東京都中央区の日本銀行本店。(資料写真:徳永裕介)

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福井俊彦日本銀行総裁が、先に証券取引法違反容疑で逮捕された村上世彰容疑者の村上ファンドに出資、1473万円の利益を得ていたことが問題になっている。福井総裁は日銀職員の接待汚職の責任を取って98年に副総裁を辞任、その後民間シンクタンク理事長等を経て、03年に“奇跡”の復活を果たした日銀生え抜きのトップ。その人格、識見を称える人は多いが、今回の問題は命取りになるかもしれない。

 “通貨の番人”と呼ばれる日本銀行は、その通貨発行権や金融政策の権限が有名だ。しかし、意外とその実体については「分からない」という人も多いと思うので、日銀の位置づけや総裁の権限について、簡単に触れておこう。

 日銀は1882年の設立。日本の中央銀行であり、銀行券を発行するとともに金融政策を通じて物価の安定を図る。日銀職員を国家公務員と間違える人もいるかもしれないが、日銀は日銀法を根拠にした資本金1億円(意外と少ない)の認可法人。職務の性質上、みなし公務員の扱いは受けるが、純粋な公務員ではない。政府が55%の株を持ち、残りの45%弱は民間の資本。つまりは、一般企業とも違うが、利益を上げて株の配当も行うという、普通の法人と変わらない性格も一面で持っている。

 金融政策の舵取りを担うのが「政策委員会」であることも有名だ。日銀の最高意思決定機関として、総裁、2人の副総裁、大学教授出身者などから選ばれた6人の審議委員による9人の合議制で、さまざまな金融政策を論議する。

 そうした重責にある福井総裁が、金利政策等を自ら判断しながらファンドに出資していたことについて、国会の追及を受けた同総裁は「委員会は合議制です。私一人の判断で決められるものではございません」と答えている。しかし、それはあくまで建前。意見が割れた場合には多数決によるが、これまで総裁が提示した議案が否決されたことは一度もない。つまり、それだけの重責で権限もあり、自らの身辺はとりわけキレイにすることが求められる日本の金融政策のトップでもあるのである。

 98年に施行された改正日銀法は日銀の独立性を高めたとされるが、同時に総裁の任命も国会の承認事項とした。一方で、身分は強く保障されている。「在任中、その意に反して解任されることがない」(第25条)し、任期も5年間という長さ。給料も年間3700万円を超える水準にある。福井氏のこれまでの経歴を見ても、確かに1000万円の投資は氏にとって「わずかばかり」の金額なのかもしれない。【了】

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