでアニカに偶然出会ったのだが、パソコンを開き、1人静かにコーヒーを飲みながらメールのやり取りをしている彼女の姿には「輝き」より「疲れ」が見てとれた。

 私生活においても、ここ数年は離婚をはじめいろんなことがあった。しかし、今日のアニカはすべてを忘れ去り、目の前のボールと目の前のホールだけに集中していた。淡々とプレーするアニカは、あのピア・ニールソンの「54ビジョン」を地で行く主人公になりきっていた。ウイニングパットを沈めた瞬間の沈黙と静止状態は、自分の身に起こった「あれこれ」が思い出された複雑な心境の数秒間だったに違いない。「今年は良かったり悪かったりが続いてきて、なかなか優勝ができず、やっとできたのが全米女子オープン……少し皮肉ですよね」。皮肉ではなく、最高のご褒美だ。

 そして、必死にもがきながらもアニカとの差を縮めることができなかったハーストにも、ご褒美があった。最終ホール。グリーン手前からパターで寄せた第3打。10メートルがカップインしてバーディフィニッシュ。もちろん、この1打は「すでに遅し」なのだが、18番グリーンを取り巻く人々の拍手はハーストに温かく、人々に応えるハーストの笑顔はとてもチャーミングだった。

 勝敗は出だしでつき、結果はアニカの圧勝、ハーストの完敗だったけれど、2人が見せたいい笑顔は、ファンにとって最高のご褒美になった。