もともと夏には参議院選挙があるが、また「衆議院解散」となるのだろうか(撮影:尾形文繁)

「もし波乱が来たら対応できなかったが、案ずるより産むがやすしだ――」。大型連休のリスクに怯えていた日本の投資家はほっと一息、「令和の祝賀ムード」に浸っていた。そこへ最後になって、ドナルド・トランプ大統領の「中国からの輸入品2000億ドル(約22兆円)相当に対する追加関税を5月10日に10%から25%に引き上げる」とのツイート。これで相場は一時、一気に暗転した。

令和元年の波乱」は始まったばかり?

このツイートで、米中貿易協議を巡る楽観や、アメリカを中心とする金融当局のハト派姿勢、思ったほど悪くない企業決算で安心し切っていた市場が、さすがに眠りから覚めた。連休前の4月26日を含めると、明け後の5月14日まで7営業日連続安という波乱の令和時代のスタートとなった。

偶然だが、昭和元年(1926年)はNY大暴落、平成元年(1989年)は日本のバブル崩壊となっており、令和元年の波乱は始まったばかりと見る向きもある。

しかし、7連続安は頻繁に起きる現象ではない。最近では2016年3月29日〜4月6日、2012年11月5日〜11月13日、同年4月3日〜4月11日、2009年7月1日〜7月13日(この時は9連続安)、2008年10月2日〜10月10日といった具合で、平均すると2年に1度の稀な事象だ。

そしてこれらには、2016年はチャイナショック、2012年はギリシャ危機、2009年、08年はリーマンショックという「重要な時代背景」の中で起きている。今回は「米中対立ショック」とも言うべき事例による。

重要なことは、この7連続安後の展開だ。2016年は若干の底練りはあったが、結局は秋以降、トランプ大統領が誕生することが決まったことで27年ぶりの2万4000円相場へ。また2012年はアベノミクスで8000円台から2万円台へ上昇している。また2009年、2008年は100年に1度の過酷な環境だったが、連続安は底値水準となっており、短期的にも反発を示していた。やはり、筆者は今回も反発のタイミングと見る。

そのきっかけは、5月20日発表の日本の1〜3月期GDP速報値だ。市場では前期比マイナスが予想されているが、その数字次第では消費税議論が一気に高まりそうだ。もし増税延期・凍結となれば持たざるリスクが表面化するだろう。そしてその主役は当然内需株となる。

もう一つ、最近の市場では消費税論議とともに論議されている話題がある。MMT(現代金融理論、Modern Monetary Theory)だ。16日、FRB(米連邦準備制度理事会)のラエル・ブレイナード理事は「独自の通貨を持つ国の政府は政府債務残高がどれだけ増加しても問題はないとする同理論について、「経済に関する権限がFRBから議会や政治的意図がある他機関に移るリスクが生じかねない」との懸念を示した。

MMTでは、FRBの責務である雇用と物価の目標達成が、歳出入に関する議会決定に左右されるという強い警戒感だ。最近MMTは、社会保障拡充の財源として民主党議員なども議論している。日本でも国会議員の中に研究会があり、3月の日銀の黒田東彦総裁会見での質問にもあったが、総裁は実質的に答えず、受け流した。その後メディアでも解説され、最近消費税増税延期・凍結論とセットで論議されることが多くなった。

MMTを簡単に説明すれば、「独自の通貨を持つ国は、自国通貨を限度無く発行することが出来るので、デフォルトに陥ることはない。従って、政府債務残高がいくら増加しても問題はない」という考え方だ。例えばシカゴ大学が40人の経済学者にアンケートを取ったところ賛同者がゼロだったように、「危険な理論」ともいわれる。

しかし、債務残高がGDP比で突出しているのにこの理論で安定している国が世界で1つだけある。それが日本だ。例えば日本よりもこの比率が低いギリシャやイタリアの「デフォルトリスク」が取りざたされたりする理由の一つは、両国がユーロを勝手に発行できないためだというわけだ。

GDP次第で、国会解散の流れも?

日本の円が安定しているのは、日本国債の保有者の大部分が国内にあると言われるが、その約半分を持つ日銀は国と一体(これも議論になるが)なので、その通りかもしれないが、国民は別人格だ。決して国と一体ではない。筆者は日本が230%超という世界で突出した対GDP債務残高があっても安定しているのは、このMMTが陰で支えているからだと思う。

もちろん、政府債務の過剰な増加は、どこかの時点でハイパーインフレを起こす可能性があるし、MMTに賛同する学者もほとんどいない。しかし、アメリカの対GDP比債務残高は100%超であり、じりじりとそのレベルを高めている。今後MMTは、賛同者としか思えないトランプ大統領を起点にしてますます盛んになって行くのではないか(「アベ・クロ政策」は隠れMMTだと筆者は思っている)。日銀のぶれない異次元金融政策は、口には出せない(学者の支持がゼロだから)MMTではないかと思えてならない。

さて、事実上のMMTと「セット」の消費税延期・凍結議論だが、筆者は「消費税増税は無理」と以前から述べてきた。その時は少数意見だったが、最近は賛同が増えてきているように思える。その帰趨をめぐる重要なイベントが前述の通り、本日20日の1〜3月期GDP速報値だ。数字次第で消費税延期・凍結論が一気に高まる。そうなると当然、国民に信を問う国会解散へと向かうのではないか。

以上のことを勘案、今週の日経平均株価予想レンジは、2万1000円〜2万1500円とするが、GDP次第で大きく動く可能性もありそうだ。