1月25日はケータイ受難の一日だった。まず午前、東京都の一部地域でNTTドコモのケータイの音声・パケット通信が利用しづらくなるネットワーク障害が発生。そして深夜になると、都内西部エリアで今度はau(KDDI)のケータイや固定電話などが利用できなくなってしまったのだ。

 KDDIのトラブルについては伝送設備の単純な故障が原因であり、さほど憂慮すべき問題ではない。しかし、ドコモは昨年12月にも、スマホのメール送受信サービス「spモード」で、メールアドレスが他人のものと置き換わるという重大な事故を起こすなど、ここ半年ほどの間に度重なる通信障害を起こしている。通信品質が自慢だった携帯キャリア最大手のドコモに、なぜトラブルが続出しているのだろうか。

 ジャーナリストの石川温(つつむ)氏は、その背景をこう説明する。

「ドコモの通信システム内のパケット交換機は、どちらかといえばiモード向けのものでした。それを、このところ急増中のスマホに対応すべく、都内の一部エリアで新型機へと切り替える作業を始めたところの出来事でした」

 ところが新型機のキャパシティを大きく上回るユーザーからの制御信号量が発生したため、処理しきれなくなってシステムがパンクしたというわけだ。

「その大量の制御信号の“主犯”とみられているのが、スマホ向けのインターネット無料通話アプリやチャットアプリ。ここ半年ぐらいの間で爆発的に普及しているそうしたアプリは、端末に電源を入れただけで頻繁にデータの送受信を繰り返す設定になっている。だから、従来のアプリとは比較にならないぐらいパケット交換機に負荷をかけてしまうのです」

 と言うのは、携帯電話ライターの佐野正弘氏だ。しかし、右肩上がりでスマホが売れ続けているのは周知の事実なのだから、新型機への切り替えの際に容量アップなど時代の流れを考慮した対策を講じていなかったのだろうか?

「もちろん、ドコモもスマホの増加を見越して性能アップさせた新型機へと交換したのです。しかし、半年後にどんなアプリがはやり、利用者がどういう使い方をするかまで読み切るのは不可能。つまり、スマホの急増を予測できなかったのではなく、急増によって引き起こされる事態が、ドコモの想像をはるかに超えていたということです」(佐野氏)

 しかも、ドコモは自身のビジネスモデルのため、そもそも通信障害が起きやすい構造になっているのだという。

「ドコモはスマホ戦略をアンドロイド機に頼っていますが、そのOSの仕組み上、iPhoneのiOSより通信ネットワークにかかる負荷が大きい。しかも、spモードは設計がかなり複雑で、他キャリアより障害が起きやすいといわれています」(前出・石川氏)

 ただ、これまで重大な通信障害には見舞われてこなかったauやソフトバンクモバイル(SBM)にしても、決して先行きが安泰とはいえない。

「auは最近のCMなどでしきりに通信品質をアピールしているとおり、iPhone導入にあたってネットワークを事前強化し、現在も積極的に設備投資しています。また、SBMも現行の通信インフラこそ貧弱ですが、汚名返上のためさまざまな手を打とうとしている。しかし、この2社にしても、予測不能な事態にさらされてシステムダウンする危険性はドコモとなんら変わりません」(石川氏)

 繰り返される通信障害を重く見た監督官庁の総務省は、ドコモに対して再発防止策の早急な取りまとめと実施計画の報告を申し渡したという。この先もし、auやSBMにもネットワークトラブルが頻発するようなデータ通信量の飽和状態が起こったら、各キャリアともパケット通信料金の完全従量制を検討し始めるのは間違いない。それどころか、ユーザーの度肝を抜くまさかの展開だってあり得る。

「ネットワークの安定運用のめどが立つまで、総務省の指導、もしくはキャリアの自粛によって、スマホの販売が制限されるという可能性も否定できないのです」(前出・佐野氏)

 何もこれは、荒唐無稽な妄想などではない。2000年にはiモード契約者の爆発的な伸びに対して設備増強が追いつかず、たびたび通信障害が起こったことがあった。すると、ドコモはしばらくの間、iモード端末の供給台数を制限し、広告宣伝活動も自粛したのである。これと同じ現象がスマホで、それも全キャリアで起こらないと誰が言い切れるだろう。

 各ショップの店頭からスマホが消え、タイムマシンで過去にさかのぼったようにガラケーばかりが並ぶ日がやってくるかもしれない。

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