フリーアナは不安定な職業だ(写真はイメージです)

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 今年10月、TBSの田中みな実アナがフリーに転身し、話題となりました。女性フリーアナといえば、ともすれば人気番組に数多く出演し、局アナ時代の給与をはるかに上回るギャラも手にできる華やかな世界――そんなイメージを皆さんはお持ちかもしれません。

 たしかに在京全国キー局の女性アナの年収は、20代後半で数多くの番組に出演している売れっ子なら、800万〜1000万円といわれています。しかし、フリーに転じると局アナ時代の何倍ものギャラを手にすることも夢ではないのです。

 近頃では、元日本テレビの夏目三久アナがフリーに転じてから局アナ時代の25倍、年収にして2億円ものギャラをもらっているという話も放送関係者の間から漏れ聞こえてきます。なるほど華やかで煌びやかな世界といえばそうかもしれません。そんな現実もあります。

月収が三桁もあれば1万円台だったことも……

 でも、こうした世界にいるのはほんのわずか。売れている、稼げているアナとは雲泥の差の暮らしを強いられているフリーアナも多くいるのです。

 アナウンサーの仕事がないとき、受付やテレフォンアポインターといったアルバイトで生計を立てながら、番組出演の機会を目指し、オーディションを受け続けるフリーアナも決して少なくはありません。オーディション参加のための交通費はすべて自腹。都内で1人暮らしだとかなりキツいはずです。

 私自身、とある県の地方局アナからフリーに転じた際、収入にかなりの浮き沈みがありました。多いときで月収3ケタ、少ないときは月収1万円台ということもありました。友人のなかには失業保険をもらって凌いだ時期もあったと話すフリーアナもいます。

「何年契約」と決められたレギュラー番組を持っていたときは、画面上での露出の効果か、単発での仕事もたくさん入り、収入にも余裕があったものです。このままいけば局アナ時代の月収をずっと上回り、それが永遠に続くのかと思っていたら契約期間満了に。こうして、次の番組出演機会を得るためのオーディション応募生活へと突入するのです。

 もっとも番組オーディションなどそうそうあるものではありません。こうしたオーディションに関する情報を取り、所属アナを番組やイベントに売り込むのがいわゆる“事務所”の仕事です。

 フリーアナのほとんどがどこかの事務所に所属しています。よく大手と弱小では、力関係の差がオーディション結果も左右するという話も聞かれますが、私の肌感覚では、事務所の大小よりもいいマネージャーがいるかどうかに尽きます。

 気の効くマネージャーなら、アナウンサーの仕事に恵まれないとき、企業や店舗の受付業務など時給のいいアルバイトを紹介してくれたりもします。ギャラの交渉やトラブルに巻き込まれた際、矢面にも立ってくれます。

後輩アナから「なんで先輩が受かったの?」

 テレビやラジオのレギュラー番組のオーディションは、大体、春と秋の改編の時に行われます。たった1人の枠に100人くらいのフリーアナたちがオーディションに参加するときもあります。とても狭き門です。

 ラクダが針の穴を通るような難関を突破した女性アナは負けず嫌いな人が多い。

 私があるラジオ局のレギュラー番組のキャスターオーディションに受かった時、後輩のアナから、「田中さん、あのオーディション落ちましたか?」と聞かれたことがあった。私は、一瞬、むっとして「受かったよ」と答えた。すると彼女は「どうしてですか? 私、あの番組をすごく担当したかったのに」と真面目な顔で怒りをぶつけてきました。

 そんな彼女も、そして私もフリーアナでいる以上、一度、番組との契約が終われば収入が途絶えてしまうというストレスとも戦っている。

 画面の中、ラジオの声、イベントで目にし耳にする女性アナたちは、人知れず、そんな苦労を抱えていると思えば、今までとはすこし違った目で、私たち女性アナや番組をご覧になられるのではないでしょうか。

(文/田中那智美)