ビットコインなどの暗号通貨(仮想通貨)の価格はどこで下げ止まるのだろうか(写真:pbalanenko / PIXTA)

12月1日の米中首脳会談での「追加関税棚上げ(90日延期)」で相場が一息ついたのもつかの間、足元市場は再び正念場を迎えている。一方、ビットコインを筆頭とした主要な暗号通貨(仮想通貨)は、相次いで年初来安値を更新したあとも反発力は弱い。年末高を想定していた筆者としては、今のところ厳しい師走相場となっている。

なぜ暗号通貨は下落基調が続いているのか

当初、金融庁が10月24日に「一般社団法人日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)」を認定資金決済事業者協会として認定したことなどをプラス材料視して、筆者は「暗号通貨の年末高のシナリオ」を考えていた。だが、11月に入って、ビットコインキャッシュの分岐がトリガーとなり年初来安値を下回ったことから、投げ売りが一気に膨らんでしまった。

暗号通貨は需給面が価格形成の多くを占めていることからダイナミックな動きとなっている。代表的なビットコインの価格は11月15日に年初来安値水準の65万円を割り込んだあと、11月に一気に40万円を割り込み、12月12日時点では約38万円前後(フィスコ仮想通貨取引所)になっている。

まず年初来安値を一気に下回るきっかけとなったといわれるビットコインキャッシュの分岐に関して説明したい。11月16日未明、ビットコインキャッシュはかねて注目されていた機能更新を目的とした仕様変更(ハードフォーク)の完了後に、「ビットコインABC」側と「ビットコインSV」側という2つの暗号通貨に分岐した。ビットコインABCとビットコインSVはそれぞれネットワークの仕様をめぐって対立していた開発陣営で、ハードフォーク後は互換性のない2つのチェーンとしてそれぞれにマイニング(暗号通貨の新規発行や取引承認に必要となる計算作業)が行われている。

分岐前まではビットコインSV側のハッシュレート(マイニングの計算力を表す単位)が全体の7割超を占める状態だったが、ハードフォーク後にビットコインABC側が大幅にハッシュレートを追い上げて逆転。11月末時点では、ビットコインABC側が全体の約7割を占める(コインダンスより)。ビットコインドットコムというABC側の大手マイニングプールが分岐に併せて大幅にビットコインキャッシュに対するマイニングの計算力を高めたことがきっかけとなった。

足元では、この2つの暗号通貨間で繰り広げられているハッシュレートの争いによって、コスト増加に耐えきれないマイナーが手持ちの暗号通貨を換金したことが売りの背景とされている。ハッシュレートが高いということは、マイニングの速度が上昇、つまり多くのマイナーが参加していることを意味する。分岐したビットコインキャッシュは、より多くのマイナーを獲得するためハッシュレートを高めたことから、暗号資産の換金売りを誘発したというロジックである(もっとも、ハッシュレート争いを行っているマイナーは暗号通貨の下落を見越して売りポジションを持っていたとの話もある)。

このロジックは後付け感が強いものの、年初来安値を一気に更新するきっかけとなったことは間違いなさそうだ。

ファンダメンタル分析によるバリューの判断ができない

投資家心理としては、年初来安値水準で何カ月間も耐えていたことから、年始からの調整はある程度一巡したと思っていたなか、この水準を一気に下回ったことへのインパクトは大きい。チャート形状からしても、年初来安値更新で下値模索の展開となっており、2017年夏ごろにもみあった高値圏である30万円台前半が下値メドとして意識されそうだ。

株や為替と異なりファンダメンタル分析によってバリューを判断することができない暗号通貨は、今回のように節目を上回る(下回る)とオーバーシュートする傾向が散見される。短期的な「売られ過ぎ感」はあっても、ファンダメンタル分析に伴う「売られ過ぎ感」が判断できない。押し目を狙いたい投資家は、価格水準で買いを判断しなくてはならないことから押し目狙いは、「度胸勝負」といった格好だ。年始からの長い調整期間を受けて、ホットマネーといわれる「投機資金」が流出し、売買代金は低迷。このような状況下、「途転(どてん:相場がボトムを打ち反発に転じるタイミング)」となるためには、それなりのインパクトが必要だろう。

そのような状況下、注目したいイベントとして、「ICO(イニシャル・コイン・オファリング)」を挙げておきたい。認定資金決済事業者協会であるJVCEAは、2018年内を目標に「ICO」の自主規制規則を策定する見通しと伝わっている(10月24日の会見にて)。世界的に無法地帯と化していた「ICO」に一定の方向性を日本の自主規制団体が打ち出すことができれば、ネガティブ要因だった「ICO」も健全化への一歩前進となろう。

金融庁側も「仮想通貨交換業等に関する研究会」を11月に合計3回開催するなどして、ICOや証拠金を用いたレバレッジ取引(ビットコイン信用取引、ビットコインFX含む)など投資者保護が不十分な内容をさまざまな資料を用いて議論している(こちらの内容は金融庁のHP上にて確認可能)。

議事録を確認すると、夏ごろまでは立入検査で明らかとなった内部管理体制の不備が議論の中心だったが、秋以降はICOやレバレッジ取引など投資(投機含む)の具体的な売買事例が議論の対象となっている。

暗号通貨の設計の自由度が高いため

多くの暗号通貨には企業価値等に基づく本源的価値が観念しにくく、何らかの権利が付与されたICOトークンについても、その設計の自由度は高いため、さまざまな権利が付与される可能性があることが議論されている。

そして、こうした前提を考慮した際、金融商品取引法のインサイダー取引規制のように、何が顧客の取引判断に著しい影響を及ぼす未公表の重要事実かをあらかじめ法令で明確に特定することには困難な面があると位置づけている。金融商品取引法の範疇でこれらの事象を特定することは難しい。

11月26日に金融庁で開催された「仮想通貨交換業等に関する研究会」では、「ICO」の規制のあり方に関して踏み込んだ議論がなされた。仮想通貨交換業者が「ICO」を取り扱う場合、業者自身が審査し販売する方針とするようだ。交換業者が審査する際、自主規制団体とのすり合わせが必要となることから、自主規制団体による審査基準も来年辺りには策定されるのだろう。

金融庁がICOに関する考えを積極的に発信しているなか、年内残すところ20日弱となっている。ビットコインをはじめとする暗号通貨の「途転」を迎えるには、年内とされているJVCEAによる「ICO」自主規制規則の策定および公表を待ちたい。