諸見里しのぶが、シード喪失の危機に立たされている。

 今季は開幕から28試合に出場し、予選通過は半分以下の12試合。そのうち、Tポイントレディス(3月21日〜23日/滋賀県)とヤマハレディース(4月3日〜6日/静岡県)の17位タイが最高成績と振るわない。結果、10月11日現在の賞金ランクは、76位(獲得賞金688万6623円)。ボーダーラインが年間獲得賞金1900万円前後と推定されている、賞金ランク50位以内の来季シード権獲得にはかなり厳しい状況にある。

 諸見里がもっとも輝いていたのは、2009年。ワールドレディスチャンピオンシップ、日本女子プロ選手権のメジャー2大会を含めて、年間6勝を挙げたシーズンだ。賞金女王の座こそ、横峯さくらに譲ったものの、日本女子ツアーを引っ張る中心選手として、常にスポットライトを浴びていた。

 だが、その翌年から徐々に下降線をたどっていった。2009年9月の日本女子プロ選手権を最後に優勝からも遠ざかり、昨季(2013年)の賞金ランクはついにシード圏外の71位にまで落ち込んだ。2009年の国内メジャー制覇で得た5年シードによって今季もツアー参戦を果たせているが、その恩恵を受けられるのも今年が最後。まさに諸見里は"崖っぷち"の状況にある。

 ゆえに、諸見里は危機感を募らせて神経質な状態になっているのではないか、と思われた。ところが、本人は意外にも平静を保っていた。むしろ前向きで、「一番よかった2009年のときよりも、技術的にはよくなっているんですよ」と言って微笑んだ。

「年間6勝した2009年のときは、勢いや感覚だけでゴルフをやっていた部分がありました。今は、『こういう状況のときはこうして打開していこう』とか、いろいろなことが戦略的にできるようになってきたんです。

 確かに、2010年からは勝てない時期が続いて、予選を通過しそうなときでも、残り3ホールで崩れて予選落ちしてしまうっていう状況が続いていました。その間は、『悪いのが当たり前』って思っていたし、『ああ、これがいつもの私だよね......』と、投げやりというか、自ら希望を失っていました。そんな状況が3〜4年も続いていて......」

 ひと呼吸置いて、諸見里が続ける。

「でも、今年は少しずつよくなっていて、そんな自分に『私、こんなによくていいの?』って思ってしまう自分がいるときがある。いいときの感覚が久しぶりで、(順位や調子が)よくなっていくと、そう思って緊張しちゃうんですよね(笑)。それで、これまでは結果を出せなかったりしたんですが、自分自身で調子のいい状況にいることが当たり前だと思えるようになって、いい位置にいても気負わずにいられるようになれば、もっと優勝争いにも加わっていけると思っています」

 今でこそ、ここ数年の不振や自身の現状など、すべてを受け入れられるようになった諸見里だが、シーズン前のオフは、ゴルフから完全に離れてしまう期間があったりして、苦しい時間を過ごしていた。

 昨シーズン終了後、諸見里は結果を出せない自分に変化を求めて「環境を変える」ことを決心。長らく通っていたゴルフアカデミーがあり、住み慣れた場所でもある兵庫県神戸市から離れて、東京都に拠点を移した。これまでの自分をすべてリセットして、再出発を図りたかったのだ。が、環境を変えても気持ちが晴れることはなかった。まして、新たなシーズンに向けて、ゴルフクラブを握る気分にはまったくなれなかった。

「家では"抜け殻"でした。起きて、ご飯を食べて、ボーッとして......。まるで病人のような生活をしていました」

 それでも、何もしていなかったわけではない。スポンサーへの挨拶回りをしたり、友人と食事をしたり、プレイベートでゴルフに出掛けたりしていた。

「そうこうしているうちに、私の周りには心配してくれる人や、応援してくれる人がたくさんいることに気づいたんです。とりわけ、所属先のダイキン工業の井上礼之会長から激励していただいたことは本当にありがたかったですね。それと、普段からお世話になっている(昨季5年ぶりにツアー優勝を飾った男子プロの)片山晋呉さんが、今年1月のダイキン工業での激励会でサプライズのビデオレターをくださったんです。そのとき、『しのぶ、やっぱり勝つっていうのはすごくいいぞ! もう1回、ここ(頂点)に戻ってこい』と言ってくれて、胸が熱くなりました。(その言葉を聞いて)涙をこらえるのに必死でした......。あの言葉は一生忘れません。そこからですね、迷いがなくなったのは。もう(周囲に)心配をかけてばっかりではダメだ、と思って、本格的に練習を始めました」

 今季は開幕からほぼひとりでトレーニングに励んできたが、8月のニトリレディス(8月29日〜31日/北海道)からは中島敏雅コーチ(ゴルフアカデミー中島)にスイングなどを見てもらうようになった。あらゆる面において、基礎から取り組み直しているという。

「(中島コーチから)少しずつアドバイスをもらいながら、自分の中での手応えやいい感触、プレイすることの気持ちよさなどを実感することができています。スイングも、以前のものと見比べながら修正して、よかったときのイメージに戻ってきました。ボールが(高く)上がるようになってきたし、しっかりと止まり始めている。距離感も合ってきましたし、いいこと尽くしです。

 最近はバーディーチャンスをたくさん作れるようになってきたので、あとはそれを決め切って、スコアを伸ばしていくだけ。今は、流れを作り出すことができていないな、と思うことが多いのですが、そういうときに"悔しさ"を感じることが増えてきたんです。諦めたり、投げやりになったりしないで、そういう気持ちが戻ってきたのは、本当に何年ぶりだろう......。やっと、ここまで戻ってこられた、という感じです」

 今や自分のことを冷静に見つめることができている諸見里。もちろん、シード権獲得は最後まで諦めていないものの、もしもシードを喪失したときのことも、受け入れる準備はできている。

「試合がある限り、攻めの姿勢は崩したくありません。賞金シードを獲るために、1円でも(多く)稼ぎたいと思っています。でも、もし(シードを)失ったら、実際にどうするのか? 自分は、クォリファイングトーナメント(QT※)でツアーの出場権を勝ち獲るつもりでいます」

※クォリファイングトーナメント。ファースト、セカンド、サード、ファイナルという順に行なわれる、ツアーの出場資格を得るためのトーナメント。ファイナルQTで40位前後の成績を収めれば、翌年ツアーの大半は出場できる。

 栄光の舞台に立っていた諸見里は、まさかの転落人生を味わった。その苦悩は計り知れないが、彼女は改めて"原点"に戻ろうとしている。それも、無理にではなく、あくまでも自然体で。

 プロゴルファー・諸見里しのぶの「第2幕」が、これから始まる。

text by Kim Myung-Wook