「刺し身」と「お造り」は何が違う?

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 国によってさまざまな調理法で食べられている魚介類。「新鮮な魚介をさばき、生のまま食べる」のは日本料理の大きな特徴であり、その代表といえば「刺し身」ですが、同様の料理として「お造り」という言葉を思い浮かべる人も多いはず。ネット上でも「刺し身は魚以外にもあるよね」「お造りの方が高級感のあるイメージ」などの声が上がっています。

 調理法や盛り付け方など、共通点が多いイメージのある「刺し身」「お造り」は何が違うのでしょうか。和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。

場面や地域によって使い分けられる

Q.そもそも「刺し身」とは何でしょうか。

齊木さん「刺し身は、生や冷たいままで美しく切り身にした料理のことを指します。魚介類以外の食品でも、馬刺し、鶏刺し、レバ刺し、こんにゃく、タケノコ、ゆば、麩(ふ)などが挙げられます。

江戸時代にあっては、『(ゆでる、煮る、焼くなどの)加熱調理をせずに食べる料理』を刺し身と呼んでいた経緯があり、主に関東でこう呼ばれます」

Q.「刺し身」という言葉の由来について教えてください。

齊木さん「『刺し身』の由来には、次の3つの説があります」

(1)元々は「切り身」と呼ばれていたが、武家社会で「切る」という言葉は忌み嫌われていたため、「刺し身」が用いられるようになった。

(2)「刺し身」の「刺す」は調理法を指し、包丁で刺して小さくすることから「刺した身」→「刺し身」になった。

(3)調理した魚の「切り身」の状態では何の魚か分からないため、尾びれを切り身に刺して示していたことから、「刺し身」と呼ばれるようになった。

Q.刺し身の盛り付け方はどのようなものでしょうか。

齊木さん「刺し身には、『つま』という野菜や海藻が添えられます。つまも美しく切り造り、刺し身に添えて盛り付け、一緒に食べます。つまは、生のままの大根やワカメなどが多いですが、これも旬の野菜や野草、山菜などさまざまです」

Q.それでは「お造り」とは何でしょうか。

齊木さん「お造りとは、魚介類の『切り身』のことです。関西では『切る』と同様に『刺す』も忌み嫌われたことから、魚を切ることを『作る』といい、刺し身は『作り身』と呼ばれていました。お造りは、『作り身』に接頭語の『御』が付いた言葉で、主に関西で使われています。馬刺しなどの肉類を『お造り』と呼ぶことはありませんが、魚介類の『刺し身』と『お造り』は同じです。

刺し身よりもお造りの方が美しく上品に聞こえるためか、刺し身の丁寧語として『お造り』と呼ぶ地域もあります」

Q.お造りの盛り付け方とはどのようなものでしょうか。

齊木さん「生けすに泳がせておいた魚を生きたまま調理する『活(い)き造り(活け造り)』の印象からか、大皿や船形の皿などに盛られたものや、こだわった華やかな盛り付け方のものが多いです。

例えば、魚の頭・中骨・尾を置いてその上に身を盛り付けたり、船盛りのように、伊勢エビの殻や、頭と尾をつけたままおろした魚を船に見立てて豪勢に盛り付けたりします。また、立体的に向こう側を高く、手前の方に従って低く、広く盛るなど、美しく華やかに盛られたものを『お造り』と呼ぶことが多いようです」

Q.刺し身とお造りの共通点、違いをまとめると。

齊木さん「魚に関していえば、新鮮な切り身の呼称として、基本的に同じものです。ただし、家庭的な日常の場面では『刺し身』、料亭などで尾頭付きや船盛のように豪華に飾られたもの、コース料理の一品として出されるものを『お造り』と呼び分けることが多いです。また、主に関東では『刺し身』、関西では『お造り』と呼ぶなど地域的な違いもあります。

コンニャクなど魚以外のものの切り身も『刺し身』というのに対し、『お造り』は魚介類のみに使う、という違いもあります」

Q.ちなみに、「あらい」「たたき」とはそれぞれどのようなものでしょうか。

齊木さん「『あらい』は、新鮮なコイ・タイ・コチ・スズキなどの白身魚を薄く切って、冷水や氷で冷やした刺し身のことを指します。冷やすことで身が縮まるため、コリコリとした食感で歯切れがよくなり、脂や臭みも落ちるため、さっぱりと食べることができます。漢字では『洗い』のほか、『洗膾』『洗魚』とも書かれます。

一方、『たたき』は、材料を包丁や手でたたき、砕いたりつぶしたりして調味料などの味を染み込ませた日本料理の調理法の一つで、その料理のことも指します。アジ・イワシなどの魚介類をはじめ、野菜ではゴボウ・たたき菜が知られ、口当たりがよく、材料の香りが強くなるのが特徴です。

魚の臭みを消し、殺菌作用もある食材を使うことで、食中毒の予防にもなるといわれています。また、『牛肉のたたき』『カツオのたたき』のように、火であぶるたたきもあります。カツオのたたきは、おろした皮付きのカツオを金串に刺して表面を強火であぶり、手早く氷水にくぐらせてから刺し身に切ったものです。名前の由来は、『氷水で冷やす代わりに包丁の腹でたたいて身を締めていたことから』『薬味をまぶして包丁でたたいたことから』など諸説あります」