宗次徳二・カレーハウスCoCo壱番屋創業者

写真拡大

すぐに動ける人、最後までやりきる人は何を考えて行動に移しているのだろうか。トヨタ自動車の現場で「やりきる力」を学んだ原マサヒコ氏は、その行動様式を『Action! トヨタの現場の「やりきる力」』(プレジデント社)にまとめた。プレジデントオンラインでは原マサヒコ氏と「Action!」を続ける名経営者の特別対談をシリーズでお届けする。第2回はカレーハウスCoCo壱番屋(以下、ココイチ)の創業者である宗次徳二氏だ――。

■判断に迷ったら、お客様を第一に考える

【原】トヨタの現場で自動車整備をしていましたが、毎日続けていると「ただの作業」に感じてしまうメカニックもいました。そんな時に先輩からよく「車を数字でカウントするな。1台1台がお客様の大切な車なんだ」と教えられていました。

【宗次】なるほど、自動車業界で問題になっている無資格検査や、新幹線の車両に亀裂が出てしまった問題などは、同じような感覚で少しずつ手を抜いていってしまったことが原因ではないかと思いますね。

【原】「目の前の仕事をこなす」というのが目的になってしまっているわけですよね。

【宗次】そう、こういうのは経営トップは分かっていても、なかなか現場に伝わりにくいものです。

【原】どうしたら常に仕事の意義を理解していられると考えますか?

【宗次】やはり常にお客様の声は聴かなければなりません。そのためには社長が誰よりも「超お客様主義」でなければならないでしょう。私自身、「お客様の声を聞きたい」と思ってアンケートハガキを全店舗に導入したのが1987年のことでした。

【原】今では当たり前になっていますが、そんなに早くからお客様の声を。

【宗次】判断に迷ったら、お客様を第一に考えます。ビジネスは自分の都合ではありません。たとえ経費がかかったとしても、お客様がそれで「助かる」とか「嬉しい」と言ってくださるのであれば、一つでも多く叶えてあげるべきなのです。

【原】なるほど。トヨタの現場には「今やっている方法が一番良いと思うな」という言葉もよく飛び交いますが、これはまさにお客様の声を聴きながらどんどん仕事をアップデートしていく、ということなんですよね。

【宗次】それは大事ですね。私もココイチの現場で接客をしている時は、下げられた器をみるだけでお客様の気持ちが分かりました。それはすべて現場にいるからこそ分かること。

【原】トヨタでも「現地に行って、現物を見て、現実を知る」という“三現主義”が唱えられていました。

【宗次】私も「超現場主義」と言っていましたね。“超”というのは「徹底しろ」ということで、今は並のアクションで勝ち残れる時代ではないですから。

【原】ただ、ITも発達してきて現場に行かずともさまざまな分析をすることもできるようになったかと思います。競合のリサーチをしたりとか。

【宗次】いやいや、現場を見ていないからライバルにばかり目がいってしまうのです。ココイチは他社のリサーチもしたことないし、値下げを考えたこともありませんでした。経営の方向性はすべて現場が教えてくれるんです。

【原】飲食業だと専門のコンサルタントなども多いと思いますが、何か教わったりしませんでしたか?

【宗次】確かに多いですが、コンサルタントの先生も一人も知りません。

【原】気心の知れた友達に相談する、というのも無いですか?

【宗次】友達はゼロです。いりませんよ。友達というのは自分の欲求を満たすために一緒にいるものだと思っています。友達に時間を使うくらいなら仕事に打ち込みたいのです。仕事をしているとお客様や社員から期待されますから、その期待に応えたい。遊んでいるヒマはありません。

【原】さすが、徹底されているんですね。

【宗次】「そんな人生じゃ寂しいでしょう」と言われることもありますが、そんなことはありません。周囲の期待に応えて感謝され、増収増益になり、事業承継もうまくいった。こんなに楽しいことはありませんよ。

【原】会社経営をしていると「ゴルフができるようになるといい」とか言われたりもして私も困っているんですが、宗次さんはどうですか?

【宗次】確かに、私もゴルフをやってみたこともありますが、「こんなことやっていていいのかな」と思ってしまいました(笑)。あれは創業経営者がやるものではないですね。「人脈が広がる」とか言いますが、人脈を広げたところで誰か喜んでくれる人はいるのか、と考えてしまいました。

【原】そこでも「誰を喜ばせたいのか」ということを考えていたわけですね。

■商売は「苦労の総合商社」

【原】トヨタの現場の行動思考として顕著なのが「言い訳をする」ということが嫌がられる点です。言い訳を考えている時間が無駄だ、と。そんなことに時間を使うなら、どうしたら上手くいくかを考えろと言われるのです。

【宗次】言い訳は確かによくありませんね。私もよく「不況のせいにするな」と言っていました。

【原】IRなどでも「長引く景気低迷のため業績が悪化し」という表現はよく出てきますものね。

【宗次】まあ業種や業態によって違いはあると思います。売上1000億や2000億の大企業であれば景気の影響も少なからずあるでしょう。ただ、下請けや孫請けだからといって親会社のせいにしてはいけません。何かアイデアは出せるはずです。

【原】景気は本来関係ない、ということですよね。

【宗次】そう、目の前で自分たちが何をするか、ということです。ココイチも創業当初は1つの店舗で1日20人〜30人の来客からはじめて徐々に増やしていきました。お客さんが増え、店舗が増え、その積み上げです。目標もだんだん上がっていき、振り返ってみたら右肩上がりになっていた。

【原】上手くいかなくても言い訳をせずにコツコツとできることをやっていた、と。

【宗次】そう、行き当たりばったりではありましたが、その時々は一生懸命、まさに命がけでやってきたのです。そうとしか答えようがないのです。

【原】命がけでやってきたということですが、困難にぶつかった時の考え方をお聞かせください。トヨタの現場で働いていると、「困難にぶつかるのはラッキーだ」と考えるようになりました。何か困難にぶつかると「解決するチャンスを得た」と考える人ばかりなのです。

【宗次】同じですね。ココイチの経営では「商売というのは苦労の総合商社だ」と感じていました。

【原】苦労の総合商社、ですか。本当にいろいろな苦労をされた感じが伝わってきますね。

【宗次】経営自体は先ほど言ったように順風満帆でしたが、日常は問題だらけで苦労したものでした。でも問題と言うのは解決するものですからね。

【原】確かにそうですよね。

【宗次】どんな問題が起きても、「この程度で良かった」「もっと大変な人は一杯いるはずだ」と考えていました。それも、経営が右肩上がりだから言える、ということはあります。すべては右肩上がりで解決するのです。

■会社経費で「飲み屋の支出はゼロ」

【原】コツコツやられて来られたことがひしひしと伝わってきます。トヨタの現場でも「当たり前のことを当たり前にやれ」とよく言われていたことを思い出しました。いわゆる「5S」という整理整頓や清掃って小学生でも知っている当たり前の動きですが、徹底していましたからね。

【宗次】そう、「誰もができることを誰もができないほど続ける」というのは重要ですね。

【原】そう言えば宗次さんも清掃で有名ですよね。

【宗次】ええ、今でも毎日掃除していますよ。朝4時30分くらいに起きて、掃除は90分やっています。

【原】ものすごい早起きですね。

【宗次】以前は3時55分起きで「日本一の早起き」を自称していたんですけどね(笑)

【原】ココイチの経営をしている時は夜のお誘いも結構あったんではないでしょうか?

【宗次】ありましたね。でもクラブ・スナックは一回も行ったことありません。会社の経費のなかで飲み屋の支出はゼロでした。

【原】飲み屋の支出がゼロ。すごい。

【宗次】でも夜遅くまで仕事することはしょっちゅうありました。一番多かったのは店舗が気になっちゃって帰れないことですね。1軒見に行ったらもう1軒、と気になってなかなか家に帰れませんでした。

【原】さすがの現場主義ですね。店舗間の移動は運転手さんによる送迎ですか?

【宗次】いえ、車でしたが自分で運転していました。

【原】ご自身で! では、車内ではクラシックでも流しながら運転されていたんでしょうか。宗次さんと言えば専用のホールを作ってしまうほどクラシックがお好きで有名ですものね。

【宗次】いや、車のなかでクラシックも聞いたことが無いですね。完全に遮断していました。その代わり、会議中の音声テープや朝礼の音声テープを車内で聴いていましたね。

【原】わあ、これが「超現場主義」というやつですね。

【宗次】まあ、常に仕事が気になっていましたので。それぐらい経営って面白いですよ。

【原】ある意味、ものすごい狂気的ですよね。でも、ベンチャーのトップって総じて何かにとりつかれたように狂気的ではありますよね。

【宗次】そうかも知れません。だから経営者が「休日出勤」や「残業時間」というのを気にするのはおかしいですよね。全方位に目を向けなければなりませんから時間なんて幾らあっても足りません。極論ですが、休みが欲しかったら、社長になるなということです。

【原】だから早起きにもなる、と。先ほどの「誰もができることを」というのに早起きも含まれますものね。

【宗次】そうですね。私は「通勤ラッシュ」というものの意味が分からなかったんですよね。

【原】「なぜみんな同じ時間に集中して電車に乗るのか?」ってことですよね。確かに。

【宗次】なにか私には分からない喜びでもあるのでしょうか?(笑)

【原】いや、無いと思います(笑)。トヨタの現場でも「現状を常に否定して最善の方法を探求していく」という考え方が当たり前でしたから、私も早くから通勤ラッシュは避けるようになりましたね。

【宗次】なんで皆、もうちょっと早いのに乗らないのでしょうかね。今の時代、朝7時くらいならあいているお店も結構ありますものね。

■やるまでは簡単に考える。始まったら真剣に

【原】疑問に思ったことや仮説を立てたことをすぐに行動で確認していく、という動きは重要で、トヨタの現場では「巧遅より拙速」とよく呼ばれていました。拙くてもいいから速く動いて仮説の検証をしていこう、と。

【宗次】速く動く、というのは大事ですね。私も経営者としての重要な能力に「せっかち」というのがあると思っています。まずやること。

【原】拙速とせっかち、似ていますね。

【宗次】速く動くと失敗するし、腹が立つことも多いんだけれども、「早めに結論が出る」ということが何よりのポイントですよね。結論が出れば対応できますから、おっとりよりもせっかちです。ビジネスなんて、やってみないと分からないことばかりですし。

【原】トヨタのショールームでは、お店でよく集客施策を考えたりするのですが、その集客アイデアも「まずやってみよう」という考えですね。やりながらお客様の反応を見て修正していこう、と。ところが多くの企業では企画段階でしっかり固まらないとゴーサインが出ないというパターンがほとんどみたいですね。

【宗次】まず動いてほしいですよね。それから、行動の前提となる「目標」を持ってほしいと思います。若者に対して「夢を描け」とかよく言われますが、夢なんて見ていてもただ見ているだけで終わってしまう。今年はどうしたい、とか今週はどうしたい、とか具体的な目標達成の連続で夢というのも達成できるわけです。

【原】今の世の中は変化が激しいので長期的な目標設定がしにくくなっていますしね。

【宗次】目標を設定するということについての姿勢は今も昔も一緒だと思います。ただ、今の時代は楽しいことが多くて流されてしまいがちでしょうね。手元のスマホを開けば楽しいことが一杯ですものね。どうでもいいような情報にまでアクセスしやすくなってしまっているので自分をコントロールすることが難しくなっているのは確かですね。

【原】そういった意味では、宗次さんは着実にご自身の目標をクリアされていますね。ココイチを手放した後は、ずっとお好きだったクラシックで事業をされていらっしゃいます。これは長期的に設定されていた目標だったんでしょうか。

【宗次】いえ、行き当たりバッタリの成り行きなんですよ。

【原】そうなんですか、てっきりココイチ時代から「好きなことを仕事にするぞ」ともくろんでいたのかと。

【宗次】引退した時は何も考えていなくて、引退した翌々日に「さあ何をやろうか」と考えました。福祉とクラシックに関心がありましたので、自宅でサロンコンサートをやることになったのですが、名古屋にたまたま土地があって買っていったらあれよあれよとコンサートホールを創ることになったのです。

【原】はじめからコンサートホールを創るつもりではなかったんですね。

【宗次】そう、行き当たりバッタリです。ココイチの前にやっていた喫茶店も、ココイチも、やるまではいつも簡単に考えてある日突然、行動するんです。そして、やり始めてから真剣に向き合って考えるんです。

【原】まさに拙速、いや「せっかち」でやってこられたと。

【宗次】事前にいろいろ考えすぎて動くことをやめてしまうのではなく、まずやってみることですね。そうすると、やりながら鍛えられていくはずです。ただし、中途半端に動くのではなくて、自分の身をささげるつもりで全力を出し切ることが肝心ではないかと思います。

----------

宗次 徳二(むねつぐ・とくじ)
カレーハウスCoCo壱番屋(ココイチ)創業者 1948年石川県生まれ。67年愛知県立小牧高等学校卒業。同年、八洲(やしま)開発株式会社入社。70年大和ハウス工業入社。73年岩倉沿線土地開業。74年喫茶店バッカス開業。78年カレーハウスCoCo壱番屋創業。82年壱番屋設立、代表取締役社長に就任。98年壱番屋代表取締役会長就任。2002年壱番屋創業者特別顧問就任。著書に『CoCo壱番屋 答えはすべてお客様の声にあり』(日経ビジネス人文庫)、『夢を持つな! 目標を持て!』(商業界)などがある。

----------

(壱番屋創業者特別顧問 宗次 徳二、プラスドライブ代表取締役 原 マサヒコ)