平均年収ワースト20社

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「取材はお断りします。言い訳はいたしません」

このように返答してきたのは、ワースト1位のトスネットだ。交通誘導警備を主力とする同社の平均年収は235万円。その理由を聞く取材への返答が冒頭だ。やはりトスネットは薄給で従業員を雇うひどい企業、となるのだろうか。「必ずしもそうとは限りません」と語るのは、公認会計士のM.H.さんだ。

■[理由1]業種特性

「警備業はもともと給与水準が高い業種ではありません。それにトスネットは本社が仙台にあり、物価水準も都心より低い。さらに、おそらく本来ならアルバイトや派遣社員として雇うような現場の方も一部正社員として扱い、社会保障などを整えてあげているのではないでしょうか」

給与が安い企業を見ていくと、大きく4つの理由があるという。それは、(1)もともと給与水準の低い業種、(2)通常は非正規社員として雇うところを正社員扱いにしている、(3)物価水準の低い地方に本社や営業拠点がある、(4)従業員の大半が若い女性、といった類型だ。

「1位のトスネットは、(1)から(3)が当てはまります。この事情を鑑みると、必ずしも従業員を搾取しているとはいえないでしょう」

この観点で見ていくと、同様のパターンはほかにも多く見受けられる。

■[理由2]現場も正社員

「2位の日本マニュファクチュアリングサービスの有価証券報告書を詳しく見ていくと、一般社員の平均年収は約460万円で、それ以外の現場社員は約240万円となっています。この現場社員は、通常なら非正規社員なのですが、扱いを正社員にしているために平均年収に計上され、全体として低くなっているのです。前出の類型では(1)、(2)、(4)が該当します」

同社にも取材を申し込んだが、「公表している以上のことを説明するつもりはありません」と断られた。後ろめたい事情がないのであれば、明快に説明してもらいたかったのだが……。

■[理由3]地方本社

3位のプレステージ・インターナショナルからは、メールで次のように丁寧な回答があった。

「平均年収の算出においては、秋田(編集部注:BPOの拠点あり)の比重が高いこと、契約社員等も含んでいることからご指摘のとおり、上場会社の中で低い水準にあることは承知しております。(中略)われわれは『高い給料で人材を取っていく東京の会社』ではなく、地域に密着し、愛される会社でありたいと思い、ただし、労務環境においては地域ナンバーワンを目指すことを掲げております」

やはり、拠点が地方にあることと、雇用形態のあり方が理由であるとわかる。そのぶん労務環境には力を入れており、全体の約7割を占める女性社員のために託児所やカフェを設置。秋田の拠点においては、マッサージルームや、地方で生活するうえで必要不可欠な車の整備のサポートも行っているという。こうなると、社会保障や労務環境を充実させているぶん、むしろ良心的な企業といえるのかもしれない。

■[理由4]女性比率

そのほかを見ていくと、14位の宝飾品、時計などの小売大手のベリテでは女性社員の比率が「公表していないが約7割」(同社総務部)と高い。加えて勤続年数も5.6年と、長く働く人が少ないことも理由の一つのようだ。「宝飾業界内で見ると、当社の給与が特別に低いわけではない」という同社の回答も理解できなくはない。

東京・青山にも出店し、ラスクで有名な20位の洋菓子メーカー・シベールも、本社が山形にあること、女性比率も「およそ8割」(同社)と高い。取材にも「業種で見ても地域で見ても、当社が特段に低いわけではないはず」と答えている。今回、取材に対応してくれた企業は少ないが、おそらく似た理由を抱えた企業が多いと思われる。

では、真の薄給企業はどこなのか。

「ある有名テーマパークを運営する企業では、平均年収は800万円近いのですが、働く人の9割はアルバイトです。彼らを正社員扱いすれば、平均年収は200万〜300万円程度までダウンするでしょう。出ている数字だけを見ても、よい企業か悪い企業かはわからないものです」(前出のHさん)

低年収にはワケがある。それが納得できるものかどうかは、そこで働く人たち自身が考えるべきことなのだろう。

(衣谷 康=文 PIXTA=写真)