韓国ソウル「LoLパーク」内のLCKアリーナで10月1日に開催された「2018 World Championship(Worlds2018)」予備予選の様子(筆者撮影)

10月1日から11月3日まで韓国で『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』の世界大会「2018 World Championship(以下、Worlds2018)」が開催されています。

これは世界各国のリーグ戦を勝ち抜いたチームが集結し、世界一を争う大会。日本からはリーグ・オブ・レジェンド ジャパンのリーグ戦LJLの優勝チーム、DetonatioNFocusMeが出場しています。

最もプレイされているPCゲームの世界大会

『LoL』は、米国カルフォルニアに本社を置くゲーム会社が運営、開発をするオンラインゲーム。基本無料で遊ぶことができ、世界各国で遊ばれています。一説には世界で最もプレイされているPCゲームとされています。

ゲーム内容はアリーナと呼ばれるフィールド上に敵と味方の陣に分かれ、5対5のバトルを繰り広げます。世界観はファンタジーRPGの様相で、使用するキャラクター(LoLではチャンピオンと呼称)もその世界に合わせた魔法や剣を使ったものがほとんどです。

アリーナ内にいる雑魚敵を倒し、経験値やお金を稼ぎ、チャンピオンを強化して、最終的には敵本拠地を破壊することを目指します。

Worlds2018は、予備予選となるプレイインから始まり、グループステージを経て、決勝トーナメントのノックアウトステージへ進出する流れとなっています。決勝戦は11月3日に行われ、1カ月もの間、大会が続きます。イメージ的にはワールドカップのグループリーグからノックアウトトーナメントまでの流れと一緒になります。


予備予選決勝ステージへの進出を決めたDetonatioNFocusMeのメンバー(筆者撮影)

DetonatioNFocusMeは、プレイインからの出場となり、見事、突破しました。次のプレイインノックアウト(予備予選決勝)では、残念ながら中国の強豪EDWARD GAMINGに敗退しましたが、これまで日本チームはまだ1勝もできていなかったので、称賛すべき結果でした。

ステージごとに、会場も変わります。ステージが上がるごとに大規模な施設となっていきます。プレイイン、プレイインノックアウトでは、ソウルのLoLパーク、グループステージと準々決勝は釜山のBEXCO、準決勝は光州の光州女子大学校ユニバーシアード体育館、決勝戦は仁川にある仁川文鶴競技場となっています。


LCKアリーナの席数は400席。今回のWorldsでは、満席に近い状態で客が入っていました(筆者撮影)

大会が進むにつれ、競技上の規模が大きくなり、ワールドカップやオリンピックなどで使用されるスタジアムや体育館を使っており、Worlds2018の規模の大きさが見て取れます。

eスポーツのための施設がソウルのビジネス街に出現

決勝戦に至っては、ゲーム大会でありながらも、5万人を超える収容数があるスタジアムを使い、約2500〜6000円のチケットが瞬く間に売れてしまうほどです。『LoL』がワールドカップクラスのスポーツの世界大会と比べても遜色がないのがわかります。

その中でも注目したいのが、プレイインステージで使われるLoLパークです。


チョンガク駅にほど近い場所にあるLoLパークが入ったビル。このビルの3階がLoLパークとなっています(筆者撮影)

LoLパークは、ソウルのビジネス街チョンガク駅に直結するビルのワンフロアをぶち抜いて作られ、9月にオープンしたばかりのeスポーツのための施設です。パーク内には、eスポーツをするために設計されたアリーナ、日本で言うネットカフェに近いPCバン、カフェ、LoLの公式ショップなどが入ります。

アリーナは近未来を感じさせるレイアウトに、400人収容する大きさを誇り、実況ブースやコーチングブースなども用意されています。規模的には他の会場よりも小さいですが、最新の設備を使い、eスポーツを快適に観覧できる設備となっています。日本ではこの規模でのeスポーツ専用施設はまだ見当たらず、プレイする選手も観客もかなり恵まれている状況でeスポーツを楽しめており、うらやましい限りです。

このLoLパークは、『リーグ・オブ・レジェンド』の開発・運営をしているライアットゲームズの韓国を拠点とするライアットゲームズ コリアが担当をしています。今後12年使用する計画で設計されており、建設、機材リース、人件費などの総支出は100億円を超えます。つまり年に換算すると約8億円以上がかかることになります。球場使用問題で揺れた北海道日本ハムファイターズが札幌ドームに支払っている球場使用料が約9億円と言われており、それと比較すればいかに巨額の投資をeスポーツ施設に行っているかがわかります。


ライアットゲームズ コリアの広報担当マーク・ヨン氏(筆者撮影)

今回、ライアットゲームズ コリア広報担当のマーク・ヨン氏に話を伺うことができたので、LoLパークを作った目的や役割について聞いてきました。

「LoLパークは、ある意味実験的な意味合いもあり、ビジネスとは離れた存在です。パーク内にのカフェやPCバン、公式ショップなどでは売り上げを見込んではいますが、これらで収益を上げるにはあまりにも投資額が大きすぎます。LCKアリーナにしてみても、今後どのように使用していくかも未定な部分が多く、興行やレンタルなどで収益を図っていくという可能性はあるものの、確定はできません」(ヨン氏)

『LoL』のファンが集う場を作りたかった

eスポーツが進んでいると言われている韓国でも、すべての人からゲームが認められているわけではなく、ゲームに無理解な人も多くいます。ゲームファンが集まり、安心して楽しめる場所としての存在が必要だったわけです。

『LoL』やライアットゲームズの知名度を上げるための施策、ブランディングやプロモーションとしても考えられますが、ヨン氏はそれも否定しています。

「LoLパークは、ビルの外にはLoLパークの看板がひとつ掲げられているだけで、それ以外の看板などはありません。LoLパークの看板にしても『LoL』を知らない人にとっては、何かわからないわけです。会場にもライアットゲームズや『LoL』のロゴなどはほとんどありません。公式ショップでは公式グッズが売っていますが、その程度です。あくまでも『LoL』のファンが集まれる場を作りたかったんです」(ヨン氏)


LoLパークのメイン施設となるLCKアリーナ。『LoL』をはじめ、さまざまなeスポーツイベントを開催できるアリーナです(筆者撮影)

12年計画とはいえ、100億円を超えるプロジェクトなので、ビルの一角を借りることだけでなく、新たに『LoL』専用の建物を建てることも考えていたと言います。ほかにも立地条件や法律の問題、スペースなどを考慮した結果、この場所にオープンすることになったそうです。

12年での契約も異例の契約で通常は5年単位での更新になることが多く、ビルのオーナーも驚きを隠せなかったとのこと。破格の契約に至ったのは、やはりファンへの配慮で、長年続けることを公言することで、すぐに撤退してしまうのではないかという懸念を払拭し、安心感を与えるため。

採算よりもファンへの還元

また、ビジネス街であるチョンガクを選んだのも、ビジネス街の殺伐とした世界に違う空気を送り込みたかったのと、若者が集まる街が近隣にあり、そこへ遊びに行く前の拠点として使ってもらいたかったという意図があったとのことです。

「採算のことを考えてしまうと、ソウルに建設することはありえなかったと思います。建設する場所は都市部から郊外までいろいろ検討し、それこそ、建物から建ててしまうことも考えました。でも、スペースの問題や法律の問題、アクセスのよさなど総合的に加味した結果、ソウルのチョンガクを選びました。」(ヨン氏)。

これだけの施設ながら、今後の用途は未定。今はWorlds2018の稼働のみに注力しており、今後のことは順次考えると言います。

「LCKアリーナは、『LoL』の試合を考えて作られていますが、ほかのタイトルをプレイすることも考えています。貸し出しについても検討していますが、これも未定です。ゆくゆくはサードパーティにも貸し出していきたいですね。試合のない日には、アリーナの内部を見学できるツアーなどもできるとよいかもしれません。


LoLパーク内のライアットゲームズ公式ショップ「RIOT STORE」(筆者撮影)

PCバンは近日24時間年中無休でのオープンができるように動いています。カフェもWorlds2018ではライアットとケータリング会社によって運営されていますが、オペレーション先を探して、1月に本格オープンすることを考えています」(ヨン氏)

ライアットゲームズは各拠点の会社によってそれぞれの企画、運営を行っているものの、韓国のLoLパークの結果次第では、ほかの国や地域でも展開する可能性はあります。

そう、日本にもLoLパークができるかもしれません。他の地域で展開するLoLパークが、韓国のものと同じ理念で、収益を重視しておらず、ブランディングも二の次としており、ファンへの還元、ファンの聖地となることを第一に置いているのであれば、日本に展開されるかは『LoL』人口の増加、『LoL』への熱量の高さが上がることが条件と言えるでしょう。無粋な言い方をすれば100億円に見合う愛を日本のユーザーが持っているかどうかなのでしょう。

また、今回ヨン氏に話を聞いてみて感じたのは、この「ファンへの還元」のファンに当たるのは、『LoL』ないしライアットゲームズのファンのみならず、ゲームを愛するすべての人へ向けられていると言うことを感じました。言い換えれば社会貢献と言えるのかもしれません。