海外向けの開発を優先したことから国内専売車が取り残された

 昔の日本車は、4年ごとにフルモデルチェンジを行い、その2年後にはマイナーチェンジも実施した。つまり2年に一度は変更が行われ、新鮮味を保っていた。

 このモデルチェンジの周期には「新しく見せるためにムダなデザイン変更をしている」という批判もあったが、機能も必然的に進歩した。またモデルチェンジの周期が決まっていれば、ユーザーは購入計画を立てやすい。購入直後に改良を受けて、ガッカリする心配もなかった。

 ところが今は違う。発売から7年以上を経過した車種が増えた。2018年の初頭に販売を終えたマツダの3代目プレマシーは2010年に発売されたが、2013年12月に特別仕様車を加えてからは変更を受けていない。同じマツダ車でも、現行CX-5は2017年2月に発売され、同じ年の8月には安全装備を充実させ、2018年3月にはガソリンとディーゼルエンジンの両方を刷新する改良を行った。CX-5は半年置きに改良を受けたのに、プレマシーは4年以上にわたって放置され、静かに販売を終えた。

 プレマシーのユーザーにとって、自分の愛車がメーカーから見放されるのは辛いだろう。頻繁に改良を行い、愛車がどんどん古くなるのも困るが、長期間の放置はそれ以上だ。改良版の新型に買い替えることもできず、ユーザーは行き場を失う。当然に顧客満足度も下がる。

 放置されるクルマが増えた理由の筆頭は、メーカーが国内市場を大切にしなくなったことだ。今の日本車メーカーは世界生産台数の80〜90%を海外で売り、相対的に国内市場の重要性が低下した。その結果、海外で売る商品の開発が優先され、日本向けは後まわしにされてしまう。

 メーカーの商品企画担当者には「国内市場は特殊だ」という人が多い。海外では売られない軽自動車の販売比率が35%前後に達して、5ナンバーサイズのコンパクトカー(約20%)、同じく大半が5ナンバー車となる日本向けのミニバン(15%)を加えると約70%に達する。「日本と海外の両方で売れるクルマはコンパクトカーと一部のSUVだけだから、国内向けの商品開発は難しい」と嘆く。

 しかし発売から7年を超えたクルマが数多く散見され、160車種も売られる日本車の内、約100車種は1カ月の売れ行きが1000台に満たない不人気車(あるいはその予備軍)というのも解決すべき問題だろう。国内向けの車種は設計が古く、新しい小型/普通車は、海外向けを漠然と国内に投入しているだけだ。

 その結果、取り扱い車種は膨大なのに、マトモに売れるのは少数という二極分化を招いた。もはや国内に販売戦略はなく、国内販売台数は最盛期だった1990年の70%以下まで落ち込んだ。そこで放置されているクルマを4車種ほど挙げてみたい。

きちんと向き合い開発すれば魅力たっぷりのモデルばかり

■トヨタ エスティマ(2006年1月発売)

 本来ならば現行ヴェルファイア&アルファードと共通のプラットフォームを使ってフルモデルチェンジすべきだが、マイナーチェンジで済まされた。緊急自動ブレーキを装着したが、コンパクトカーに多く使われるトヨタセーフティセンスCだから、歩行者を検知できない。基本設計が古いので、上級版の歩行者も検知可能なトヨタセーフティセンスPは装着できなかった。

 マイナーチェンジにとどめた理由は、ミニバン市場とエスティマの販売動向が不透明であるからだ。売れ行きが下がったとはいえ、1カ月に900台程度は売れるから、廃止するのも惜しまれる。その結果、中途半端なマイナーチェンジを行った。国内市場の可能性に賭けてフルモデルチェンジを行い、力を入れて売れば、トヨタが後悔することはないと思う。エスティマはそれだけ優れた商品で、ディーラーのトヨタ店とカローラ店の販売力も強靭であるからだ。

■トヨタ プレミオ&アリオン(2007年6月発売)

 今の国産セダンは大半が海外向けに開発され、国内の売れ行きを下げた。1990年代の中盤にミニバンが普及してセダンが販売台数を低下させたとき、本腰を入れて回復に乗り出せば良かったが、これを怠ったから取り返しの付かない不人気カテゴリーになった。

 そのために今では運転しやすい5ナンバーサイズのセダンは、トヨタカローラアクシオ、トヨタプレミオ&アリオン、ホンダグレイスに限られる。このなかでプレミオ&アリオンは、5ナンバーセダンながらホイールベース(前輪と後輪の間隔)を2700mmに設定して車内が広く、内装も上質だ。

 フルモデルチェンジすべきだが、国内市場の重要性が下がったためにマイナーチェンジで済まされ、前述のトヨタセーフティセンスCを装着したにとどまる。今では走行安定性、乗り心地、シートの座り心地などに古さが感じられ、「車内の広い5ナンバーセダン」という特徴は大いに魅力的だが、積極的には推奨できない。法人ユーザー、レンタカーなども含めて需要は多いから、5ナンバーサイズを守ってフルモデルチェンジをすべきだ。

■日産キューブ(2008年11月発売)

 全長が3890mmに収まるコンパクトカーだが、全高は1650mmと高く設定され、広い室内を備える。内装は和風をテーマにデザインされ、シートは前後席ともにソファ風だ。リラックスできる柔和な内装を特徴とする。ガラスルーフには、SHOJI(障子)シェードとロールブラインドも備わり、車内は柔らかい光で満たされる。

 今の日本車は、エコロジーを唱えながら、デザインは軽自動車のカスタムまで含めて目を吊り上げた迫力重視が多い。周囲のクルマを蹴散らして走る世界観が横行している。このなかにあってキューブは、内外装を穏やかに仕上げ「心地好いからゆっくりと時間をかけて走りたい」と思わせる。今の日本に求められているのは、キューブのような世界観の新型車だろう。緊急自動ブレーキも装着されず売れ行きは低迷するが、改良を施せば販売は必ず上向く。今の放置状態はじつに惜しい。

ダイハツ ミラココア(2009年8月)

 外観のイメージが似通ったアルトラパンは、初代モデルを2002年に発売して、2008年には2代目にフルモデルチェンジされている。そのために2009年8月にミラココアが発売された時は、アルトラパンの後追い的な印象を拭えなかった。売れ行きも低迷した。

 それでも穏やかな内外装と、立体駐車場を使える全高の組み合わせは魅力。同様のコンセプトで、デザインの路線は一新し(とても難しい注文だが)、アルトラパンに負けない個性的な後継車種を投入してほしい。