血の匂いに敏感? ガンに効く? 「サメ」にまつわる4つのデマ

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彼らは本当に人食いの殺人鬼なのか? 1km離れたところから血のにおいをかぎ取ることができるというのは本当か? いくつかの迷信を打ち破る。

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サメにまつわる4つのデマ
1.サメは、人間を食べる?
2.サメは、遠くからでも血を嗅ぎつける?
3.サメは、泳ぐのをやめると死ぬ?
4.サメは、ガンにならない?

1988年、最も人気のあるドキュメンタリー専門チャンネルのひとつ、ディスカバリーチャンネルが、「テレビを変え」た。その年の7月17日、1週間すべてをサメに捧げる「Shark Week」(サメ週間)の放送を始めたのだ。このキャンペーンは大成功を収め、それ以降毎年夏、このシリーズは決まって放送されるようになった。

例えば1994年には、小説「ジョーズ」(Jaws)の著者、ピーター・ベンチリーがプレゼンターとして参加した。また、2005年のシーズンは、非常に人気のあった「怪しい伝説」(Mythbusters)のチームが司会を行った。非常によく広まっているデマの検討を行うディスカバリーチャンネルの番組だ。

しかし、2005年に紹介したエピソードは懐疑主義的なもので、専門家たちの見解がいくらか存在するにもかかわらず、全体として、「Shark Week」はサイエンス・コミュニケーター環境保護主義者から、その扇情的な切り口を強く批判されてきた。

現在はというと、昨年はシリーズ中でも最も低俗なものだったと言えるだろう(しかし視聴率は最高だった)。このとき、放送されたタイトルは「メガロドン:怪物ザメは生きている」(Megalodon: The Monster Shark Lives)というものだったが、ドキュメンタリーではなく完全な創作であることを、適切な方法で視聴者に注意することはなかった。

「人食いの殺人マシン」という伝説は、大部分がベンチリーの小説と、これを原作とするスティーブン・スピルバーグの叙事的映画によってつくり出されたものだ。確かにいまでも絶大な影響力をもっているが、ドキュメンタリーを放送するために生まれたチャンネルが、現実からこれほどかけ離れたイメージを醸成することは、はたして適切なのだろうか。

「Shark Week 2014」はアメリカで8月10日に始まった。トレーラーやプログラムを見ると、メガロドンがまだ主役で、「サメゾンビ」や「Sharkageddon」のような表現が見られ、ディスカバリーチャンネルは依然として同じ路線を続けるつもりのようだ。こうした“インフォテインメント”(Infor-tainment)の最も有名な例を観る前に、しばしば耳にする、サメについての最大のデマのいくつかを確認しておこう。

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1.サメは人間を食べる?

習慣的に哺乳類を捕食する種であっても、人間はサメ本来の獲物に含まれてはいない。実際、ヒトの体が食べられてしまうのはごくわずかなケースだ。サメを引き合いに出すよりも、乳牛やトースター、自動販売機によって殺される方が簡単だ。

そのリスクは、決して軽視すべきではない(ある水域で泳ぐのが、コーヒーを飲みに行くよりも危険なことは、確かにありうる)。しかし重要な点は、毎年サメによる致命的な攻撃が片方の手の指で数えられるほどなのにも拘わらず、多くのメディアが根拠のないパニックを必死に拡散しているということだ。

動物園や水族館を訪れたり、さまざまな種類のサメを深く知ると、多くの人は困惑するだろう。それまでに知っていた唯一のサメが、巨大な白いサメ(ホホジロザメ)の外見をしたシリアルキラーだったとしたら、特にそうだ。『ジョーズ』の作者も、この完全に非現実的なイメージを作り出すのに貢献したことを公的に謝罪するに至った

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2.サメは、遠くからでも血を嗅ぎつける?

サメの感覚器官は非常に洗練されている。しかしいくつかのドキュメンタリーは、彼らの本当の嗅覚を笑い話になるほどにねじ曲げてしまった。その典型的なものが、サメが1滴の血を、1キロメートル離れたところで、“オリンピック用プールに1滴”の濃度に薄まっていても嗅ぎつけられると言われていることだ。

だが、高希釈された分子が魔法の力をもつことはない(ホメオパシー医師たちはわたしたちに信じさせようと試みたのと真逆のことだ)。サメが1滴の血に気付くのは、分子が実際にその嗅覚器官に届く場合のみだ。そしてそれは、血の“出どころ”の近くにいる場合にのみだ。決してkm単位の距離ではない。

「The Journal of Experimental Biology」の2010年の研究(PDF)が、この“オリンピック用プールの伝説”に終止符を打った。研究者たちは、さまざまな濃度のアミノ酸を流して5つの異なる種のサメとエイ(両者は非常に近い親戚だ)の反応を測定し、反応を引き起こすのに必要な閾値は、庭用プールに1滴と同じくらいだと結論づけた。しかし、この感度は多くの他の魚と同程度だ。

この伝説のために、サメの群れを食事に引き寄せるのを恐れて、生理中に海水浴をしない女性たちがいる。体液が相応の距離でサメやその他の動物によって感知される可能性があるのは事実だ。しかし、これほどわずかな量を知覚できるほど近くにいるサメは、もうすでに目で見てあなたの存在に気付いているだろう。

襲撃に関するデータからは、生理中の女性が多数だという結論は得られない。一方、被害者の90%は男性であるという事実が目を引く。ただの統計上の結果にすぎないが、釣りやウォータースポーツ、つまり、潜在的にサメの攻撃の危険のある状況においては、男性が圧倒的に多数なのだ。

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3.サメは泳ぐのをやめると死ぬ?

サメはずっと泳ぎ続けなければならないと聞いたことはないだろうか。もし止まってしまうと、水がエラを通過しなくなり、窒息して死ぬという話だ。

しばしば教科書にも登場するこの風説は、「立ち止まる者は負ける」という考えをクリエイティヴな方法で表現しようとするときに聞かされるものだ。しかし、そのような意味で言うと、完全には本当だとは言えない。

現在知られている約400種のサメのうち、約20種の外洋性のサメのみが、いわゆる「ラム換水」を通じて呼吸しなくてはならない。この場合、口を開けて水の中を進み、水は鰓裂(エラの後方にある裂け目状の排出口)を通過する。しかし、マグロや多くの海の魚が同じ方法で呼吸するにも拘わらず、疲れを知らない泳ぎ手といえばなぜか必ずサメでなくてはならないのだ。

いずれにせよ、ほかのすべての種類のサメは、必要に応じて、口の筋肉を使い、鰓裂を通して水を出し入れすることもできる。動かなくても呼吸することができるのだ。さらに、常に泳ぎ続けなければならない種のいくつかについても、顔を流れに向けたまま動かずに、一見すると休息しているのが観察された実例が存在する。

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4.サメはガンにならない?

映画『ディープ・ブルー』を覚えているだろうか。映画は、アルツハイマー治療のために、遺伝子組み換えをしたサメをつくり出すという天才的なアイデアをめぐって展開する。

このハリウッド的なひどいドタバタは、サメが事実上、病気、特にガンにかからないとする伝説から着想を得ている。このことから、サメの軟骨も、人間のガンに対する特効薬になるだろうというのだ。

物語は70年代、いくつかの研究が、サメの軟骨の中に、血管新生抑制の因子を見つけ出したときに始まる。組織の中での血管の形成を妨げるため、これらの分子は、ガンに対する戦いにおいて、当時最も有望な道のひとつと見なされていた。

こうした研究と、多量の発ガン物質によってもテンジクザメの実験サンプルに腫瘍ができなかったというある研究をベースにして、1992年にウィリアム・レイン博士が「サメはガンにならない」(「Sharks don’t get cancer」)という本を出版した。その中で彼は、経口でサメの軟骨を投与することによってガンを治療することを約束していた。

この数十年で実施されたあらゆる実験がこの仮説を否定したにも拘わらず、サメの軟骨をもとにしたサプリメント産業が生まれ、いまも栄えている。こうしたサプリメントは、ガンだけでなく、販売業者の空想を刺激するあらゆる病気を治すことを約束しているものもある。

このような無益な奇跡の作り話をもとにした商売は、何百万匹ものサメの虐殺によってのみ可能だ。しかし、サメは、結局のところ、ほかのすべての動物と同じようにさまざまな病気にかかるし、彼らに腫瘍が存在することは、悪性であれ良性であれ、研究者たちによく知られている

自然療法の熱狂的愛好者(そしてフカヒレのスープの愛好者も)は恐らく、軟骨をもとにしたサプリメントにおいてもフカヒレにおいても、高濃度の毒性のある重金属が発見されたことにも関心をもつだろう。そして、果たしてこのような種を絶滅させようと骨を折る価値はあると思うだろうか?

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