空き缶集めをしているホームレスの家(筆者撮影)

ホームレス。いわゆる路上生活をしている人たちを指す言葉だ。貧富の格差が広がる先進国において、最貧困層と言ってもいい。厚生労働省の調査によると日本のホームレスは年々減少傾向にあるものの、2017年1月時点で約5500人(うち女性は約200人)もいる。そんなホームレスたちがなぜ路上生活をするようになったのか。その胸の内とは何か。ホームレスを長年取材してきた筆者がルポでその実態に迫る連載の第6回。

ホームレスはむしろ過酷な労働をしている人が多い

ホームレスに暴力を働いた人に、なぜ暴行したのか理由を聞いてみると、

「自分が一生懸命働いている時に、のうのうと寝ているのが見えて腹が立った」

と答えるケースが多い。

身勝手極まりない意見だ。自分のつらさを、他人にぶつけているだけだ。どんな理由があろうが、他人に暴力を働いてはいけない。


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だがそもそも、ホームレスの多くは「働かずに寝ている」わけではない。外で寝るので、寝ている姿をよく目にするだけだ。

ホームレスは、むしろ過酷な労働をしている人が多い。

ホームレスの労働で最も一般的なのは、廃品回収業である。なかでもアルミ缶を集めて生活している人が多い。都市部では、アルミの空き缶を一杯に入れた袋を自転車や荷台台車に積んで街を転々としている人をよく見かける。

アルミの買い取りの値段は、時期によって変動する。大体1キログラム90〜130円くらいが相場だ。

「中国の北京オリンピック(2008年)の前はすごく高かったよ。200円を超えていたと思う」

と、かつて上野公園に住んでいたホームレスは語った。値段が高くなればホームレスが潤うかというと、そううまくはいかないらしい。

「値段が高くなると、一般の人も集めるようになるんだよね。儲かるからさ。俺らみたいに歩きや自転車で集めるのと違って、軽トラでガンガン回って集めるわけ。俺らの集める分がなくなっちゃうんだよね。ホームレスの仕事ってのは“儲からない”ってとこがポイントなんだよ」


空き缶を集めるホームレス(筆者撮影)

比較的若いホームレスが、自転車を使って目いっぱい一日働いて3000円が限度だという。1キログラム100円として、30キログラムだ。1日で30キログラムの空き缶を集めるのはすごいと思う。

確かに、それだけ働いて3000円ではいかにも儲からない。この額では「よし俺もやってみよう」とはなかなか思わないだろう。

僕がホームレス取材を始めた20代のころ、実際に自分でアルミ缶を集めたことがあった。

缶はただ集めればいいわけではない。缶には、スチール製とアルミ製の2種類があるので、アルミ製だけ選別して集めなければいけない。ゴミ箱に手を突っ込んで、一つひとつ判別しながら集めていく。

空き缶のゴミ箱は飲み残しなどでビシャビシャになっていることが多い。袖が濡れ、悪臭を放つ。2時間も働いているとかなり汚れた。道行く人たちの目が、とても痛かった。

空き缶もそのまま運ぶとかさばってたくさん持てない。そのため一つひとつ潰さなければならない。人けのない公園に行って、一つひとつ足で踏んで潰していく。しばらく続けると、足がジンジンと痛くなった。

以降、集めては潰しを繰り返しながら進んでいく。結局、池袋から上野まで13時間かけて歩いて空き缶を集めた。その結果、稼いだお金は500円程度だった。

時給は50円を切った。

慣れればもっと効率は良くなるかもしれないが、それでもとても厳しい売り上げだ。

アルミニウムや銅で稼げる手もある

「なかには、マンションの管理人と仲良くなって、マンションから出る空き缶を全部もらっている人もいるよ。でもタダというわけにはいかないよ。タバコやお酒を渡して機嫌を取らなくちゃいかん」

ただでさえ少ない実入りなのに、そこから賄賂を渡さなければならないのはつらい。ただし、マンションなどから出るアルミ缶はかなりの量なので、安定した収入になるそうだ。


銅線を抜いたコードの山(筆者撮影)

もちろん、アルミ製であればアルミ缶に限る必要はない。たとえば、アルミ製の自動車のホイールを拾えばそれだけでかなりの重量になる。

アルミニウム以外の金属も売れる。鉄は安いので量を集めないといけないが、銅は1キロ700〜800円とアルミニウムよりもかなり高い。給湯器やクーラーの室外機は金属の塊なので拾ってくると儲かるが、非常に重たいので持ち運びが大変だ。

工事現場などから、銅線のリールなどを盗んできて売る人もいる。もちろん違法だ。忍び込んでいるところを逮捕される人もいる。

多摩川の河川敷に立派な小屋を建てて住んでいるAさんは、金属だけでなく、さまざまなモノを拾って現金化していた。


いろいろ集めている家(筆者撮影)

小屋の周りには拾ってきたさまざまな物が置いてあった。選別している最中のAさんに話を聞いた。

「小屋は材料を買って建てたんだよ。材料費だけで20万円くらいかかったかな。しっかり作ってあるから夏でも冬でも快適だよ。中にはベッドも置いてある。もともと鳶職だから器用なんだよ」

と笑顔で語ってくれた。小屋を作るのに20万円もかけるとはすごい。エンジン式の発電機も持っていて、ある程度文化的な生活を営めている。つまり“稼げている”ということだ。

「1日街を回っただけでかなりの量拾えるよ。たとえばこんなのはたくさん落ちているね」

指差すカゴの中には、新旧さまざまな型のデジタルカメラが入っていた。

「中古はもちろん、新品も落ちてる。コンパクトカメラではなくて、一眼レフカメラを拾うこともある。この間は、ニコンF2を拾ったよ。名機だよね」

ニコンF2は1971年に発売された、機械式フィルム一眼レフカメラだ。古いカメラだが、愛用者も多い。骨董品的な価値もある。

数千円の儲けになったそうだ。

粗大ゴミや燃えないゴミの中には遺品も

粗大ゴミや燃えないゴミの中には、そんな換金できる物がたくさん落ちているという。


人気のゲーム機なら500〜2500円くらいになる(筆者撮影)

「いちばん落ちてるのはゲーム機だね。初代プレイステーションはもう100円くらいにしかならない。人気のゲーム機は壊れてても500〜2500円くらいになる。あとはミュージックプレイヤーや時計、ライター、携帯電話なんかもよく捨ててあるね。市販されてるCD、DVD、ゲームソフトが山のように捨ててあることもある。どれもさばき方によってはいくらかの値はつくよ」

そんななか、最も換金率が高い狙い目は“金(きん)”だという。

「ゴミのなかに金とか落ちてないと思うだろ? でもこれが不燃ごみのなかによく捨ててあるんだ。爺さんや婆さんが死んだ時に出た遺品を適当に捨てちゃってるんだろうね。指輪とか金歯とかが出てくること多いよ。一度なんか大きい金の盃を拾ったことがある。しっかりK18(75%金)刻印もあって、50万円になったよ」

Aさんはかなり能動的に働いているが、それでも1日の売上は1万円に届かないくらいだという。それでもホームレスのなかではかなり儲けているほうだ。

「腰を痛めて鳶職を辞めたんだけどね。それまでは普通にアパートに住んでたよ。その時はまさかこんな生活すると思ってなかったけど、いつの間にか板についちゃったな。1回こういう生活するとね、自由があるでしょ?

時間に縛られないというのは、楽なんだよね。

もともと酒もタバコものまないたちで、昔は自炊してたけど今は面倒だからコンビニ生活だね。困ってはいないよ」

と、笑顔で語ってくれた。

彼は、周りに住むホームレスの人に援助や支援をしていた。ホームレスになりたての人は、どうやって生活していったらいいのかわからない。そんな人に対し、小屋を建てるのを手伝ってあげたり、ご飯をおごったりしていた。Aさんが住む一帯には、

「Aさんのおかげで助かった」

という人が何人もいた。


台車を使って大量に紙を集めても金属と比べると安い(筆者撮影)

紙も集めれば現金化できるが、金属に比べると安い。1キロ数円の世界だ。台車を使って大量の紙を集めても、数千円にしかならない。町中で大きな台車を引っ張る人を見かけることがあるが、あの台車はごみ処理施設から貸し出された物だ。

集めるのは、段ボールやマンガ雑誌などだが、雑誌の場合“紙”として売るより“古本”として売ったほうがはるかに高く売れると気づいた人がいた。

彼は大阪の路上で、拾ってきた雑誌を並べて売り始めた。これが当たった。特に週刊少年ジャンプが発売される月曜日には、飛ぶように売れた。

儲かると暴力団の仕切りになってしまう

だが、前半でも書いたがホームレスの仕事は“儲からない”からいいのだ。雑誌を売る仕事は儲かったため目をつけられた。

いつの間にか暴力団の仕切りになり、ホームレスは安く使われるだけの人材になってしまった。

ただ、そもそも商品の雑誌がなければ売ることはできない。拾うのはホームレスの仕事だ。電車に乗り、網棚に捨てられた雑誌を拾う。駅のゴミ箱に捨てられた雑誌は、捨て口が狭く手が入らないようになっているので、針金などを突っ込んで拾う。そうして集めた雑誌は1冊50円で買い取られた。

ホームレス同士で縄張りができることもあった。駅でケンカになってしまい、殺人事件に発展したこともあったという。

大阪では、ホームレスが露店を開くことが多い。ドヤ街西成に行くと、路上にズラーッと商品を並べて売っている人がたくさんいた。


さまざまな物を売っている露店(筆者撮影)

大阪以外のホームレスで露店をしているのはほとんど見たことがない。やはり、大阪は商人の街ということなのだろう。

実にさまざまな物を売っていた。

家具、靴、ライター、リモコン、充電器、カラオケ、電気工具、睡眠薬……など。たくさん売っているが、欲しいものはなかなか見つからない。でも、何を売っているのか見て回るのは、とても楽しかった。

ホームレスではないが、廃棄されたお弁当やおにぎり、パンなどを安い値段で売っている露店もあった。海外から買ってきたタバコ(税金の関係で日本より安く買える国で買ってきて、少し安く売る)を売っているおばちゃんたちもいた。

最近では警察の取り締まりが厳しくなり、露店はほとんど営業できなくなった。少し寂しいけれど仕方がないことなのだろう。

ホームレスの労働はきつい、汚い、危険

珍しい稼ぎ方では上野公園でのギンナン集めがあった。上野公園はイチョウの樹がたくさん植わっているので、秋にはギンナンがたくさん落ちる。これを拾って、周りの実を剥いで乾かし食材にして売るのだ。

ご存じの通り、ギンナンはとても強い臭いを放つ。またかぶれることもある。当時は秋になると、上野公園のテント村のあたり一帯にギンナンの臭いが充満して、歩いているとくらくらすることもあった。

ギンナンを袋に入れて販売すると、これが売れた。通行人は一袋500円でバンバン買っていった。

「上野の料亭の人も買いにくるよ。まとめてかなりたくさん買ってくれるから、数万円の売り上げになるよ」

とホクホクした顔で話してくれたおじいさんもいた。ただ前にも言ったとおり、儲かってしまってはダメなのだ。すぐに暴力団の仕切りになってしまった。

しばらく後に顔を出すと、

「全然儲からなくなっちゃった」

とおじいさんは寂しい顔で言っていた。

ホームレスになってもお金は必要だ。

もちろん家で生活するよりも支出は少なくて済むが、その代わり稼げる額も極端に少なくなる。そして労働も、きつい、汚い、危険だ。

ホームレスの仕事はのんびりラクそうだなぁ」

という人は1度、朝から晩まで空き缶を集めてみたらいい。

きっと彼らを、見る目が変わると思う。