吉野家が投入する「牛すき鍋膳」。冬の定番として定着し、初投入から今年で6年目を迎える(撮影:今井康一)

今年も“熱い”鍋のシーズンがやってきた。吉野家は11月1日、冬の定番である鍋メニューの販売を開始した。主力の「牛すき鍋膳」を並盛690円(税込み、以下同)で販売するほか、3年ぶりに「牛チゲ鍋膳」(690円)を復活させる。

同社が2013年に初めて販売した牛すき鍋膳は、「うまい・やすい・ごゆっくり」をコンセプトに掲げ、固形燃料を用いた卓上コンロの形で提供し、発売初年度に半年間で1300万食を超える大ヒット商品となった。これまで累計5000万食を売り上げ、今回も来年3月ごろの販売終了までに1000万食の販売を目標に掲げる。

吉野家が命運を託す牛すき鍋膳

「1年ぶりに召し上がるお客様の“おいしかった”という記憶に、実際の商品が負けないようにしたい」。吉野家ホールディングスの河村泰貴社長はそう語る。4年目となった2016年に野菜を増やしたほか、今回は出汁を改良。牛肉の厚さや大きさも微調整したというが、「具体的には企業秘密」(河村社長)という。

そんな牛すき鍋膳だが、今年度の吉野家ホールディングスの業績を決める“大役”を担いそうだ。同社は毎年5月と11月に株主優待を発送し、約33万人いる株主のうち95%が優待を利用することから、割引に伴う引当金や優待の配送料が第1・第3四半期に発生する。そのため、相対的に第2四半期と第4四半期の利益が膨らむ。特に、第4四半期はここ数年、単価の高い牛すき鍋膳が貢献している(下表)。


吉野家ホールディングスの今年度の第2四半期累計の営業利益は5500万円と、前年同期の21億円から大幅にダウン。原材料に加え、採用や物流にかけるコスト上昇が痛手となった。第3四半期は例年どおり株主優待費用が発生することもあり、第4四半期(2018年12月〜2019年2月)における牛すき鍋膳の売れ行きが、今年度の業績を大きく左右する。


吉野家の牛すき鍋膳の発表会見で笑顔を見せる河村泰貴社長(中央)。テレビCMに参加した俳優やタレントも駆けつけた(撮影:今井康一)

満を持して投入する牛すき鍋膳だが、今年は例年と異なる点がある。1つ目は価格だ。今年は並盛価格が690円となり、過去2シーズンの650円と比べて40円高い。品質改良や野菜増量も進めているが、背景には原材料価格や人件費の上昇がある。

もう1つが販促手法の見直しだ。これまでも鍋商品のテイクアウト販売を行ってきたが、今回はテレビCMやポスターでもテイクアウトを強調。牛丼並盛4食分の牛肉が入った「牛鍋ファミリーパック」(980円)も販売する。平日の夜に吉野家に来店する家族客は少ないが、テイクアウトで食卓に並べてもらうことで売り上げ増を狙う。

トッピングを訴求

さらに今回から力を入れるのがトッピングだ。以前からメニューブックの「サイドメニュー」にあったが、今回は「追っかけメニュー」と称して、チーズやねぎを一緒に食べてもらうことを訴求する。


吉野家が2013年に投入した最初の牛すき鍋膳(左、発売当時は580円)と今回の牛すき鍋膳(右、690円)。野菜が増量されているのが一目瞭然だ(撮影:今井康一)

「牛肉が高騰する中で、値段を上げ続けるわけにもいかない。『追っかけメニュー』では、われわれの提案を基にお客様に選んでいただき、結果として客単価が上がればいい」(吉野家でマーケティングを担当する伊東正明常務)。トッピングは従来から店舗にあるものを使用し、「現場の負担はそれほど大きくない」(同)。

競合他社も攻勢をかけている。松屋は牛丼3社の中で先駆けて、10月9日から「牛鍋膳」を590円で販売している。「やはり他社と比べられる」(会社側)との考えから比較的安いところを狙った。野菜は少ないが、みそ汁がついている点が特徴だ。


松屋が10月9日から販売する「牛鍋膳」(写真:松屋フーズホールディングス)

実は松屋は、2014年にも試験的に鍋メニューを投入した。当時は鍋やコンロなどの器材を十分にそろえることができず早々に撤退。今回は鍋の軽量化など十分に研究を重ね、満を持して4年半ぶりの復活となった。前回はあらかじめ煮たものを提供していたが、今回は固形燃料を用いて卓上で加熱する形となった。

全店での提供は今回が初めて。「第1弾」として発売した牛鍋膳を継続しながら、11月6日からは第2弾の「豆腐キムチチゲ鍋膳」を販売する。今後も月替わりで期間限定の鍋メニューを投入していくとみられる。

すき家はボリュームで勝負

ゼンショーホールディングスが運営する「すき家」は、11月14日から「牛すき鍋定食」を発売する。値段は780円と前年より100円高く、牛丼3社の中で最も高い設定となった。


すき家の鍋は昨年よりも肉を増量したうえ、卵が2つ付くなど、ボリューム重視を打ち出した(写真:ゼンショーホールディングス)

会社側は「肉を前年比25%増量した。他社と比べてもうちがいちばん多いはず」と強調する。加えて野菜も増量し、卵を2つにした。「今回はボリュームアップがテーマ。卵2つはこだわりで、1個は鍋に入れて卵とじにしてもらうこともできる」(同)。

今やすっかり牛丼チェーンの冬の風物詩として定着した鍋商品。三者三様の戦略は功を奏するか。今冬の戦いは始まったばかりだ。