数字が語る「メルカリ」と「ZOZO」の違いとは?(撮影:梅谷秀司)

オンラインビジネスに苦手意識がある人は、いまだに多いはず。しかも、彼らが使っている言葉には専門用語も多く、話についていけないこともしばしば。その結果、現場とオンライン部門との間に大きな断絶が……そんな会社もあるかもしれません。

ただ、オンラインビジネスの基本はごくシンプルだと、新著『数字で話せ』で文系人間でも数字に強くなる視点と「伝え方」について説いている経営コンサルタントの斎藤広達氏は語っています。話題の企業「メルカリ」「ZOZOTOWN」を例に、デジタルマーケティングをシンプルに読み解いてもらいました。

基本は結局「顧客数」×「購買額」にすぎない

オンラインビジネスに苦手意識がある人は、確かに多いと感じます。ただ、どんな職種・業種においても、その知識なくして仕事を円滑に進めることはもはや不可能な時代です。「話が通じない」と自分から壁を作るのではなく、デジタルマーケティングの「言葉」を積極的に理解する必要があるのです。

最初に言っておきますが、オンラインビジネスの基本はごくシンプルです。その基本は「@変換」――すなわち、すべてを「1個当たり」「1人当たり」に換算するということ。具体的には、「顧客数」と「購買額」という2つの要素に因数分解して、企業戦略やマーケティング施策を組み立てていきます。

オンラインビジネスはそれほど複雑ではない。そのことを知っていただくために、ここでは「メルカリ」と「ZOZO」という日本を代表するネットビジネス企業を例に、@変換(因数分解)を使いながら、そのビジネスモデルや課題を考察したいと思います。

オンライン上でモノを売りたい人と買いたい人を結びつけるフリーマーケット(フリマ)ビジネスを展開し、成長を続けるメルカリ。経営指標となる各数値は四半期ごとに急激に増えています。

例えば月間アクティブユーザー数(実際にサービスを利用した人の数)は右肩上がりで、2018年6月期決算時は1075万人だったものが、2019年第2四半期の数字は1236万人。2018年6月期の取扱額は3704億円ですが、19年第2四半期までですでに2200億円を超えています(取扱額とはメルカリのプラットフォーム上で取引された額で、メルカリでは「GMV(Gross Merchandise Value)」と呼んでいます)。

こうした数字を読み解く際のコツは、正確さよりも「ざっくりと」全体を把握すること。ここでも、会員数(月間アクティブユーザー)を1000万人、年間取扱額を4000億円として試算してみましょう。

メルカリがビジネスを伸ばすには?

メルカリのビジネスモデルは、出品者と購入者をつなぐことです。年間4000億円の取扱額を要素分解すると、

1000万人(アクティブユーザー)× 4万円/年(1人当たり取引額)=4000億円(年間取扱額)

という式になります。

1人のアクティブユーザーが、メルカリ上で年間4万円の取引をしている、という計算が成り立ちます。年間4万円の取引額には、いろいろなパターンがありそうです。1000円程度の古着や小物であれば、年40点。月当たり3点ちょっと。毎週あるいは隔週で、いらなくなったモノを出品したり、欲しかったモノを手に入れたりと、気軽に利用しているイメージが湧きます。

あるいは、1万円ほどの中古家電や生活雑貨を出品したり、1点数万円するブランド服やバッグを購入するパターンもあるでしょう。取り扱う商品のバリエーションが多いため、ユーザーの利用パターンも多様なはずです。

もしも皆さんがメルカリの幹部だとして、今後、日本国内でさらなる事業規模の成長を目指すなら、どんな視点で打ち手を考えますか。答えはシンプルです。1000万人のアクティブユーザー、年間4万円の取引額、それぞれをどう増やすか考えればいいのです。

1000万人のアクティブユーザーは相当な数字ではありますが、まだ日本人の12人に1人しかメルカリをアクティブに使っていない、とも言えるのです。これを、4人に1人に使ってもらえるサービスに進化させて、3000万人以上のアクティブユーザーを目指してもいいわけです。

ユーザーを増やすためにキャンペーンを展開したり、広告やSNSを使ってメルカリを使っていない層にアプローチしたりと、新規ユーザーの獲得コストを意識しながら、効率的にユーザー獲得を目指すことになります。

一方、年間4万円の取引額を増やすには、出品される商品のカテゴリーを追加したり、アプリの検索機能をより便利なものにアップデートしたり、あるいはアプリ上でのお知らせ(プッシュ通知)の内容をブラッシュアップしたり、AIを使ってより一人ひとりにマッチした商品をお勧めするレコメンドの精度を上げる、という手もあります。

サステナビリティやシェアリングの意識は年々高まっており、メルカリのようなエコシステムに共感し、満足感を持って利用している人も多いのです。彼らにもっと使ってもらう方法を考え、さらなるサービスの進化を目指すことが、戦略的な模範解答になるでしょう。

ネットビジネスで重要なのは「会員数」

最近、何かと話題のZOZO。そのビジネスの中心はファッション通販サイト「ZOZOTOWN」の運営です。こちらも@変換してビジネス構造を見てみましょう。決算資料を参照すると、アクティブ会員(過去1年間に1回以上購入した会員)は2019年第3四半期で約615万人。ここも、キリよく計算するために600万人として考えます。

アクティブ会員の年間購買額は4.6万円。年間購入点数は11点なので、1点当たり4100円ほどの服やファッション関連商品を買っている計算です。式にすると次のようになります。

600万人×4100円×11点=年間取扱高2700億円

メルカリのアクティブユーザー1200万人と比べると、顧客基盤の規模は5割。一見、少ないように思いますが、メルカリが新品中古問わずにどんな商品でも取り扱っているのに対し、ZOZOは基本、新品の服がメイン。この差は納得と言えます。

とはいえ、アクティブユーザー600万人は、ファッション業界では驚異的な数字です。アパレル企業が100万人の会員を集めるのは至難の業。毎年トレンドが変わる業界で、同じブランドが何年も好調を維持するのは大変です。多くのブランドを取り扱うZOZOのようなオンラインモールだからこそ、顧客基盤をキープできるのでしょう。

さて、以上がメルカリとZOZOを@分析してみた結果です。どちらも強固な顧客基盤に支えられていることがおわかりいただけたとともに、最先端の企業といえど、結局は「顧客数」×「購買額」というシンプルな方程式で事業が成り立っていることをおわかりいただけたのではないでしょうか。

ただ、メルカリに比べZOZOは会員数が少なく、さらに、別の心配要素もあります。

ZOZOの敵は「サステナビリティ」か

例えばZOZOを支えているのは、ファッション感度の高い服好きユーザーでしょう。ただ、社会全体の意識はサステナビリティに向かっています。新品の服を毎年何枚も買って捨てる消費パターンは、これからも続くか疑問です。最先端ファッションを追いつつも、何度か着たらメルカリに出品する。そこまでファッション感度が高くない層は、そうして出品された中古の服でおしゃれを楽しむ。このエコシステムが確実に回り始めています。


シーズンごとに市場に大量投入され、売れ残った服はバーゲンでたたき売られる旧来のビジネスモデルは、機能しなくなってきました。使い捨て商品の代表だったファッション業界は岐路に立たされています。

こうした時代の流れにZOZOは抗えるでしょうか? メルカリと同じく、成長を続けるには、会員数を増やすか、会員1人当たりの年間購買額を増やすか、2つの選択肢しかありません。ただ、ZOZOがターゲットとするファッション高感度層がいずれ頭打ちを迎えるかもしれないと仮定すると、増やせるのは年間購買点数か1点当たりの単価です。

ここ最近、ユーザーの体型に合わせてカスタマイズできるセミオーダーのオリジナル商品を打ち出すなど、ZOZOが手を変え、品を変えユニークなプロモーション展開をしているのは、こうした理由があるから……このように分析することも可能なのです。

あるいは、ファッションではなく、新しいカテゴリーや市場に向かう手もあります。「無印良品」のように、食品や雑貨などライフスタイル全般で商品を取り扱うことができるか? あるいは、アジアを含めた海外にZOZOブランドを広げられるか? 経営陣は日夜数字を見ながら次なる一手を考えていることでしょう。