一辺が5mmのサイコロを円筒の中にざざーっと入れ、一定の力で左右に回し続けると3時間〜1日程度でほぼ全てのサイコロがキレイに整列し、隙間なくみっちりと詰まった状態になることが研究で明らかになっています。この技術は、粒子状の物質を整列させる必要のある産業分野や、宇宙の無重力空間での加工技術への応用が期待されています。

Physics - Focus: Dice Become Ordered When Stirred, Not Shaken

https://physics.aps.org/articles/v10/130

細かい粒子を整列させるという行為は、砂と小石を混ぜてセメントを作る建設業や、材料を均一に混ぜ合わせて医薬品を作るといった医薬品分野などさまざまなケースで広く行われています。重力のある環境では、粒子状の材料を入れた容器に振動を与えたり、外部からコツコツと叩いたりすることで、内部の粒子の重なりに「緩み」を作りだし、内部に残っていた余分な空間をギュッと圧縮することで全体の体積を小さくすることができます。

これと別の方法を模索してきたスペインのナバーラ大学のディエゴ・マザ氏らの研究チームは、筒状の容器に粒子状の物質を入れ、筒を回転させることで物質をぎゅっとまとめることが可能かを調査しました。

実験ではまず、上向きに設置した円筒の中に5ミリ角のサイコロ2万5000個を流し込みました。その状態で、筒を上からみて時計回りと反時計回りの方向にひねる動きを一定の強さで加え続け、粒子の変化を検証。すると、以下のように最初はバラバラに積み重なっていたサイコロが、一定時間の後にはまるで機械で精密に敷き詰めたように整列した状態へと変化したとのことです。



by K. Asencio et al., Phys. Rev. Lett. (2017)

この現象は、筒が回転することで生じる遠心力によってサイコロが筒の壁面へと押しつけられる力と、回転が反転する際に生まれる振動の加速力の両方がサイコロに加わることで起こるものとみられています。特に反転時の加速力は結果に大きな影響を与えており、加速力が「0.5G」を超えると整列に要する時間は大幅に短縮されるとのこと。筒の反転周期が約1秒の状態で0.5Gの加速度を加え続けると、最終状態に達するまでのサイクルは1万回程度とのことで、1サイクル=1秒で計算すると1万秒、つまり2時間46分程度で整列が完了したということになります。

一方、加速度が0.5Gを下回ると整列が行われるペースは一気に停滞し、10万サイクルを経ても筒の中心部のサイコロはバラバラの状態が続いていたとのこと。現状を目の当たりにしたマザ氏は、全てが整列した状態になるには10年以上かかるのでは、とみています。

サイコロの並びを上からみると、加速度が弱かった場合(a)だと並びがランダムになっているのに対し、加速度が強かった場合(b)だとほぼ全てのサイコロが同心円を描き、なおかつ中心から放射状に並んでいる状態になっていることがわかります。



マックス・プランク研究所に属する「Dynamics and Self-Organization」(動力学および自己組織化研究所)のマティアス・シュレーター氏はこの現象を、液体の中に含まれるコロイド粒子が集合する際にみられる「結晶秩序」と同じメカニズムが、サイコロが壁面に触れる際に生じていると指摘。遠心力と加速力によって、まず最初に一番外側のサイコロが壁面に隙間なくピタッと添う状態になることで、別の新たな「壁面」が生まれます。そしてその1段内側にあるサイコロが同じように壁面を作り……という現象が内側に向かって起き続けることで、全てのサイコロが整然と揃う状態が生みだされるものと考えられているというわけです。

マザ氏は、この手法が従来の手法では整列させることができなかった物質の取扱いに応用できると考えているとのこと。また、重力のない宇宙空間でも地上と同じような整列化を行えると展望を語っています。