慶応義塾大学・三田キャンパス(左)と早稲田大学・早稲田キャンパス(写真:Mugimaki/PIXTA、mizoula/iStock)

結婚ほど人の本音が出やすい局面は少ないと思う。恋愛とは違い、生活はキレイゴトでは済まされないからだ。

学生時代は社交的な(だけど稼ぐ力は低そうな)イケメンと長く付き合っていた女性が、卒業後は地味だけど働き者の同僚を選び直して結婚した、というケースは筆者の周囲だけでも数え切れない。

親の意見や将来の子育てを考慮するならば、相手の学歴も気になるところだろう。ともに私大の雄である早稲田大学慶応義塾大学の出身者は何かと比べられることが多い。

5月7日発売の『週刊東洋経済』は、「最強私学はどっちだ? 早稲田vs慶応」を特集している。彼らは結婚をどのように考えて行動し、また異性からはどう評価されているのか。実態と本音の一端を探りたい。まずは当事者の意見から。

41歳ワセジョがなめてきた辛酸

2000年に早稲田大学を卒業した岡本裕子さんは、新卒でNHKに就職し、広告代理店への転職を経て、代理店時代の元同僚女性と2人で結婚相談所を開業した経歴を持つ。現在は0歳児の子育て中だが、在宅で可能な作業は前のめりでこなしているようだ。メールで取材協力を依頼したところ、<ワセジョとして辛酸をなめてきた41年(笑)、こんなところでお役に立つとは>との即レスが来た。


「子どもの頃からマスコミで働きたいと思っていたので、マスコミに強いというイメージだけで山口県から上京して早稲田に入学。『世の中には男と女とワセジョがいる』という言葉があるほど、女子大生なのに女性としての扱いは受けませんでした。

系列に女子校もある慶応にはミスコンが存在し、美しさが女性の評価軸として根付いていますよね。早稲田のミスコンは聞いたことがなく、その時点で女性らしさの差がつけられていたと思っています。美しさという評価軸がないだけに、オモシロや個性や没頭する趣味などで大学生活を満喫していました。キレイに装うチャンスを逃しながら、のびのび楽しんで4年間を過ごしたとも言えます」

大学を卒業して社会に出てみると「見た目の出来」次第であからさまに得をすることが多い、と周囲を観察して学習した岡本さん。将来の結婚に向けて一念発起。遅ればせながら女性らしさを追求した。

「ロングヘアにしてふわふわに巻いてみたり、好きでもないゴルフを始めてみたり、合コンに行きまくってみたり。ちなみに、学生時代には合コン参加経験はありません。意識的に早稲田臭を消そうとして、合コンの際も出身大学名は伏せていました。結果として、普通のサラリーマンと付き合うこともありましたが長くは続きませんでした。2年間で500人くらいと合コンで会ったと思います」

どんなに外見を磨いても「早稲田臭」は消えなかったと振り返る岡本さん。専業主婦を求めるようなエリートサラリーマンではなく、マスコミ勤務や自営業など「変わった」男性たちとの交際だけが長続きした。

「やはり合コンで出会った現在の夫は医師ではありますが、仕事よりも陶芸や絵画の趣味に生きるタイプです。結婚後に医師をやめて学生になった時期もあったり。波乱万丈でした……。結局、経済的な安定などよりもオモシロを選んでしまうワセジョ気質は変わらないのですね」

岡本さんの体験談から次の実情が推測できる。早稲田女性は学歴でモテないのではない。若い頃は外見を磨くという発想がなく、結婚を意識する年齢になっても自他に「オモシロ」を追求する傾向があるため、高位安定を最優先するようなハイスペック男性との相性はよくないのだ。

193人アンケートで見えた傾向

実証してみよう。老舗のネット婚活サービスである「エキサイト婚活」の協力を得て、大卒以上の未婚男女193人にアンケート調査を行い、「結婚相手の出身大学として慶応義塾大学早稲田大学どちらが好感度が高いですか?」という質問を投げかけた。約8割が「どちらも変わらない」とすげない回答をしたものの、早稲田を選んだのが26人。慶応の19人をわずかに上回る結果となった。

早稲田を選んだ人のうち男性は17人。つまり、「ワセジョ」は多くの男性から選ばれているのだ。その理由は、<早稲田より慶応のほうが、お金持ちを自慢してくるイメージがあるので><令嬢よりも普通の女性がいい><親近感を覚える>といったもので、早稲田の庶民的なイメージが好感を得ている可能性が高い。なお、親近感を覚えると答えた男性は法政大学の卒業生である。

現場の人に分析してもらいたい。仲人型の結婚相談所の大手であるパートナーエージェントには2018年だけで400名を超える早慶出身者が在籍した。同社でコンシェルジュ(顧客担当)を10年以上務め、現在は北関東エリアのブロック長の菅聡子さんは、早稲田女性は「学歴を引きずらない人が多い」と好意的に解釈する。

「好奇心が旺盛で、卒業後もNPOなどで自分が好きなことを仕事にしている方が慶応女性に比べると多いですね。結婚相手に関しては、例えばアニメなど自分が深く関心のある分野で意思疎通ができる男性を希望されたりします」

自分が「好き」を追求しているため、結婚相手にもステータスや年収ではなく好奇心と行動力を求めるのだ。この点は前述の岡本さんも大いに賛同する。同級生にはやりたいことがはっきりしている女性が多いという。

「結婚には目もくれず演劇の仕事を続ける人、年収が自分の半分くらいの年下男性と結婚して自分は出世街道を邁進する人、日本人男性は面白みがない!と言って海外に渡って帰ってこない人、大企業に就職するもやりがいを求めてベンチャーに転職した後に起業してまだ独身の人など、いろいろです。早稲田の女性はまじめでお勉強ができる人も多いので、仕事に忙殺されながらも楽しんで働いているうちに未婚だった、という話もよく聞きます」

一方の慶応女性はどうか。パートナーエージェントの菅さんは「例外はいる」という前置きをしたうえで、早稲田女性に比べると名の知れた企業で正社員として働いている会員が多いと指摘する。年収は総じて高く、お見合い写真にもこだわり、自分をよりよく見せる術に長けている。

「一般的に言って、男性は女性の学歴や年収はあまり気にしません。重視するのは見た目と年齢です。慶応女性は学歴ではなく見た目の美しさで男性から『いいな』と思われる確率が高いように感じます。ただし、実際にお見合いをすると女性のほうからお断りをするケースが少なくありません。男性が会話をリードできなかったりするとつまらなく感じてしまうようです」 

男性があまり聞いたことのない大学の卒業生だったりすると、「やっぱり私には合わないと思います」とこぼす慶応女性もいる。本音では同じ慶応出身などスペックの高い男性を望んでいるのかもしれない。

「でも、同窓生とは学生時代を通じてたくさん会ってきたのに結婚相手は見つからなかったのです。『婚活の世界でしか会えないような人と会ってみようよ』とアドバイスをして、ご本人に視野を広げていただけると、(成婚という)結果につながることがあります」

慶応ブランドのほうがやはりモテる?

前述のエキサイト婚活の調査によれば、早稲田男性に好感を持つ女性は9人、慶応男性のそれは8人。ほぼ同数だ。ただし、菅さんによれば、知り合っていない男女がプロフィール(釣書)を見せ合った時点で有利なのはやはり慶応である。

「慶応ブランドに憧れを持つ女性は多いのだと思います。慶応男性のプロフィールをお見せすると『いい紹介をありがとうございます!』と喜ばれやすいのです。ただし、イメージがよすぎてしまって、会った瞬間に(幻滅されて)NGになる恐れもあります。以前にこんな慶応男性の会員様がいらっしゃいました。

顔立ちが整っていて、プロフィール写真もすごくいい。しかし、実際にお会いするとなぜか眼鏡が必ず曇っているのです。不潔に見えてしまうので眼鏡を拭いてくださいと何度もお願いしたのですが、ご本人は聞く耳を持ちません。結局、ご成婚まで2年かかりました。お相手はアニメが大好きで、彼の見た目はまったく気にしない女性。彼はこういう女性との結婚を望んでいたのですね」

ほかの大学出身者と同じく、慶応男性も女性に学歴の高さを求める傾向はない。ただし、その母親が息子の配偶者に4年制大学以上の学歴を求めるケースは少なくないようだ。

「とくに入会のときにお母様が一緒に来るケースでは、慶応のOBOGが主宰する結婚相談所と弊社を比較されたりします。ご両親も含めてフラットな考え方の人が多い早稲田男性とは対照的です」

異性の会員に公開するプロフィールで学歴を記入する際にも早慶で違いが見られる、と菅さんは明かす。早稲田男性は「大学名なんて結婚に関係あります?」と驚いた顔をする素朴な人もいるのに対して、慶応男性は大学名を自然に記入して公開することが多いのだ。慶応ブランドの威力をわかっているのだろう。

慶応卒男性の”反論”

1990年に慶応大学を卒業して以来、大手メーカーで働き続けている山口正弘さん(仮名)は以下のように反論する。離婚歴のある彼は、数年前に短大卒の女性と再婚した。

「ちなみに元妻も短大卒です。僕は4大卒にこだわりはありませんでした。ただし、話が合わないことも多いので、専門学校卒・高卒の方とは恋愛に至った経験はありません。同じく短大卒の母も僕の結婚相手に対して高学歴を求めたことはなく、人柄重視というスタンスでした。

慶応=スマートなお金持ちが多いというステレオタイプ的なイメージが世間では強いですよね。確かに、創業社長の2世や3世といったお坊ちゃんお嬢さんもいるにはいますが、大半の人はそんなことはありません」

以前、筆者はこの山口さんにお見合い相手を紹介したことがある。その際、彼は大学名だけでなく、学部名や専攻に至るまでの詳細な学歴をメールしてきた。本人と母親が相手に学歴を求めていないのは真実だと思うが、自分自身の学歴の価値は十分に認識して活用している。もちろん、悪いことだとは思わない。婚活は総力戦なので、使えるものは使ってチャンスを広げるべきなのだ。

ブランドを大いに生かして高みを目指す慶応、好奇心の赴くままに生きる早稲田。婚活の場にも校風は出る。

『週刊東洋経済』5月11日号(5月7日発売)の特集は、「最強私学はどっちだ? 早稲田vs慶応」です。