2012年のセリーグは、読売ジャイアンツが制した。マジック1で迎えた対東京ヤクルトスワローズの第21回戦、2回に阿部慎之助の本塁打で1点を先制すると、3回にも阿部のタイムリーヒットなどで2点を追加。一時は4対4の同点に追いつかれたが、6回に長野久義に勝ち越しとなる2点タイムリーヒットが飛び出し、6対4でジャイアンツが勝利した。

 今季のジャイアンツは、とにかく強かった。昨年オフに横浜DeNAベイスターズから村田修一福岡ソフトバンクから杉内俊哉D.J.ホールトンを獲得。投打ともに補強を図った。
 迎えたペナントレースは、81勝38敗14分と、43試合も勝ち越し。2位の中日ドラゴンズ11ゲーム差をつけた。4月に最下位に沈んだのが嘘のようだ。

 チームでは長野、阿部、坂本勇人内海哲也山口鉄也西村健太朗といた生え抜きが活躍。澤村拓一宮國椋丞といった若手の成長も著しいが、それでいてあの補強だろう、そりゃ、勝つのが当たり前だよ、というのが他球団の本音か。

 1934年の創設から43度目のリーグ制覇を果たしたジャイアンツとそのファンには、作家のジョー・クィーナンの言葉を贈りたい。

 クィーナンは、米フィラデルフィア・フィリーズの大ファン。フィリーズは2008年にワールド・シリーズを制覇、昨年もナショナルリーグ東部地区を制したが、2007年には米国のプロスポーツチームとしては史上初となる通算1万敗を喫した。
 それだけチームが長く存続していることなのだが、応援しているファンには辛い。クィーナンも著書「狂信者たち スポーツファンの悲惨な生活」で、フィリーズが負け続けたことで心労になり、病院に通ったことを告白している。
 医者はもちろん、フィリーズの低迷でうつ病になったなど、信じてくれない。だが、クィーナンが通院すると、どういうわけだか、フィリーズが勝ち始めた。逆に通院をやめると、フィリーズが負ける。
 フィリーズの明暗は自分にかかっていると悟ったクィーナンは、チームのために通院を続けた。

 そんなクィーナンは言う。「ニューヨーク・ヤンキースのような常勝チームのファンは、本当のファンではない。彼らは何の報いもなく、信じ続ける試練を受けていない」、「フィリーズのファンであることで、世界の弱者や不幸な人々に共感できる」。

 かなりの暴言だが、チームのため病院通いを続けたクィーナンだけに、それなりの重みがある。わが国でも、ジャイアンツのファン以外は、共感できるのではなかろうか。ファンの多くが、チームを信じながら、一喜一憂の日々を送っているのだ。

 だが、たまには左うちわで過ごせるシーズンを見たいというのも、ファンの本音ではなかろうか。少なくとも、埼玉西武ライオンズを応援しているボクはそうだ。

参考)町山智浩「アメリカは今日もステロイドを打つ USAスポーツ狂想曲」(集英社文庫)