18歳少年、中学時代はいじめられていた 被害者が残虐な加害者になる例は珍しくない
川崎市の中学1年、上村遼太さんを殺害したとして少年3人の容疑者が逮捕されてから1週間がたち、リーダー格とみられる18歳少年の素顔が明らかになってきた。
不良グループに属し、周囲に暴力を振るう一方、中学時代にはいじめられていた過去を持っていたようだ。
年下の少年グループからも「カス」「クズ」
逮捕された直後は少年に関し、不良グループに属し、同級生らに暴力を振るったり、酒を飲んで暴れたりする様子など、暴力性を強調した報道が目立った。
しかし次第に、地元の市立中学に通っていた当時は「いじめられっ子」だったという周囲の証言が各メディアで取り上げられるようになってきた。学校を休みがちで部活に入らず1人でいることが多く、いじめの対象になっていたという。
週刊誌では不良グループのパシリにされ、コンビニで万引きをさせられていたとする、かつての不良仲間の証言が紹介されている。J-CASTニュースが取材した、年下の少年グループからも「カス」「クズ」と侮られていた。
その一方で、自分より体格が劣ったり、気弱だったりする相手には「いじめっ子」の顔を見せ、暴力を振るっていた。夜間高校に進学した頃からは年下の少年らを従えるなどし、その中の1人に上村さんも含まれていたとみられる。前述の少年グループの1人は「容疑者とは縁切って、俺らと一緒に遊ぼうと誘ったが、結局来なかった。脅されてたんだと思う」と話していた。
加害者の約7割が「自分もつらかった経験がある」と回答
いじめられっ子がいじめっ子に転じ、非行に走ることはあるのだろうか。いじめ問題に取り組むNPO法人「ジェントルハートプロジェクト」の小森美登里さんは「決してめずらしいことではない」と話す。
同団体が全国の小中学、高校生を対象にしたアンケート調査では、小学生の25%、中学生の16%、高校生の12%がいじめの被害者と加害者の両方を経験したことがあるとし、加害者の約7割が「自分もつらかった経験がある」と回答している。小森さんは「恥ずかしかったり、プライドがあったりして、実際にいじめられていた人はもっと多いのではないか」とみている。
また、面談したある生徒は「もう2度と被害を受けたくないから、加害者となって生きていく」と話していた。進学などで人間関係が変わったり、体格が成長したりして、かつての被害者が今度は加害者側に回ることはめずらしくないそうだ。
川崎の事件では、少年は新たに「上村さんが慕われていてムカついた」と供述している。小森さんは、
「いじめの背景にはねたみや嫉妬があることが多い。自分がいじめられた時は誰も守ってくれず孤独だったのに、上村さんを殴ると友人たちがかばって、謝罪させられた。少年がそれを妬み、恨んだ可能性はある」
と語る。
その上で、友人らが正義感で行った行為に責任はないとし、周囲の大人たちの対応が誤っていたと指摘する。事件前には謝罪騒ぎで警察が出動するなど、周囲の多くが少年と上村さんのトラブルを把握していた。「暴力や非行に走っていた少年を『何をしているんだ』と怒るのではなく、『どうしたんだ』と背景に何があったのか、学校や周囲の大人が声をかけるべきだった」という。
「甘やかしているという人もいるかもしれないが、第一にしなければならないのは加害者の行為を止めること。暴力を振るう背景にあった孤独から、彼を解放することができていれば防げた事件だったかもしれない」