9月9日に行われたガーナ戦の勝利には、差し引かなければいけないところがあるだろう。

 3日前のスーダン戦で、ガーナはW杯出場を決めていた。ウズベキスタンでアジア最終予選を突破した日本が、直後のカタール戦で不甲斐ない試合をしてしまったのに似た状況だったのである。

 とはいえ、収穫がなかったわけではない。

 今回の遠征では、出場機会のなかった選手が何人かいた。同じように来年の南アW杯でも、全員がピッチに立てるわけではない。

 そこで重要なのが、チームの一体感だ。

 控え選手が試合に絡んでいる選手を盛り上げることで、チームのムードは高っていく。選手同士の精神的なつながりが深まる。

 とりわけ、実績のある控え選手がチームの先頭に立つ意味は大きい。年上の選手の献身さを目の当たりにすることで、試合に出られない若い選手たちもあとに続いていくものだ。暑苦しい精神論かもしれないが、チームが一体感を得るには欠かせない要素である。

 成果をあげたチームには、そうした年長者の存在があった。02年日韓W杯なら中山と秋田で、04年のアジアカップなら藤田、三浦淳だ。

 ガーナ戦に話を戻そう。

 稲本が決勝ゴールを叩き出すと、選手たちが次々に駆け寄っていった。ベンチでは岡田監督が手を叩き、控え選手は立ち上がってガッツポーズをしていた。チームのまとまりを感じさせたシーンであり、その中心に稲本がいたことは、ガーナ戦の収穫のひとつにあげられる。彼が日本代表へのロイヤリティを示してきたからこそ、チーム全体に歓喜が拡がっていったのだ。

 岡田監督の構想では、ダブルボランチは長谷部と遠藤がファーストチョイスとなっている。稲本は今後もガーナ戦のような使われ方が濃厚で、先発に名を連ねる可能性は低い。

 それでも、岡田監督が彼を必要としているのは間違いない。指揮官は言う。

「稲本は本当にプロフェッショナルな選手で、尊敬できる人間です。どういう状況でも、自分がやるべきこと、チームのためにやるべきことを考えている。ある意味、チームを作っていくうえで非常に貴重な存在だと思っています」

 代表収集を見送られた3月には、「腐っているのが、一番意味がないので。自分のやるべきことをしっかりやるだけです」と話していた。そして迎えたガーナ戦で、03年3月のウルグアイ戦以来となるゴールを決めたのだった。

 9月18日に30歳の誕生日を迎えるボランチは、現代表で中澤、中村俊、遠藤に次ぐ国際Aマッチ出場数を誇る。稲本を含めた4人は06年ドイツW杯のメンバーだが、02年の日韓W杯を知るフィールドプレーヤーは彼だけである。

戸塚啓コラム - サッカー日本代表を徹底解剖