女性コラムニストから高評価の『おっさんずラブ』(公式HPより)

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 おじさん同士の恋愛を描いたラブコメディドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)が好評だ。とくに女性から高い支持を集めているという。コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんがその理由について解説する。

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 ネットのSNSから雑誌の識者コラムまで、各所で「今期No.1」という声を聞く『おっさんずラブ』。よく見ると、それらの大半は女性であることに気づかされます。

 たとえば、ドラマ識者では、『週刊新潮』で吉田潮さん、『週刊ザ テレビジョン』でカトリーヌあやこさん、『日刊スポーツ』(梅ちゃんねる)で梅田恵子さん、『日刊ゲンダイ』で桧山珠美さんらテレビ番組の連載を持つ女性コラムニストがこぞって絶賛しました。

 また、先日、私が共演した『フジテレビ批評』(フジテレビ系)の「春ドラマ放談」では山中章子アナと久代萌美アナも同様の絶賛。さらに、ネットを見渡しても、女性がターゲットのサイトを中心に、当作をほめたたえる記事が目立ちます。

 そもそも『おっさんずラブ』は、昨年秋にスタートしたばかりの深夜枠『土曜ナイトドラマ』(毎週土曜23時15分〜)の作品であり、一般的には「『SmaSTATION!!』のあとってドラマ枠だったの?」というレベルの認知度に過ぎません。前2作がほとんど話題になることなく終了したことを踏まえても、「いかに当作の反響が大きいか」がわかります。

 盛り上がりを見せる一方で、「なぜ女性にウケている?」「なぜLGBT関連の苦情はほぼ聞かない?」などは、まだあまり分析されていません。

◆気持ちの面では男女恋愛と変わらない

 ここまで女性にウケているということは、複数の魅力があるということ。「男同士のラブストーリー」と聞けば誰しもBL(ボーイズラブ)を思い浮かべるでしょうし、実際、田中圭さん、吉田鋼太郎さん、林遣都さん、眞島秀和さんと、タイプや年齢の異なるイケメンをそろえ、「シャワー中のキス」「バッグハグ」などの腐女子ウケしそうなシーンも見られます。しかし、それは当作の一部分に過ぎません。 

 むしろ多くの女性を引きつけているのは、純度の高いラブストーリー。黒澤武蔵(吉田鋼太郎)が春田創一(田中圭)に夜の公園で絶叫告白するシーンは、『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系)の「僕は死にましぇん」を思い起こさせましたし、手作り弁当持参の屋上ランチは、往年の学園ドラマを見るようでした。

 つまり、「見た目が男と男の恋愛」というだけで、「気持ちの面では男と女の恋愛」と何ら変わりないのです。奇をてらうようなシーンを作らず、「純度の高いラブストーリーを作ろう」という制作スタンスが女性視聴者に伝わっているからこそ支持されているのはないでしょうか。

 これは裏を返せば、「男と女で純度の高いラブストーリーを描こうとすると『しらじらしい』と思われがち」ということ。たとえば1990年代序盤は、『キモチいい恋したい!』(フジテレビ系)、『クリスマス・イブ』『あしたがあるから』(TBS系)などの社内恋愛を描く作品が多かったのですが、現在は「何を今さら」「ありえない」と思われてしまうため、ほとんど制作されなくなりました。

 もともと社内恋愛は、「毎日顔を合わせる」という密度の濃さがドラマ性に直結しやすいテーマだけに、当作はそのメリットを最大限に生かしているのです。引いては、「80年代後半から90年代前半の月9」に通じるピュアなラブストーリーとも言えるでしょう。

◆主人公や周囲の反応にLGBTへの配慮

 次に、「なぜLGBTの苦情はほぼ聞かないのか」という疑問について。昨秋、『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)の名物キャラ・保毛尾田保毛男が批判を集めただけに、「男性同士の恋愛を切り取る」というコンセプトにあやうさを感じた人もいるでしょう。

 しかし当作には、LGBTの恋愛を揶揄するようなシーンはありません。その証拠に、思いを寄せられる春田は、武蔵や牧凌太(林遣都)を気持ち悪がる様子を見せず、彼らの恋心を拒絶するような言動もなし。武蔵の妻・蝶子(大塚寧々)も、春田の幼なじみ・荒井ちず(内田理央)も、最初こそ驚いたものの、徐々に自然な反応へと変わっていきました。

 同性に恋することを不自然に誇張せず、「特別ではなく普通にあり得ること」として扱うなどの配慮を随所に感じるのです。第4話でも、春田が武蔵に全力で向き合い、「ごめんなさい。こんな僕を好きになってくれてありがとうございました」と交際を断るシーンがありました。フラれた直後、武蔵はダンディな上司の姿に戻りましたが、帰宅後の食事中、こらえきれずに涙がこぼれてしまう姿は、ラブストーリーらしい切なさであふれていたのです。

 さらに奥深く考えるのなら、当作は性別や年齢などの概念を超えた、人と人の間に育まれる愛情を描こうとしているのかもしれません。片想いの楽しさと切なさ、ささいなことによる喜びと悲しみ、思いがあふれてバカになってしまう純粋さ……。人間の普遍的な恋心を描こうとしているのであれば、女性だけでなくLGBTや男性も感動させられるのではないでしょうか。

◆現代社会は「男のほうが繊細な乙女」

 もう1つ私が面白いと思っているのは、「男性のほうが繊細な乙女、女性のほうが豪胆な武士」という男女キャラの描き分け。男性は悩み葛藤し、女性はサラッとしていてすぐに行動する。これが会社にしろ、家庭にしろ、リアルな現代社会の構図に見えるのです。いわゆる「女性らしさが増す男性と、男性らしさが増す女性」。こんな時代背景があるから、武蔵や牧の振る舞いに違和感を覚えにくいのかもしれません。

 当作の世界観が成立するのは、田中圭さん、吉田鋼太郎さん、林遣都さん、眞島秀和さんらの演技が素晴らしいから。一歩間違えたら「苦情殺到」「コントにしか見えない」というハイリスクなコンセプトの作品に、ハイリターンをもたらしています。

 最後に余談ですが、インスタグラムのアカウント「武蔵の部屋」は、放送するたびにフォロワーを増やし、現在は約35万人。写真の大半は武蔵が春田を隠し撮りしたものですが、ここにも片想いの楽しさや切なさがあふれています。女性はもちろん男性も一度チェックしてみてはいかがでしょうか。

【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。