元東北楽天ゴールデンイーグルス監督で、現在は野球評論家の野村克也氏が、第3回WBC(WORLD BASEBALL CLASSIC)の日本代表チーム(侍ジャパン)を指揮する山本浩二監督を批判した。

 野村氏は19日、スポーツ振興くじBIGの新CM発表会見に出席。イベント終了後の囲み会見で、「なんで監督が山本なんや。実績、キャリア、実力もないのに」とボヤいた。

 ボヤキで知られる野村氏だが、実は口撃でも有名だ。ヤクルトスワローズ(現在の東京ヤクルトスワローズ)の監督時代には、シーズン開幕前に読売ジャイアンツ日本シリーズ前に当時オリックスブルーウェーブにいたイチローを口撃し、相手にプレッシャーを与えた。

 百戦錬磨の名将らしいやり方だが、WBCでは野村氏が侍ジャパンと戦うわけではない。むしろ、これから日本球界が一丸となって戦っていく中での今回の批判には、マスコミへのリップサービスとは言え、いささか失望した。
 
 たしかに、野村氏が指摘するように、WBCのような短期決戦では指揮官の実績がものを言う小野俊哉著「日本シリーズ全データ分析―短期決戦の方程式」(ちくま新書)は、2008年までの日本シリーズの全試合を分析したデータ集だが、短期決算では指揮官の実績がいかに重要かを強調している。

 指揮官を経験値で、「通算4回以上日本シリーズに出場した監督」と「通算3回以下の出場にとどまった監督」に分けると、2008年までの優勝確率は、前者が.568に対し、後者は.351だった。
 「通算4回以上日本シリーズに出場した監督」と「通算3回以下の出場にとどまった監督」の直接対決は17度あるが、前者が14勝3敗と圧勝している。

 シリーズ出場時点での経験値についても、見てみよう。シリーズ出場時点で出場回数が異なる監督が対決したケースは43度。このうち、出場回数が多い監督が勝ったのは25回で、勝率は.581だった。

 米メジャーリーグのワールド・シリーズでも、経験値の高い監督の方が有利だ。出場回数が異なる監督の対決は83度。このうち、経験値の高い監督が勝利したのは48度で、勝率は.578。わが国の日本シリーズと、ほぼ同様の数値になった。

 野村氏、山本代表監督のシリーズ経験値を確認すると、野村氏は通算で5度、シリーズに出場している。これは、11度川上哲治9度水原茂鶴岡一人8度森祇晶西本幸雄に次ぐ6位。同じく5度出場した監督には、三原脩上田利治長嶋茂雄がいる。

 方や山本代表監督のシリーズ出場は、わずかに1度広島東洋カープで1989〜1993年、2001〜2005年と10年間指揮を取ったが、日本シリーズ出場は1991年のみだ。

 シリーズの経験値から、野村氏が山本代表監督を批判したのはわかる。

 だが、代表監督に就任するまでの経緯を思い出して欲しい。代表監督の人選は、前回の第2回大会と同様に難航。何人かが候補に挙がったが、みな辞退した。そんな中で、山本氏が大役を引き受けた。

 野村氏も、第1回大会から代表監督就任にまんざらではない様子だったが、それは果たせなかった。代表監督に、並々ならぬ思いを抱いているのだろう。
 だが、山本氏の代表監督就任までの経緯を思い出せば、大会前から安易に批判するべきではなかった。

※日本シリーズ、ワールドシリーズに関する数値は、全て2008年までのもの。