貴重な「女子サッカー通記者」が解説、今季のなでしこリーグ『ここがスゴい!』

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3月21日に開幕を迎える日本国内最高峰の女子サッカーリーグ=『プレナスなでしこリーグ』。3月12日には、各クラブの監督とキャプテンが出席し、開幕記者会見が開かれた。

この日大々的に発表されたのが、オランダの首都アムステルダムの企業『mycujoo(マイクージュー)』とのパートナーシップ締結。『mycujoo』とは、世界中の様々なカテゴリーのサッカーが閲覧できる無料動画サイトである。

今回の提携により、なでしこリーグ1部の年間70試合(各節1試合は実況・解説付)がリーグの公式HPで無料配信されることが決定したのだ。

思い起こせば1年前の開幕記者会見。なでしこリーグの放映権はどこにも売れておらず、年間通してまとまった試合の放送が皆無になったことが発表されていた。開幕どころか、“閉幕”会見のような様相だったのだ。

ただ、それでもINAC神戸レオネッサがクラブ独自の配信番組『INAC TV』として、ホーム戦の全試合LIVE配信や、アウェイ戦の多くの試合もLIVEと録画を織り交ぜながら独自に試合映像を配信していた。他にも地方のテレビ放送局が単発ながら地元クラブの試合を中継したり、ラジオ局による放送で賄った地域やクラブもあった。

今回の『mycujoo』社とのパートナーシップ締結により、各クラブがよりピッチ内へフォーカスした運営ができるようになれば幸いだ。

クラブ史上最多タイとなるベレーザの4連覇か? 世代交代に成功したタレント軍団=INACの奪還か?

そんな明るい話題で開幕を迎えることとなった今季のなでしこリーグ。

現在は日テレ・ベレーザがリーグを3連覇中で、昨季は皇后杯との2冠も達成。タイトル独占状況が続いており、なでしこジャパン(日本代表)にも毎回7人ほどが招集され続けている。

今季のベレーザはリーグ3連覇を導いた森栄次監督が退任し、永田雅人新監督が就任。男子の東京ヴェルディ1969やジェフユナイテッド市原・千葉の下部組織で監督やコーチを務めた指導者が、絶対女王を新たな次元へ導く。

ただ、監督交代こそあったものの、主力選手の顔ぶれは変わらず。直近にポルトガルで行われたアルガルベカップの代表メンバーにもGK山下杏也加、DF清水梨沙・有吉佐織、MF阪口夢穂・長谷川唯・隅田凛、FW田中美南と大量7人を送り出している。

また、昨年はU19日本代表でアジアを制したFW植木理子を始め、年代別の代表で台頭している若手も多い。それを元日本代表DF岩清水梓が最後尾から支える全員守備・全員攻撃は健在だ。

そんな「死角なし」の絶対女王に対する、「刺客」はどうか?

1番手の刺客=INAC神戸は、元日本代表FW大野忍(現・ノジマステラ神奈川相模原)が退団。2011年からのリーグ3連覇、2013年の『国際女子サッカークラブ選手権』も加えた国内外4冠の完全制覇、さらになでしこジャパンでドイツW杯優勝に大きく貢献した“黄金メンバー”がまた1人抜けた。

ただ、その裏には昨季高卒1年目でリーグ新人賞を受賞した19歳のMF福田ゆい、その前年度に同賞を獲得したMF杉田妃和(福田の藤枝順心高等学校時代の2学年先輩にあたる)らの台頭がある。

特に杉田妃和は、2014年のU17W杯と2016年のU20W杯の両大会でMVPに選出された“世代最高選手”。ただ、昨季は後輩の福田にボランチのポジションを奪われ、2列目の両サイドやベンチスタートを命じられる試合もあった。

ヘッドコーチから昇格した鈴木俊新監督の下で、奮起する“先輩”と日進月歩に成長する“後輩”による中盤でのゲームメイクに注目が集まる。

また、代表に定着してきた22歳のDF三宅史織、昨季は主にセンターバックを務めた21歳のDF守屋都弥、昨季日体大FIELDS横浜の2部優勝に大きく貢献した新加入のDF羽座妃粋(彼女も22歳だ)もいる。FW高瀬愛実が急造で担っていた右サイドバックにも、高卒新人ながらU19日本代表の主力となっている牛島理子が加入。守備陣にも実力派の若手が揃っているのだ。

GKにも昨季の1番手である武仲麗依と日本代表経験豊富なベテランの福元美穂、U19日本代表で“美人過ぎる”と話題になったスタンボー華による、3人の熾烈で“高過ぎる”ポジション争いがあるように、現在のチームには世代交代を経たうえでの競争がある。

そして、昨季夏に加入し、終盤戦に実戦復帰した日本代表FW岩渕真奈。25歳となった彼女が年間通して怪我なくシーズンを過ごし、コンスタントにプレーできた時、INAC神戸の2013年以来のリーグ奪還は現実味を増すだろう。

“熟成”の浦和、「走るサッカー」の千葉

昨季は日本代表FW菅澤優衣香を獲得し、リーグ3位・リーグカップで準優勝した浦和レッドダイヤモンズレディース。カップ戦決勝を筆頭に勝負どころで勝ち切れない印象は残ったが、2014年のリーグ総合優勝以降は6位→6位→8位と低迷し、一昨季に最後まで残留争いを余儀なくされたような状況からは完全に脱したといえる。

新加入のMF佐々木繭は高倉麻子現体制下の代表でも常連となっていた実力者。「産みの苦しみ」を乗り越えて固定され始めた現在の主力メンバーには、新旧の日本代表が揃っている。

GK池田咲紀子から始まるビルドアップを、INACで2013年の国内外4冠を果たした石原孝尚監督が構築する就任2年目のシーズン。熟成されてきた浦和レッズLは、タイトルを本気で狩りに行く!

そして、その浦和レッズLをリーグカップ決勝で破り、クラブ史上初タイトルを獲得したのが、ジェフユナイテッド市原・千葉レディース。

男子のトップチーム同様に「とにかく走るサッカー」で独自のカラーを見せるチームは、初タイトルを置き土産に退任した三上尚子監督に代わり、U18から藤井奈々監督が“昇格”。鴨川実歩や成宮唯のような若いテクニシャンが「走りながら魅せるサッカー」は痛快だ!

さらに、昨季から大手就職・転職サイトを運営する株式会社マイナビとのパートナー契約を結ぶマイナビ・ベガルタ仙台レディースも注目だ。

昨季はマイナビ社との提携により用意された1億円とも噂される強化費をもとに、大物外国籍選手のアタッカーを複数獲得。守備陣にはもともと経験者が揃っていたことから期待は高かったが、あまり結果には結びつかなかった。

今季は昨季チームが2部へ降格の憂き目に遭いながらも代表に定着したFW櫨まどかが、伊賀フットボールクラブくノ一から新加入。独特のリズムを持つ“孤高のファンタジスタ”ハジに、度重なる大怪我を乗り越えて代表にも定着し始めた”左利きの攻撃的左サイドバック”万屋美穂といった、新生なでしこの新たな武器となりそうな選手が在籍する。

選手の環境面の劇的な改善が起きているチームだけに、大化けがありそうなチームか!?

初昇格の“若手精鋭集団”C大阪堺に注目!

昨季クラブ創設6年目で初の1部を戦ったノジマステラ神奈川相模原は、リーグでは残留争いを余儀なくされるも、年末の皇后杯では決勝進出を果たす。

昨季限りで創設時のメンバーが多く抜けることになったが、新たに元日本代表FW大野(INAC神戸から獲得)らビッグネームも加入。創設7年目となる今季は、毎年チーム力を積み上げてきたノジマにとって新たなステージとなりそうだ。

なでしこジャパンの新エースとなったFW横山久美(現1.FFCフランクフルト/ドイツ)が昨季途中に武者修行へと旅経った長野パルセイロレディースは、彼女の移籍後に急失速。2016年シーズンにクラブ史上初の1部昇格ながら3位へと大躍進した姿は見えなかった。

しかし、岡山湯郷Belleでも8年間の長期政権を築いて魅力的なチームを作ってきた本田美登里監督は、長野でも6年目を迎えており経験は豊かだ。

昨季は試行錯誤の連続だったが、横山在籍時に武器としていた「縦への推進力」は、すでに他チームに研究され尽くされていた。今季は、走力に展開力を兼ね備えるMF國澤志乃、昨季途中に加入した技巧派アタッカーの中野真奈美らが、効果的に“横”を使いながら安定感をも見せるチームに仕上がりそうだ。

そして注目を集めるのが、今季初めて1部を戦うセレッソ大阪堺レディース。

最年長が20歳というアカデミーチームの形態をとっているため他チームからの選手加入はないが、昨季の2部で18試合22得点をあげたU19日本代表FW宝田沙織を筆頭に、下部年代の代表で主力を担う選手が勢揃いしている。

キャプテンを務めるMF林穂之香は昨年のU19日本代表で、昨季のなでしこ1部新人賞のMF福田ゆいからポジションを奪ったボランチ。そのボール奪取能力は、もはや「攻撃力」と形容しても良いほどで、自ら奪ったボールから決定機を作り、得意のミドルシュートで多くの得点にも絡む大黒柱だ。

また、男子チーム同様に「セレッソのエースナンバー」“8”を背負うMF松原志歩は、得意とする左サイドからのドリブル突破やワンツーを駆使しながら攻撃を牽引。両足から繰り出す強烈なミドルシュートやセットプレーで、2部リーグでは宝田以上に「無双」していた。超若手偏重チームが1部の舞台でどれだけやれるのか?ニュートラルな目線でも楽しいチームになるだろう。

昨季2部優勝で自動昇格を勝ち取った日体大FIELDS横浜は、“昇格請負人”のMF伊藤香菜子とFW荒川恵理子が共に2部へ降格したちふれASエルフェン埼玉へ移籍。さらに、守備の要であったDF羽座妃粋も大学卒業を機にINAC神戸へ。

また、指導者ライセンスの関係で矢野晴之介監督が退任し、小嶺栄二新監督を迎えている。Lリーグ時代以来の19年ぶりのトップリーグは非常に厳しいシーズンとなる可能性が高い。

そして、昨年は序盤戦に低迷して降格圏内を彷徨ったが、後半戦になって連勝街道を歩んだアルビレックス新潟レディース。5位でシーズンを終えた彼女たちも、新たに山崎真監督を迎えている。

元日本代表MF上尾野辺めぐみ&FW大石沙弥香の黄金コンビはまだまだ健在だが、共に30歳を越えている。大怪我を乗り越えたMF八坂芽依や、ドイツでのプレー経験も持つ新加入MF入江未希など、若手が軸となるチームに脱皮できるか?という点が問われそうだ。

今季のなでしこリーグ1部は全10チームの半数に当たる5チームが新監督を迎えている。4月には来年フランスで開催される女子W杯の出場権も懸かるアジアカップがある。代表強化のためにも、選手が日々プレーする国内リーグの充実は欠かせない。

代表選手や魅力的な特徴を持ったチームも…「2部」にも注目だ!

また、1部だけでなく、なでしこリーグは2部にも注目ポイントがある。

高倉麻子監督のなでしこジャパン監督就任以来、ノジマ(当時2部)のDF高木ひかりや、ASハリマ・アルビオンのFW千葉園子、愛媛FCレディースのFW大矢歩とFW上野真実といった2部所属の選手がフル代表に招集され、定着している選手もいる。昨年3月には3部相当のチャレンジリーグに在籍していたバニーズ京都SCのDF石井咲希も選出されていた。

彼女達を“個”として見ていると、やはり代表選手に相応しいフィジカルやスピード、テクニックを随所で発揮している。“個”を見る楽しみとしての2部は新たな観戦ポイントだろう。

また、2016年シーズンに1部初昇格ながら3位へと大躍進した長野パルセイロL、2017年には同じく初の1部で残留を達成した上で、皇后杯で準優勝に輝いたノジマを始め、チームとしても魅力的な特徴を持ったクラブが2部にも多く現れてきた。

昨季創設4年目ながら初の2部を戦ったオルカ鴨川FCは、リーグ最少失点の堅守をもって4位へと躍進し、今季を迎えるにあたって強力な外国籍アタッカーを2人獲得。シーズン前の練習試合や交流戦では1部のチーム相手にも勝利を収めるなど、昇格候補筆頭に名乗りを上げている。

攻撃時と守備時で変化する可変システムを採用しながら独特のポゼッションサッカーを披露する愛媛FCレディースは、代表選手を2人も輩出している。

そして、チャレンジリーグから入替戦を経て昇格を果たしたバニーズ京都(上記写真)。2014年11月から指揮を執る千本哲也監督の下、選手個々の特徴を巧みに組み合わせたパスサッカーは、全国リーグで披露されることでさらなる人気を呼びそうだ。

岡山湯郷Belleの黄金期を築いた元日本代表DF加戸由佳(背番号16)や、1月と2月の代表候補合宿にも選出され、昨季の2部新人賞を獲得したFW谷口木乃実(背番号9)など、新加入選手の実績も2部昇格チームとは思えない。このチームのサッカーに魅了されている選手も多いことだろう。

(※一部画像はなでしこリーグの許諾を得て使用しています)

次回は、女子サッカーを知り尽くした記者が聞く「ASハリマ・アルビオンFW千葉園子選手インタビュー」!

そんな中、昨季の主力を含む多くの選手が退団したASハリマ・アルビオン。昨季は怪我で苦しいシーズンとなった日本代表FW千葉園子選手(上記写真)のインタビューを基に、次回は、新たなシーズンに挑むASハリマ・アルビオンの取材記事を公開。お楽しみに!

筆者名:hirobrown

創設当初からのJリ-グファンで、各種媒体に寄稿するサッカーライター。好きなクラブはアーセナル。宇佐美貴史やエジル、杉田亜未など絶滅危惧種となったファンタジスタを愛する。中学・高校時代にサッカー部に所属。中学時はトレセンに選出される。その後は競技者としては離れていたが、サッカー観戦は欠かさない 。趣味の音楽は演奏も好きだが、CD500枚ほど所持するコレクターでもある。

Twitter: @hirobrownmiki