日本のサッカー中継では本音がなかなか言えないというセルジオ越後氏。その理由とは?

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 先日行なわれた日本代表の2連戦(親善試合のベトナム戦、W杯3次予選のタジキスタン戦)、僕は2試合ともテレビ中継の解説をやらせてもらった。

 ともに力の劣る相手との試合だったけど、ベトナム戦は近年まれに見るひどい内容で1−0の辛勝、一方のタジキスタン戦はまるで歯応えのない相手に8−0で大勝。どちらも解説者泣かせの試合だったよ。

 例えば、ベトナム戦の日本代表は「本当に日本代表の選手なのか」と目を疑うようなミスを連発したけど、そのふがいなさをストレートに指摘し続けるわけにもいかないので、逆にベトナム代表を「運動量が落ちないですね」などとホメるしかなかった。

 タジキスタン戦も「こんな弱い相手は見たことない」と言ってばかりいたら視聴者が興味を失ってしまう。だから、解説でコンビを組む松木(安太郎)さんに、事前の打ち合わせにはなかった質問を急に振ったりして盛り上げようとした。

「今日のタジキスタンのシステムは、どういうシステムですかね?」
「う〜ん。……全員で守るシステムですかね!」という調子でね。

 僕が初めてテレビ解説の仕事をしたのは全国高校サッカー選手権大会で、もう30年以上も昔の話。当時は、テレビで言ってはいけない言葉を知らずに使う失敗もした。また、どれだけ準備をしても、試合はフタを開けてみなければどうなるかわからないので、正直、今でも毎回、試行錯誤しているよ。

 なかでも一番難しいのは、日本のサッカー中継では海外のようなストレートな指摘がしづらいこと。ブラジルのサッカー中継なんて、デキの悪い選手にはもう容赦しないからね。

 アナウンサーが「あの背番号10番、どう思いますか?」と振ると、「ペレに似てますね、背番号だけは」と返す。

 でも、日本でそれをやったら、テレビ局からも視聴者からも反発を受ける。文化の違いとはいえ、少しもどかしさを感じることもあるよ。

 ただ、それでも自分の色を出さなければ意味はないし、日本サッカーのためにもよくないと思うから、本当に不満に感じることがあれば、ストレートに口にするようにはしている。

 そのせいで「辛口」「怒りっぽい人」というレッテルを貼られてしまったけど、僕に言わせれば、ほかの解説者がホンネを言わなすぎるだけ。みんな監督として現場に戻りたい気持ちがあるから、中継では波風が立つようなことは口にしたがらないんだ。

 でも、僕はそれって逆に選手や審判、視聴者に失礼だと思うし、例えば、審判による完全なオフサイドの見逃しを「微妙ですね」という曖昧な解説は、サッカーの普及拡大という点では逆効果じゃないかと思う。

 海外のサッカー中継では、指導者として現場に戻りたい人はあくまでゲストとして出演する。監督をやりたがっている人だけでは中継が成立しないと、テレビ局も視聴者もわかっているからだ。

 最近は日本代表の試合の解説をやらせてもらうことが多いけど、歴史的な試合に立ち会えたときは心底うれしいね。2004年のアジア杯(中国)、今年のアジア杯(カタール)などは、日本が奇跡的な優勝を決めて、僕も我を忘れて騒いでしまった。これから先、どれだけ日本代表の解説をするのかはわからないけど、いつかまた、そういう試合を担当できれば本望だね。

(構成/渡辺達也)

セルジオ越後
1945年生まれ。72年の来日以降、指導者、解説者として活躍。


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