入社1カ月で「妊娠しています」はマナー違反?

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 入社1カ月で「実は妊娠しています」というのは、社会人としてのマナー違反ではないのか――。こんなテーマをめぐってSNS上で議論が交わされています。きっかけは今年3月、自民党の国会議員が、自身が運営する保育園の女性看護師について「雇って1カ月後に実は妊娠して産休に入ると(言ってきた)。人手不足で募集したのに、それは違うだろと言った瞬間に労基に駆け込んだ」と発言したこと。

 これについて「マタハラ」「こういう人がいる限り少子化問題は解決しない」「授かる時期は選べない」などと非難する声と、「採用時に妊娠を隠すのは社会人として非常識」「さすがに入社1カ月はマナー違反」「転職する予定があるなら、しばらく避妊すべき」と擁護する声がせめぎ合っています。

 マナーの専門家の見解とはどのようなものでしょうか。徳島を拠点に、企業や行政機関、大学でのビジネスマナー研修や、保育園でのマナー指導を行い、5月19日に「10歳までに身につけたい一生困らない子どものマナー」(青春出版社、西出ひろ子さんと共著)を出版するマナーコンサルタントの川道映里さんに聞きました。

妊娠がわかった時点で正直に報告する

Q.採用面接で妊娠を隠していた場合、マナー的にはどんなことが言えますか。

川道さん「採用面接時に妊娠を隠す行為には、『妊娠を隠してでも入りたい企業だった』『不利になる』『経済的な事情』など、さまざまな理由が考えられます。一方、採用側の立場に立つと、『人手不足』を理由に採用を行っている企業も多いことと思います。

しかし、雇用直後に妊娠している旨を告げられた場合、出産〜育児休暇中の取得認定や、休暇中の給与支払い、人材採用などが必要となる可能性もあります。女性にとって妊娠はデリケートな話題であり、それぞれの事情を抱えていると思いますが、会社側への配慮として、事前に本当のことを素直に伝えておくと対応は変わってくるでしょう。

お互いが『相手の立場に立つ』というマナーを意識し、例えば『現在、妊娠中ですがどうしても貴社で働きたいです。どうぞよろしくお願いいたします』とひと言伝えることで、トラブルを未然に防ぐことにつながると思います」

Q.妊娠している、あるいは可能性のある女性の採用に関して、応募側と採用側それぞれの適切な行動とはどのようなものでしょうか。

川道さん「採用時点では本人が伝えない限り、会社側が『妊娠の有無』を判断することはできません。とはいえ、妊娠の有無を確認されるのを不快に感じる女性は多いはずです。妊娠している場合は、なるべく女性から、現在妊娠していることと、それでも入社を希望している旨を正直に伝えるべきでしょう」

Q.採用時には妊娠していなかったものの、入社直後に妊娠した(妊娠が発覚した)場合はいかがでしょうか。

川道さん「雇用主と女性のそれぞれがさまざまな事情を抱え、考えがあることでしょう。しかし、まずは、この世に新しい生命が誕生することを喜んであげてほしいと思います。妊娠中の女性は、体調だけではなく精神的にも不安定になることが多いです。また、採用段階で妊娠がわかっていなかったことについて、雇用主と女性のどちらが悪いということにはならないと思います。

ただし、妊娠がわかった時点で正直に報告し、『ご迷惑をおかけし申し訳ございません』と伝えることをお勧めします。そうすることで、雇用主は女性の体調も含め仕事の進め方などを一緒に検討し、お互いがプラスになるよう解決策を講じてくれることでしょう」

「妊娠したから仕方ない」はダメ

Q.妊娠発覚(報告)時における、雇用主と労働者それぞれの適切な行動・対応とはどのようなものだとお考えですか。

川道さん「妊娠の報告を受けた場合、周囲はまず『おめでとう』などと相手に寄り添ったひと言をかけましょう。子どもは授かりものであり、そのタイミングをピンポイントで決めることは困難とはいえ、妊娠したことで『職場に迷惑をかけてしまう』と不安な気持ちを抱く女性もいるはずです。

ここで大切なのは、女性自身が『妊娠したのだから仕方ない』といった態度をし、相手に不快な気持ちを与えないようことです。先述通り、従業員の妊娠によって、産休や育休、追加採用など、会社側には特別な対応が求められます。また、復帰後、本人の体調や状況によっては配属先が変わるケースもあるでしょう。復帰を希望する旨を明確に伝えたり、部署異動などについて意思表示をしたりして、事前に話をすることでお互いに心の準備がしやすくなり、休暇中や復帰後のトラブルを未然に防げます」

Q.妊娠に関する職場のトラブルを防ぐために、雇用主と労働者の双方が意識すべきマナーとは何でしょうか。

川道さん「会社は、雇用している従業員の人生を抱えています。入社前に妊娠がわかっていたのであれば、会社から給与をもらう社会人としての立場を自覚した上で、素直に事情を伝える気持ちを持つことが大切だと考えます。一方、会社側も日頃から、従業員が心を開いて気軽に相談や話し合いができる環境作りをする必要があるでしょう。

マナーは相手の立場に立つ思いやりです。『自分が雇用者の立場だったら、自分が女性の立場だったら』と想像を膨らませましょう。お互いが納得し合い、繰り返しになりますが、相手の気持ちを考えた行動を意識することで、プラスの解決策を導けるでしょう」