歯の健康を守るために必要なことは?

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 世界に先駆けて超高齢化社会が現実のものになっている日本。誰もが長い人生を「自分らしく生きたい」と願っています。ところが、現実はそう簡単ではありません。食が豊かになりすぎたことで罹患(りかん)リスクが高まり、「悩める晩年」が社会全体を巻き込んでいます。

 口の中の健康については、これまでも多くの歯科医師が警鐘を鳴らしてきました。日本では、最近になってようやく一部の専門家が気づき始めたのが実情です。今回は、歯科医師であり、米国抗加齢医学会認定医として活動をしている森永宏喜さんに話を聞きます。著書に「全ての病気は『口の中』から!」(さくら舎)があります。

ヘルシーで健康とは何か、精査が必要

 あなたの周りには、次のような人がいませんか。野菜をたっぷり食べることで「健康にいい」「体によい食事をした」と言っている人が。そもそも、「ヘルシーな食事」とは一体どのような食事のことをいうのでしょうか。

「健康によい食事ということについては意見があるかと思いますが、しっかりとした科学的根拠に乏しいものも散見されます。例えば、健康の敵のように思われがちなコレステロールを例に挙げれば、その医学的根拠とされているものは古いものが多く、主として1990年代の論文です。信頼性に疑問があるものも多いことは看過できません」(森永さん)

 さらに、当該食品に関わる関係者の発言が、ポジショントークとして影響していることも見逃せません。本質的な生化学レベルの、また臨床実態に合った食事法について論じる必要性がありそうです。

 次にファストフードについて伺います。

「ファストフードが好まれている理由は、その手軽さにあります。しかも、素早くカロリーが補給できて形状が柔らかいことから、あまりかまずに食べることができます。中でも、HFCS使用の甘いドリンクのセットは健康に好ましくありません。HFCSは『異性化糖』『ブドウ糖果糖液糖』とも呼ばれています。HFCSが使われたドリンクは病気のリスクを上昇させるという調査結果もあります」

「ファストフードやコンビニの加工食品の油脂は酸化している危険性が大きく、摂取すると体内で活性酸素が発生しやすくなります。ファストフードの取りすぎには注意が必要です」

 日本では、国が定めた成分が分解されていれば表記義務がありません。米国では、肥満や糖尿病などの原因となり、健康を脅かすことから使用禁止運動が広がっています。

歯磨き、デンタルフロス、定期受診は必須

 私たちが普段、口にする食品の中には、残念ながら健康に悪い影響を及ぼす成分などが使われているものが多くあります。現代は、バラエティーに富んだ食品が世の中にあふれています。知らないうちにリスクを体に取り入れかねません。

「まずは、取るべきもの、避けた方がよい食べ物をチェックした方がよいでしょう。過剰な糖質、特に精製度の高いものは食後血糖値を急激に上げる元になります。玄米より白米、全粒粉のパンより白いパンは精製度が高いということを意識しましょう。また、ω6系脂肪酸(リノール酸など)は、取りすぎると動脈硬化などのリスクが上昇するので要注意です。酸化しやすく、炎症を促進する活性物質を産生します」

「炎症を抑える作用のあるω3系のエゴマ油、亜麻仁油、紫蘇油、チアシードや、青魚の油(EPA・DHA)を取るのが理想的です。さらに、トランス脂肪酸も要注意です。加工油脂を使用した菓子、揚げ物などに含まれるトランス脂肪酸の取りすぎは、血中のLDL(悪玉)コレステロールを増やし、HDL(善玉)コレステロールを減らして心疾患を引き起こす要因にもつながります」

 また、食後に口の中を良好に保つことは、生活習慣病や認知症を防ぎ、介護に依存しない幸せなシルバーライフを迎えるための大きなポイントになると解説します。

「ポイントは3つです。寝る前のブラッシングで就寝中の細菌の増殖を抑えます。デンタルフロスを使うことで歯間の歯垢を除去します。さらに、定期受診をすることで、異常の早期発見、早期治療はもちろん、適切なアドバイスを受けることができます。口腔の機能が生活習慣、食習慣と相まって全身の健康維持に関わっているという研究成果が明らかになりました」

「異常が表れる前の『未病』状態で歯科が関与すれば、病気の発症を未然に防げる見込みが大きくなってきたのです。医療・福祉政策もこの方向に大きくかじを切りつつあるので、歯科がゲートキーパーという潮流は加速していくのではないかと思います」

「歯と口の健康」がいかに大切か、改めて認識する必要性がありそうです。今回、取材にご協力いただいた森永さんに御礼申し上げます。