上司の「上から目線」はなぜ起こるのか? その背景にあるもの

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若い世代にとって、「こういうやり方をしろ」「なんでわからないんだ」といった上司や年輩者の「上から目線」の物言いはイラッとくる。
一方で、最近は若い世代や部下の「こんな仕事はできません」「私は間違っていません」といった「上から目線」の反論に困惑する上司や年輩者もいるという。

上司と部下、それぞれの立場にいる人に問いたい。こう思ったことはないだろうか?
上司の立場にいる人なら、「実際に立場は上なのだから上から目線になるのは当然だ」
部下の立場にいる人なら「あなたみたいな人になんで上から目線で言われなくちゃいけなんだ」

どちらの立場にも言い分はあり、どちらも「上から目線」になっているという点では同じだが、その根底にあるものは似て非なるところがある。

そんな「上から目線」の心理的なメカニズムを解き明かす一冊が 『「上から目線」の構造〈完全版〉』(榎本博明著、日本経済新聞出版社刊)だ。

「上から目線」にムカつく心理、「上から目線」の物言いをしてしまう心理、その背景にあるものを知れば、自ずと対処の仕方も見えてくるだろう。

■「その上から目線やめてもらえます?」と言える部下の心理

上司が部下にアドバイスをする。それに対して「上から目線で言うのはやめてもらえませんか」と返す部下。こんなやりとりが、昨今ではよく見られるという。

そんなときの部下の心理はどのようなものなのか。
拒否的な態度をとるくらいなのだから、相手の親切に感謝する思いはないと考えられる。部下の中では「相手が親切で言ってくれた」ことよりも「相手が優位に立ってモノを言ってきた」という解釈に重きが置かれているのだ。

アドバイスをしてくるという姿勢が、こちらに対する優位を誇示しているように感じられる。だから、イラッとする。バカにするなと言いたくなる。そんな思いだ。

では、その背景にある心理とは何か。ひとつは、「見下され不安」だ。
見下されるのではないかという不安が強いために、本来役立つはずのアドバイスも、こちらに対して優位を誇示する材料と受け止めてしまう。

このような不安に陥る人は、人を見下す傾向にあり、自分が人から見下されることに恐れを抱きがちだ。人より優位に立ちたいという思いが強いのに、現実にはなかなか優位に立てない自信のなさが、相手の「上から目線」を過度に意識させてしまうのではないかと著者は述べている。

自分に自信がある人は、心に余裕があるので、他者からのアドバイスに耳を傾けることができる。しかし、自信がない人ほど、今の自分を否定されることに過敏になり、感情的で攻撃的な反応を示すのだ。

■上司が偉そうで横柄な「上から目線」の物言いをする心理

ここまでは、若い世代や部下が上司からの「上から目線」にイラッとくる心理に焦点を当てたが、「上から目線」の物言いをする人の心理はどうなのか。

著者は、上から目線の物言いには「親心による上から目線」と「コンプレックスによる上から目線」の2つがあと述べる。

「親心からの上から目線」は、親切心や気づかい、必要なことだから教え諭すという思いから出るものだ。
たとえば、登山をしていたとして、下山してきた人が途中の経路に関して役立つ情報を教えてくれることがある。自分が知っていることを知らない人に教えてあげようとしているわけなので、これは経験的な意味での「上から目線」には違いない。しかし、この「上から目線」に反発する人はほとんどいないだろう。

部下からウザいとされる「上から目線」は、(前述した部下側の受け取り方の問題がクリアされたとして)その言い方に問題があるケースが多いようだ。

必要以上に威張り散らす、やたらと上司ぶったり先輩面をする、独りよがりで何でも決めつける、人の気持ちに無頓着で人の言い分も聞かずに一方的に決めつける。そんな態度が表れる言い方がネックになる。
こうした言い方をしてしまう人の心理的背景には、「劣等感コンプレックス」があり、それゆえ「コンプレックスによる上から目線」になってしまうのではないかと著者。

こちらのケースでも根底にあるのは、自信のなさだ。

自信がないから自分を実際以上に大きく見せたい。そんな心理が偉そうで横柄な「上から目線」の物言いにつながっていくのだ。しかし、それは傍からすれば、「自分を大きく見せなければ崩れ落ちそうな脆い権威にしがみついている滑稽な人」にしか見えない。

コンプレックスというものは、合理的な行動を導くのではなく、人間の心の衝動層を刺激し、その場限りの快感や発散を求める行動に導く習性があるという。自分の抱える自信のなさとどう向き合うのかが、部下からウザがられる「コンプレックスによる上から目線」の物言いを改善するポイントだろう。

(ライター/大村佑介)

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