どこでわかる? 命を預けていい医師、ダメな医師

写真拡大

■90度に座るのは×。ゼロ度に座るのは◯

「世界的に見て日本の医療レベルは高いのに、患者の満足度は低い」と言われる。

大きな理由の一つは医師のコミュニケーション不足にある、と語るのは天野慎介氏だ。「医療現場の忙しさに加え、かつての医学部には患者との模擬面談の講義がなかったことが背景にあります」。

天野氏は、27歳のときにがんの一種、悪性リンパ腫に罹り、2度の再発をもくぐりぬけた、がんサバイバー。現在、患者の会の代表や、がん医療に関する政府審議会などの患者委員として活躍し、病院やがん医療の実情に詳しい。

当たり医師か、ハズレ医師か。コトは命に関わる一大事だ。いかに見極めるか。

「理想は、患者の話によく耳を傾け、診察や手術のスキルが高い医師でしょう。でも完璧な医師はいません。加えて、現在は1人のエース的なドクターに依存せず、チーム医療を組む現場が多い。そうなるとコミュニケーション力のある医師を求める患者は多いですね」

天野氏は自己体験を踏まえ、コミュニケーション力のある医師は、診察室での「座り方」が違う、と語る。医師は電子カルテ上で患者の症状の入力や診察の履歴の確認をすることが多い。

「事務的な作業をする際、医師が患者に横を向けるのはしかたがありません。しかし、いい医師は不安でいっぱいのがん患者の心理をよく承知していますから、きちんと目を見て話しますし、どんな症状なのかを患者さんのペースに合わせ、話を途中で遮らないで聞き取ります。アイコンタクトだけでなく、患者と体を向かい合わせることが習慣付いています」

つまり、患者に対して90度に座る医師ではなく、ゼロ度の医師を選べということだ。天野氏の主治医はがんが再発して絶望の淵に突き落とされていたときに目と体を向けて次のように語ったという。

「天野さん、われわれ医療者はどんな状況でもできることがあると信じています。一緒に頑張りましょう」

その眼差しからは、その医師のドクターとしての熱意と「決してあなたを見捨てたりしません」という慈愛のようなものを肌で感じたそうだ。

「がん治療は日進月歩していますが、それでもがん患者の約半数は助からずに亡くなります。その現実を知っている患者に寄り添い、治療時に並走してくれる医師の存在こそが最も効き目のあるクスリとなるのかもしれません」

天野氏には、前出の担当とは異なる医師とのあるコミュニケーションがきっかけで心の交流ができるようになった経験もあるという。その医師は治療の一環で、天野氏に、ある臨床試験の抗がん剤をすすめた。効くか効かないかはわからない。でも、副作用があることは確実だ。

答えに窮した天野氏は「先生が患者ならどうしますか」と聞いた。医師の答えは「私なら、受けません」。ならば、なぜすすめたのかと問うと、「すみません、仕事の一環だからです」。その潔い回答、心をオープンにした“ぶっちゃけトーク”に医師の誠実さを感じたという。医師の本音や人柄を探るため、「先生ならどうしますか」と逆質問する手はありだろう。

■面談時間が押す医師は面倒見がいい

医師とのコミュニケーションは、通常の外来の診察のほかに、面談の時間を設けてする場合もある。天野氏によれば「多い場合は、1人のドクターが数百人の患者を受け持っている」こともあり、外来では「3時間待ちの3分間診療」といった事態もしばしば発生する。そこで、がん治療の選択など、重要な案件は別時間を予約することになるのだが、命を預けていい医師ほど「予定通りに面談が始まらない」傾向があるという。

「時間にルーズなだけの医師は別にして、時間が後ろへずれてしまうのは、むしろ患者との会話を重視している証しと言えると思います。私は今も定期的に医師と面談しますが、予約は午後2時なのに始まるのが午後5時なんていうことも珍しくありません。仕事への影響も大きいのですが、そうした日は午後のスケジュールを全部あけるようにしています」

一方、コミュニケーション力以外で、信用できる医師の条件とは何だろうか。

当然のことながら、セカンド・オピニオンを申し出たときに嫌な顔をせず了解する、診察や面談時に患者がメモを取ることを認める(可能ならばICレコーダーなどでの録音などを許可する)といったことは命を託す医師選びの前提条件だ。

そうした「基本」に加えて、天野氏が挙げるのが「1人で抱え込まない医師」だ。医師とて、スーパーマンではない。だが、過去に手がけた手術症例数が乏しい患者に出くわしても無理をして引き受けてしまう医師は少なくないのだ。

「正直に、『経験が少ないので、他の病院をご紹介します』と言えばいいのに言わない。ドクター独特のメンツやプライドなのかもしれませんが、患者にとっては命に関わることで、その後、治療がスムーズにいかないのは明らか。こうした例はとくに地方の大学病院に見られます」

「限界」を知っている(認める)医師や病院は逆に信頼できるということなのだ。

■手術・治療法を図解!「絵心ある人」は当たり

さらに、医師が考えた治療方法の説明内容も「信用できる・できない」を測る尺度となる。患者軽視も甚だしいが、医師のなかには「この治療方針でいきます」と一方的に通告するタイプがいるという。高齢の患者などは「頼もしい」と感じる場合もあるようだが、天野氏は言う。

「当然、きちんと選択肢を提示する医師こそが望ましいです。そして、治療のメリット・デメリットを説明すること。それも患者が腑に落ちるまでわかりやすい用語で。また、言葉だけでなく患部の様子や手術の方法をシンプルな図解にしながら」

医師に必要なのはインフォームド・コンセント(説明と同意)と言われるが、天野氏に言わせれば「“説明と説明”つまり、患者からの説明や希望にも耳を傾けることが重要です」。そして、状況に応じて、患者にとって耳障りなことも言葉を選んで言える医師。そうした本物のプレゼン力があることがいい医師の要素なのだ。

読者のなかには、医師選び=いい病院選びと考える向きもあるだろう。その場合、陥りがちなのは、がんセンターや有名大学病院至上主義だ。確かに先進的な治療を受けられることもあるが、常にひどく混雑していることを覚悟すべき。

「1人の医師の仕事量も膨大なものになり、結果的に、『医師が話を聞いてくれなかった』と見捨てられたような気持ちになる患者さんは少なくありません。個人的には、病院を知名度やブランドで選ぶのではなく、自分のがんをきちんと診察してくれる専門の診療科がある病院に行くことが大事だと思います」

なお、「いい医師」情報は、各がんの患者会から教えてもらうという手もある。

■命を預けてもいい医師チェックリスト

[1]患者とアイコンタクトをとり、体をきちんと向かい合わせる
[2]「患者と医師」ではなく、「人と人」として本音トークできる
[3]「患者の話」を途中で遮ることなく、聞いてくれる
[4]診察・面談時に患者がメモや録音することを許可してくれる
[5]セカンド・オピニオンを嫌な顔をせずに許可してくれる
[6]「ゴッドハンド」でなくても、しっかりチーム医療に徹する
[7]大病院、有名病院の医師より自分のがんの専門診療科の医師
[8]わかりやすい言葉や図解によって病状や治療法を説明する
[9]各がんの患者会が推奨する医師(ただし情報は玉石混淆)
[10]「標準治療」ができる病院で、手術症例数の多い医師

※[10]の「標準治療」を実施する病院(全国397カ所のがん拠点病院)の情報は、国立がん研究センターのHP「がん情報サービス」に症例数とともに掲載されている。このほか、巷の「いい医師」ランキング本や雑誌の記事はあくまで参考程度にすべし。以上、天野慎介氏の話をもとに編集部作成。

----------

NPO法人グループ・ネクサス理事長
天野慎介(あまの・しんすけ)
2000年、27歳でリンパ腫を発症、化学療法、放射線療法、造血幹細胞移植などによりがんを克服。13年春まで務めた厚生労働省がん対策推進協議会会長代理のほか、文部科学省や医療機関の委員を兼務している。

----------

(文=大塚常好)