4月25日、ホッフェンハイムは宇佐美貴史が今季限りで退団することを発表した。昨年夏からの1年間の契約期間を延長しないという決定されたということだ。バイエルンから移籍してわずか1シーズン、宇佐美はまた新天地を探さねばならなくなった。

 キッカー誌によれば、ホッフェンハイムの宇佐美に対する契約延長オプション行使は3月末が期限だったという。つまり、3月末には本人に来季のことを通達せねばならないということだ。だが、4月5日、デュッセルドルフ戦の時点で、当のキッカー誌記者もその結果を把握していなかった。広報担当に尋ねてみても「知らない」との回答だった。

 ちょうどこの日は、ホッフェンハイムにとって今季4人目の指揮官であるギズドル監督が、就任からわずか4日目で迎える初陣だった。多くのベンチ外選手が試合後のロッカールームへ、勝利を祝福するために顔を出したが、宇佐美の姿はその中にはなかった。いやがおうにも別れを予感させた。

 強豪から獲得した若手選手、宇佐美に対する期待は小さくなかった。終わってみればリーグ戦20試合、カップ戦1試合(一回戦敗退)に出場。この数字自体は多くもないが、必ずしも少ないというほどのものではない。一方、得点は2。肝心なのは、ポテンシャルを評価されていた宇佐美が、なぜまたも真価を発揮できなかったのかということだ。

 バイエルンからの移籍先の候補としてまず上がっていたのはニュルンベルクだった。宇佐美本人が「あれはやられました」と言うくらいだから、決定に近いところまで話は進んでいたようだ。だがニュルンベルクは宇佐美ではなく清武弘嗣を獲得。宇佐美はホッフェンハイムに引き取られた。その両チームに共通するのは、中位から下位をいく若手中心のチームであるということ。宇佐美は純粋に出場機会を求めた。

 開幕を共に迎えたバベル監督は宇佐美を高く評価していた。プレイのクオリティだけでなく、「根っからのサッカー少年」という表現をしてサッカーに取り組む姿勢を評価した。期待に応えるように、第3節フライブルク戦、第5節シュツットガルト戦では1ゴール1アシストの活躍を見せた。特にシュツットガルト戦の鮮やかなゴールは強いインパクトを残した。

 第11節まで先発で使われ続けた宇佐美が第12節で外れた際には、指揮官に直接理由を聞きに行くほど、スムーズな関係性ができていた。 だが12月に入ると、成績不審からバベル監督が更迭される。暫定監督となったクラマー氏が指揮した2試合は2連敗。宇佐美には出番がなかった。

 後半戦のあたまから指揮をとるようになったクルツ監督の在任中は出場機会も多く、9試合中6試合に先発、1試合に途中出場した。だが、第27節にギズドル監督が就任してからは一切試合に関わらなくなった。

 宇佐美が活躍できなかった理由の一つには、指揮官がころころ代わったという不運もあるだろう。そのたびに戦術や選手の起用方針が少なからず変わる。クラマー監督とギズドル監督は明らかに宇佐美を起用する気がなかった。何か大きなプレイ上の理由があるというよりも、絶対に使わねばならない選手だと思わせることができなかったということだ。

 もう一つはコミュニケーションの問題である。実際には宇佐美のドイツ語にそう大きな問題があったわけではないのだが、「言葉ができないから使われない」と、キッカー誌などに書かれた。本人は「まわりが心配したと思う」と言う程度で、さほど気にも止めていなかったが、少なくともメディアの目にはコミュニケーション不足であると映ったということだ。

 選手によっては言葉など大してできなくても、戦術理解をし、コミュニケーションがとれる場合もある。だがおそらく宇佐美の場合はそうではないから、キッカー誌のような記事が生まれたのだ。自分を理解する先輩がいるわけではなく、バイエルンのような好選手がそろうわけでもない。そんなチームでどう自分をアピールしていくかは、言葉を超えた問題だったのではないか。

 プレイそのものが低評価だったわけではないが、出場した試合でも好不調の波は大きかった。若い選手にはありがちなことだが、この波が彼の悪い面を際立たせたかもしれない。何となく決定的とはいえない選手、という印象が強く残ったのは非常に残念だ。

 来季、宇佐美はガンバ大阪復帰が濃厚と言われている。ガンバに帰ればそれなりの結果を出すことだろう。だが今の宇佐美に必要なのは、自分を理解してくれる先輩や恵まれた環境がない中で、どう結果を出していくかということではないか。

 帰国してプレイするにしても、古巣以外でチャレンジをしてみる価値はあるのではないかと思う。

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