自動運転車の実証実験が各地で行われていますが、そこには時間やコストなどの課題も。全国での実証実験を加速すべく、自治体や交通事業者に向けた日本初の「自動運転モビリティ導入支援事業」が立ち上がりました。

自動運転を全国に広げるための「パッケージ」

 地方における将来の「足」として期待されているクルマの自動運転、その実現に向けた「実証実験」を加速するため、一種の保険商品が誕生します。

 損害保険大手の損保ジャパン日本興亜、自動運転のソフトウェア開発を手掛けるティアフォー(名古屋市中村区)、3次元測量技術を持つアイサンテクノロジー(同・中区)は2019年2月15日(金)、業務提携契約を締結し、自治体や交通事業者に向けた「自動運転モビリティ導入支援事業」を立ち上げました。


損保ジャパン日本興亜が所有する自動運転車。完全無人の状態で走行した(2019年2月15日、中島洋平撮影)。

 3社は共同で、完全自動運転の実証実験に必要な「リスク検証」「実験中の車両監視」「事故時の補償」をひとつのパッケージとして自治体などに提供。これにより実証実験に要する時間やコストを大幅に削減し、自動運転車によるサービスを全国に広げていく狙いです。損保ジャパン日本興亜 社長の西澤敬二さんは「自動運転車が普通に走る社会」を目指した日本初の取り組みだと話します。

 これまでも、国や民間が主体となった、クルマの自動運転の実証実験が各地で行われてきました。赤字に陥っている公共交通を「無人化すれば人件費がかからず、黒字化できるかもしれない」などと、多くの自治体や交通事業者から、実証実験を行いたいという声が3者のもとに寄せられているそうです。しかし実際には、多大な時間とコストから、思うように広がっていないといいます。

「自動運転車はあっても、それをどう運行し、どう安全を担保し、どう警察の許可をとるか、ノウハウがなければそれらプロセスに時間を要し、実現までのスピードが落ちてしまいます」(ティアフォー CTO 加藤真平さん)

 各自治体がそれぞれで時間をかけてノウハウを積み上げていくよりも、これまでのノウハウと補償をひとつのパッケージとして提供し、実験を加速させていくことが、自動運転社会の実現につながる――そのような思いから今回の協業に至ったといいます。

技術的には「ほぼ確実」 いまの議論は

 ティアフォーの加藤さんによると、「未経験の自治体がイチから自動運転の実証実験を行おうとすれば、開始までに1年から2年を要します」とのこと。ティアフォーとアイサンテクノロジーがこれまでの積み重ねてきた実験のノウハウと、1300万件の自動車保険契約者を抱える損保ジャパン日本興亜が持つ事故データを掛け合わせることで、実験開始の許認可までを2か月から3か月、実際の手間としては数日レベルまで短縮することができるといいます。

 アイサンテクノロジーの佐藤直人さんは、実験にかかるコストの多くが、実験の許可を得るためのリスク検証で関係者が現地に赴き、過去の事故事例などを踏まえてデータを積み重ねていくことに要しているといいます。今回のパッケージでは、実験地域に3次元測量機器を搭載した車両を走らせ、実際の走行環境を忠実に再現した3次元の地図データを作成、これを「自動運転シミュレーター」に読み込ませ、3社が持つデータも活用しつつ、ウェブ上でリスク検証ができるそうです。

 また、実験に際しては自動運転システム搭載車両を提供するとともに、損保ジャパン日本興亜が立ち上げた「コネクテッドサポートセンター」による遠隔の走行監視サービスを提供。事故を補償する保険商品もセットにすることで、地域の特性を考慮した計画的な実証実験が可能になるといいます。


細かな点からなる三次元の測量データ。自動運転シミュレーターに活用し、実際の走行環境をウェブ上につくる(2019年2月15日、中島洋平撮影)。

 ティアフォーの加藤さんによると、「自動運転ができるか」という技術的検証は、これまでの実証実験を通じてほぼ完了しており、2018年くらいからは、社会にどう受容してもらうか、法や規制をどう整備するかといった点に議論が移っているとのこと。特に社会の受容を広げていくうえで、「保険」のあり方が重要になっているといいます。一方の損保ジャパン日本興亜も、クルマの安全技術が発達し追突事故も激減するなか、「自動車保険のディスラプション(崩壊)が起こっている」(西澤社長)といい、保険からサービス産業への転換を図るとしています。

 3社は今回の「自動運転モビリティ導入支援」を、2019年後半には試験提供、そして遅くても2020後半には国内全域に広げていくそうです。