日本においてインドといえば、どんなイメージを浮かべるだろうか。カレーを代表とするスパイス料理と、そして最近は「インド式計算術」が人気だ。しかし、それだけではない。いま、「インド人の教える英会話」が話題になっている。英会話と言えば、アメリカ、イギリスなど欧米人から教わるというのがこれまでの主流だった。インド人から教わることによって、どんなメリットがあるのか。逆に、「訛り」などのデメリットはないのだろうか?英語教育の最先端を取材した。





東京・目黒区にオフィスを構えるミナトモオンラインアカデミー(=MOA)では、日本初となる、講師がインドの教職者を中心に構成されたオンライン英会話スクールを開講している

今回、代表である中島港人さんに話を伺った。
中島さん自身、学生時代に大手の英会話スクールに通った経験があるそうだが、その時はローンを組んで高い授業料を納めた割に、集団レッスンやテキスト重視の指導で、あまり身にならなかったという。そしてもっと手軽に身につく英会話スクールが無いものかと思っていたそうだ。

そんな中、きっかけを作ったのは隣人のインド人だった。オンラインで日本とインドとをつないで安価で業務委託を行っている事例などを知り、これを英会話教育に活かそうと画策。現地で有数の進学高校の英語主任と手を組んで優秀な講師を集め、2006年の開講に至った。

インドは人口が多い分、様々なニーズに添える人材が豊富にいる。その中で、日本人に合った先生が選ばれた。中には現地の大学の教授もいるという。「講師はインド人」のメリットについて、中島さんはその優秀さと勤勉さを挙げる。「インドでは教職は聖職とされています。インド人はとにかく『教える』ということにプライドを持っていて、意識の高い人が多いのが特長です。MOAではマンツーマンの担当講師制にこだわっているのですが、それぞれ責任感が強く、例えば担当させて頂いている生徒の方が欠席された場合、自分のプライベートの時間を削って振替レッスンを用意するなどの対応してくれます。」

そのくらい親身に対応してくれるということだが、もちろん、講師に過酷な労働を強いているわけではない。インドの先生達は「教える」という仕事に心から誇りを持っており、また日本に大きな関心を寄せていることもあり、積極的にその仕事を楽しんでいる人が多いということだ。中島さんいわく、とにかく日本人が好きで日本に興味があるのだという。そうした熱意ある先生の教えを受けることができるというのはありがたいことだ。

インド人ということで、米英とは違う訛りが懸念されたが、欧米企業のコールセンターで発音のトレーナーをしていたスタッフが随時修正を行っているため、日本人にも聞き取り易い英語が実現し、その心配は解消された。

また、スクールを始めた当初は、インド人講師が熱心なあまり宿題をハードに課してしまい、日本人受講生とのギャップが生じてしまうこともあった。しかし、ミーティングを重ね、日本人のニーズを研究しながら、「初歩段階では難しい単語をなるべく使わずに教える」など、より効果的な指導法を追究していったという。何より、こうした講師陣の向学心の強さが、生徒にも伝わったのだろう。生徒に媚びることなく、意識面から「本当に身につく英語」を追究していったのだ。

MOAの受講者は現在ビジネスマンが多く、商社やIT系他、仕事でホンモノの英語を必要とする人が探し求めてきたということだ。オンライン英会話はまだまだ認知度が低く、「費用がかかるのではないか」といった誤解もあるが、実は、ヘッドセット1つあれば誰でも簡単にできるし、スカイプのテレビ電話は世界中とリアルタイムに無料で通話できるのだ。
中島さんは、「自宅で気軽にインドにいる先生とネットを通じて直接指導を受けられるのは素晴らしいこと」と話す。まさに、グローバリゼーションの時代だからこそ実現できたことだ。





また、オンライン英会話はその費用の安さも売りだ。巷の英会話教室は月謝が高く、それが英語を学びたい人にとって大きな障壁となっている。しかし、オンラインなら教室の賃料がかからない。また、物価の安いインドの現地講師との契約なので、人件費も割安となっている。こうした経費削減が月々 5,670円からという受講料の安さを実現している。

とはいえ、MOAはいたずらに安さだけを追求しているわけではない。「講師が変わらずマンツーマン」「向学心と聖職意識の高いインド人講師」という質の高さを保つことで、他のオンライン英会話スクールと一線を画しているのだ。プロ意識を持つインド人の先生からは、身につく英会話だけでなく、人生哲学を学ぶことができるかもしれない。普段あまり接することのないインド人の文化に興味を持つことで、学習意欲も高まりそうだ。

ところで、中島さんには新たな夢がある。それは「全く英語がしゃべれない人を、約2年間で会話ができるようにする」とパッケージ化していくことだ。現状では、インド人講師は日本語を喋ることができず、レッスンは英語のみのやりとりとなっていた。それはそれで、英語の上達に大きく貢献するのだが、例えば小中学生など全く英語を話した事が無い生徒には、最初から英語だけの環境ではやはり抵抗を感じてしまう。

そこで、この秋から現地の日本語学校と提携し、日本語の話せる講師を増員する。初級者には日本語も交えてのレッスンで、最初にやさしく基礎の英語を身につけられる様に提供していくという事だ。

これによりこれまで大多数を締めていたビジネスマンから、今後は更に初級者を対象に広げ、将来の国際人を輩出していきたいと考えている。またこの構想の元には、昨年から受講している数名の中学生が、いずれも最初は英語に対して抵抗があり、レッスンの内容などに苦労したが、今では学校のテストで確実に点が取れるようになり、更には留学できるレベルにまで上達したため、保護者から大きな反響があったという。この実績が、今後の展開に向けて大きな確信へと繋がったという事だ。

中島さんは語る。
「どうしても日本の英会話教育はテキストに頼り、テキストに沿って進むという教え方が主流となっています。それは『勉強』であって、『実践的』ではないのです。例えばMOAでは、レッスンの中で5分ほど、テーマを決めたプレゼンテーションを行っています。テキストで覚えた英語ではなく、自分の話したいことを自分で英語に訳していくのです。もちろん、間違えたフレーズはその場で先生が指摘してくれます。このように喋る努力をすることで、英語で伝える力を身につけていってほしいと思います。」

記者も学生時代に外人講師による英語の授業を何度も受けたが、その内容は「白人がテキストの英語を音読する」というもので、ネイティブの発音は耳にできても、それは決して実用的な講座ではなかった。「実用性」を無視して、「学んだ気」になっている英語の授業がいかに多いか、思い知らされる。

そして何と言っても、オンラインというのは嬉しい。仕事が忙しいビジネスマンにはもちろんオススメしたいが、例えば小学生の子どもなら、親御さんが送り迎えをする必要もない。中高生なら、部活や学校行事で忙しくても、自分の都合で受講できる。

MOAのホームページには「これから頑張ってインドの先生に日本の剣道を説明できるようになりたい」と話す中学生の体験談が寄せられている。「英語を勉強する」と考えたら抵抗感が生まれてしまう学生でも、「異国の先生と語らう」「自分の国、文化生活を紹介する」という親しみを持って取り組めば、自ずと英語が好きになっていくのではないか。

取材をしていて感じたのは、何よりMOAの代表である中島港人さんご自身が向学心・向上心を持って取り組んでいるということだ。中島さんは毎年二回以上海外に赴くそうだが、その度に感じるのは「日本人ほど海外に行って英語を喋れない国民はいない」ということだそうだ。中国、韓国、そしてインドなどが台頭していく中で、日本人も今後は「英語は喋れません」では済まない時代になるだろう。その時、日本の英語教育は今のままで良いのか…。中島さんの英語教育への追究は今後も続く。

ミナトモオンラインアカデミー(MOA)ホームページ

(編集部 鈴木亮介)

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