ポルシェ ジャパンは2020年に日本で電気自動車「ミッションE」を発売する。価格は現時点で未定だ(写真:ポルシェ ジャパン)

「『ミッションE』はポルシェの新時代の到来を告げるものだ。2020年の遅くないタイミングで日本にも届ける」。スポーツカー大手、ポルシェ ジャパンの七五三木(しめぎ)敏幸社長は力強く宣言した。


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同社は5月28日、ポルシェ初の電気自動車(EV)となるミッションEを2020年に日本で発売すると発表した。4ドア4人乗りのスポーツカーで、静止状態から3.5秒未満で時速100キロメートルに達する加速感がウリで、フル充電での最大航続距離は500キロ以上を実現。価格は未定となっている。スポーツカーの名門が満を持して日本のEV市場に参入する。

日本は欧米より1年後れの発売

ミッションEは2015年の独フランクフルトモーターショーで初めて発表された。同年から過酷な耐久レースで知られるル・マンを3年連続で制した「919ハイブリッド」や、「918スパイダー」などで培った最新テクノロジーの要素技術を搭載したのが今回のミッションEだ。

2019年に欧米で先行発売した後、ポルシェの販売台数で世界トップ10に入る日本でも1年後れながら投入。技術の粋を集めたEVスポーツカーでブランド価値のさらなる向上を目指す構えだ。

七五三木社長は「EVであることを生かした非常に低重心が特徴で、(フラッグシップスポーツカーの)『911』に近い」と説明。スポーツカーの心臓部ともいえる内燃機関がない電動車ではあるが、長年培ったスポーツカーのファンの期待を裏切らないと強調し、「もし環境規制が強まっても持続可能なスポーツカーだ。新しい若いファンにもアピールしたい」(同)と語る。

ポルシェはこれまで名門スポーツカーメーカーとして、内燃機関を中心にしたハイパフォーマンスを武器に他社との差別化を図ってきた。だが、自動運転や電動化など100年に1度の変革期を迎える中、内燃機関の必要性は縮小の一途だ。世界中で新たな電動化への対応を迫られており、急速に電動シフトを進めている。

実際、これまで「カイエンSEハイブリッド」や「パナメーラSEハイブリッド」、919ハイブリッドなどで電動化に取り組んできた。現在はパナメーラの4モデルと、欧州ですでに発売が開始されているカイエンの1モデルを含めると、すでに5モデルの電動車を市場投入済みだ。これを2025年までに、全モデルラインナップのうち、50%をプラグインハイブリッド(PHV)と「ミッションE」などのEVとすることを目標に掲げている。

急速な電動シフトは顧客離れのリスクもあるが、足元では戦略が奏功している。欧州で2018年第1四半期に販売されたパナメーラのうち、PHVモデルは実に60%以上を占有。「パナメーラが属するセグメントでは大変特異な現象だ。退屈と誤解されがちなPHVモデルだが、相反する複数の要素を併せ持つというポルシェの哲学にかかれば、エコとパフォーマンスの2面性を持つ魅力的な機能として生まれ変わる」(七五三木社長)。

ポルシェの業績は絶好調

ポルシェは現在、独フォルクスワーゲン(VW)グループの一角を占める。VWグループは2018年にグループ再編を行い、「VW」や「シュコダ」などのボリュームゾーン、「アウディ」が属するプレミアムブランド、さらに最上位のスーパープレミアムブランドに分けて役割を明確化した。「ポルシェ」は「ランボルギーニ」などともに、スーパープレミアムブランドに位置づけられる。


ポルシェ ジャパンの七五三木敏幸社長(右)は「(ポルシェは)最も収益力の高いブランドだ」と強調する(記者撮影)

ポルシェの業績は絶好調で、まさにグループを支える存在だ。2017年は全世界で前期比4%増の24万6375台を販売。売上高は同5%増の235億ユーロ(約3兆円)、営業利益は同7%増の41億ユーロ(約5250億円)といずれも過去最高を更新した。ポルシェの日本事業も好調で、2017年の出荷台数は6923台に及び、2009年からの出荷台数は2倍以上に拡大している。

業績好調の大きな要因はスポーツカーというDNAを残しながらも、新たな顧客層拡大に動いたことが大きい。伝統的な2ドア2シーターのスポーツカーメーカーから脱却し、ここ最近は4人乗り4ドアセダンのパナメーラ、SUVのカイエン(2010年発売)、さらに一回り小さい「マカン」(2014年発売)など、これまで訴求できていなかった家族層に向けた車種を積極投入している。

オーナーの平均年齢は60歳と高齢化が進んでいたことが課題だったが、新型パナメーラの発売では新規顧客が半分を占め、平均年齢は10歳以上下がったという。カイエンの新型車も今後投入する方針で、人気のあるSUV市場でも存在感が高まっている。

もっとも全世界の自動車市場でポルシェの販売シェアは0.3%にすぎない。だからこそポルシェが目指す「エクスクルーシブ性」(七五三木社長)が生きてくる。

ブランドロイヤルティは非常に高く、営業利益率は17.6%と抜群。七五三木社長は「競合他社のほぼ2倍の収益率。最も収益率の高いブランドだ」と強調する。新車だけでなく、クラシックカーとしての人気も高く、製造した車の70%以上が現存するのも他社にない特徴だ。

一番の課題は「エンジン音」

今年は初めてポルシェの名を冠した「356NO.1ロードスター」が1948年にグミュント(オーストリア)で誕生してから70周年を迎える。ファンを集めた70周年イベントを国内外で多数企画しており、一段とロイヤルティを高めていく方針だ。


ポルシェブランドが誕生して70年目を迎えたことから、70周年企画の一環としてポルシェ ジャパンは朝日新聞に世界最大級の折り込み広告を出稿した。その面積は約3.55平方メートルで、ギネス記録を達成した(記者撮影)

そんな中で発表した今回のミッションE。「911や『ボクスター』といった2シーターモデルを長年生産してきた工場の隣で新たにEV専用工場を建設中だ。まさに本社の中枢に近未来の新工場ができるということだ。これはポルシェの電動化に対するコミットを示している」と七五三木社長が話す通り、ポスト70年を見据えた新たな挑戦がミッションEだ。

とはいえ、クリアすべき課題も少なくない。「いろんな疑問や心配はあるが、一番はエンジン音をどうするかだと思う。ポルシェファンにどうアピールするかだ」と七五三木社長は悩む。充電設備も大容量の専用設備が必要になる可能性もあり、今後は関係先との調整も必要になるだろう。

ポルシェを代表する911はトヨタなど競合各社がベンチマークするなど、まさにスポーツカーの頂点を極めた。電動スポーツカーの分野でもその地位を不動のものにできるか。その試金石がミッションEであることは間違いない。